第14話 ライフプランはアドバイザーに相談
現状の俺のステータスと、諸々の追加情報も含めてスキルの理解は深まった。
それを踏まえて、アドバイザー君に聞きたい。
ぶっちゃけ、これから俺が取得した方がいいスキルとかってある?
《念のため、逃走系スキルや防御系スキルの候補はいくつか見繕っておきましたが、マスターがこの表層エリアに留まるおつもりでしたらどちらもあまり必要ありません》
ああ、この表層エリアは雑魚しかいないからだったっけ?
一般的に強いのか弱いのかは知らんが、たしかにこの辺りで俺よりも格上の海魔とは遭遇したことがない。
〈暴君〉の称号効果を使えば皆一心不乱に逃げていく。
《そのため、今後はマスターのライフプランに合わせたスキル構成を整えることを推奨します》
そんなFPさんみたいな。
でも、そうだな。
俺のライフプランか。
もうフグに転生してしまったのは受け入れるしかないし、異世界の魚類として何を目指し、どう生きていくかを考えなきゃな。
………………うん、考えたけど分からん!
「ぷくぷく~……」
ダメだな。
"フグとしてどう生きるか?"なんて問いがぶっ飛びすぎてて回答がムズすぎる。
哲学者でも難題だろ、これ。
こういう時は"何をやりたいか"ではなく、"何をしたくないか"や"絶対に譲れないモノはなにか"に思考をシフトするべきか。
そうだな。
譲れないものだが、まずは自分の命!
この命は何に変えても守らなければならない!
何を当たり前のことを、と呆れられるかもしれないが、そんな野郎はちょっとこの海で水泳でもやってから言え。
マジで一寸先は捕食だからな。
俺が深海から海面に上がるまでにどんだけ死闘を繰り広げたと思ってやがる!
いのちだいじに!
これは絶対に忘れちゃならねぇ!
「ぷくぷく!」
さて、次に"何をしたくないか"だが……。
まあ、やっぱ避けて通りたいのは戦闘だろうな。
格下の海魔と戦うならまだいいが、シーラカンスやリヴァイアサンなんかの深海の超巨大生物との邂逅はもう二度とゴメンである。
どちらもたまたま逃げ切ることができたが、あんなもん次に出会ったら死ぬ自信しかない。
だからもう俺は深海には潜らないぞ!
あんな魑魅魍魎が跋扈してる伏魔殿なんか常人が立ち入って良い場所じゃねぇよ。
今思い出しても寒気がする!
軽くPTSDなるわ!
「ぷくぷくっ」
ざっと考えたけど……大体こんなモンか?
一応やりたいことリストの一つには、俺と同じ『転生者』である人間に会ってみたいというのがある。
あ、あとこの異世界の現地人も見てみたいな。
ただ、多分俺も海魔の一種だから下手に人間とコミュニケーションを取ろうと近付いたら討伐される可能性があるから迂闊に手出しはできないが。
まずこの異世界の人間がどれくらい強いのか知らんし。
《現在のマスターのライフプランであれば、延命系スキル、補助系スキル、回復系スキルなどの取得を推奨します。また、これらを統合・発展させた、より上位の聖属性スキルの取得を検討しても良いかと》
聖属性スキル?
ちなみにそれってどんなの?
《現在のマスターに取得権限のある聖属性スキルの一部を検索します》
目の前にウィンドウ画面が現れる。
――――――――――――――――――――
エクストラスキル:聖者の祈り 1000ポイント
エクストラスキル:聖装 1500ポイント
エクストラスキル:天使の癒し 1250ポイント
エクストラスキル:救いの抱擁 1500ポイント
エクストラスキル:神聖なる天啓 2000ポイント
――――――――――――――――――――
たっっっか