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第2話  そのフグ、最弱につき


 俺の丸っこい肉体フォルムに激震が走る。

 お、おいおい嘘だろ!?

 俺はマジのマジで、『フグ』に転生しちまったのか!?


「ぷくくー!」


 じたばたと手足を動かしてみるが、人間の四肢の感覚はなかった。

 代わりに、背びれや尾びれがパタパタと動く。

 それに伴って自分の体が上下に揺れ、前や横に進むことができた。

 オーマイガッ!

 ていうか、ちょっと待てよ。

 俺がフグに転生して、さらに何不自由なく生きているということは、ここは――――


「…………ぷく」


 周囲の濁った紺色の闇に目を向けると、視界の端で小さな気泡がぶくぶくと泡立ちながら上に昇っていった。

 ここはてっきり死後の無の空間かと思っていたが、違う。

 海の中だ!!

 しかも周りの暗さからして、結構深い場所なんじゃないのか!?

 す、少なくとも、辺りの様子と静けさからして浅瀬の様相ではない。


 や、やばいやばいヤバイ!

 早く海面に上がらないと!

 いや、もうフグに転生しちまったからには、このまま深海に留まってた方がいいのか!?

 でもこんな娯楽も刺激も何もない闇の中で死ぬまで孤独に人生ならぬフグ生を遂げろなんて発狂不可避案件だ。

 前世の記憶や価値観もバッチリ引き継がれてるし、まともな人間の意識が宿ったフグにはあまりにもキツ過ぎる状況。


「ぷく、ぷく、ぷく!」


 とにかく俺は上へ上へと泳いでみた。

 必死に懸命に慣れないヒレを動かし、深海を遊泳する。

 が、どこまで進んでも果てしない濁った紺色の闇が続くだけだった。

 このまま進んでいったら、いずれ上下の感覚が分からなくなってしまいそう……!


 そ、そうだ!

 こういう時こそ、さっきのナビゲーターみたいな謎システムさんに聞いてみよう!

 しかし、どうやって呼び出せば?

 とにかく、叫んでみるか。

 おーーーい!!

 さっきのステータス教えてくれた人ーーー!!

 もう一回出てきてくれーーーー!!!


《ステータスを確認しますか?》


 来た来た来たァ!!

 脳内に人工音声が響き、目の前にウィンドウ画面が現れる。

 ちなみに俺は今も泳ぎ続けて移動中だが、目の前のウィンドウ画面も自動的についてきていた。

 移動中も画面を見れるので、便利な仕様である。


 ち、ちょっとここがどこなのか教えてくれませんか!

 あ、あとこれからどうしたらいいのかとかアドバイスも貰いたいんですが!!


《現在のシステム機能を超越した内容のため、回答不能です。その質問に答えるには、〈鑑定〉と〈知者の導き〉の両スキルを同時に取得してください》


 な、なんだとぅ!?

〈鑑定〉と〈知者の導き〉!?

 それにスキルって……これはいよいよマジもんの異世界転生臭が漂ってきやがったな。

〈鑑定〉は定番スキルの一つだが、〈知者の導き〉は聞いたことがない。

 スキル名から察するに、アドバイザー的な感じだろうか?

 ともかく、まずは情報がなければ何も始まらない。

 スキルを取得しよう。


 でも、スキルってどうやって手に入れるんだ?


《スキルは『スキルポイント』を消費することで入手可能です。また、『称号』を獲得したり特殊条件を満たすことでもスキルが追加されます》


 なるほど、スキルの入手方法にはいくつか種類があるらしい。

 だが、一番簡単そうなのはスキルポイントを使ってスキルを購入する方法だな。

 ん?

 ていうか『スキルポイント』って単語どっかで見たような……あ、さっきの俺のステータス画面か!


 俺はもう一度、自分のステータスを表示させた。


 ――――――――――――――――――――

 名前:フグ(仮)

 種族:ノーマルパファー

 レベル:1

 HP:25/25

 MP:100/100


 物理攻撃力:100

 物理防御力:50

 魔法攻撃力:50

 魔法防御力:50

 敏捷性:10

 器用さ:50

 スタミナ:50


 スキル:なし


 スキルポイント:200


 称号:転生者、フグの加護

 ――――――――――――――――――――


 あった!

 スキル欄の下にあるスキルポイントの項目。

 そこには、スキルポイントが『200』とある。

 これでスキルを買えってことか。


 で、さっきの〈鑑定〉と〈知者の導き〉? とやらを手に入れるには何ポイント必要なんだ!


《取得可能なスキルリストから〈鑑定〉と〈知者の導き〉を検索します》


 一秒ほどでウィンドウ画面が切り替わる。

 検索はえーな!


 ――――――――――――――――――――

 スキル:鑑定  20ポイント

 スキル:知者の導き  100ポイント

 ――――――――――――――――――――


 えええっ!?

 ち、〈知者の導き〉高くね!?

〈鑑定〉は20ポイントでリーズナブルだってのに、〈知者の導き〉の方は三桁突入してますやん!?

 俺の手持ち200ポイントしかないのに、その半分持ってかれるんだけど……!


 お、おいこれどうする?

 序盤のスキル分配は恐らくめっちゃ重要だぞ。

 かつて読破してきたネット小説の主人公は皆そう言ってた。

 ここが異世界だってんなら多分モンスターみたいなのもいるだろうし、そいつらと出くわしたとき用に攻撃スキルや防御スキルなんかも取得しておきたいんだが……。

〈知者の導き〉を買ってしまうとそれも危うくなる。

 果たしてこのスキルにそれほどの価値があるのか……?


《現在のシステム機能を超越した内容のため、回答不能です。その質問に答えるには、〈鑑定〉と〈知者の導き〉の両スキルを同時に取得してください》


 うるせぇ!

 今のは質問したんじゃなくて独り言だっつーの!

 ぐっ、しかし情報は時に命より重いことすらある超重要なモノ。

 こうなったら俺も腹を括ってやる!

 俺はお前に賭けるぞ、〈知者の導き〉!!


 さっきのシステム音声!

〈鑑定〉と〈知者の導き〉のスキルを俺にくれ!


《――スキルポイントの清算が完了しました。〈鑑定〉および〈知者の導き〉がステータスに追加されます》


 ぽわわっと俺の魚体が淡く光った……気がする。

 スキルが宿った証だろうか?

 体には特に何の変化もないが、脳内に人工音声が流れた。


《システムの一部機能が解放されました。これに伴い、より複雑な内容の会話・質問への対応が可能となります》


 よっしゃ!

 なんかよく分からんがシステムが進化したらしい!

 高いポイント出して買ったんだ。

 100ポイント分の働きはしてもらうぞ〈知者の導き〉さんよぉ。


 まずは早速質問!

 俺がいるここはどこなんだ?


《ここはメシアネス王国北西端に位置する"海の魔境"、『滅びの呪海』内に存在するデストラクション海溝――水深二〇九九九メートル地点。通称、『ニルの深淵』エリアです》


 ……………………はァあああっ!?


 ちょ、ちょちょ、ちょっと待て!

 いきなり色々と情報の暴力でぶん殴られたから思考がフリーズする。

 王国名とか魔境とかなんか異世界っぽいワードが出てきたけど、それよりも最後の内容だ。

 水深が――二万メートル超えだと!?

 たしか地球で一番深いマリアナ海溝ですら一万メートルちょいだったのに、ここはその倍もあるのか!?

 つまり、地球なんて比べ物にならないくらい巨大で深淵な絶望の深海ってことかよ……!


 こ、これはちょっと想定してたよりもマズイかもしれない。

 ていうか、この異世界に転生させた神みたいなのがいるんだとしたら、何で初期リスポーン地点がこんな深海なんだよ!

 もっと海面付近に誕生させてくれてもよくね!?


「――ぷくっ!?」


 驚愕と焦りと憤慨に我を失っていた俺は、ゴンッ! と何かに顔がぶつかった。

 その衝撃で、海中でのけ反ってしまう。

 どこもかしこも濁った紺の闇だからあまり前を見てなかった。

 もしかして、海底の岩山にでも衝突したのか?

 壁みたいな感じだったし。

 そう思って軌道修正しようとした瞬間、鑑定スキルが自動的に発動した。


 ――――――――――――――――――――

 名前:深淵古魚竜ニル・シーラカンス


 【鑑定が無効化されました】

 ――――――――――――――――――――


 瞬間、キィン! と白い光の玉が浮かび上がった。

 深海の闇に突如として発生した光源。


 俺の体の何倍もの大きさの光の球体の正体は――――シーラカンスの()()だった。




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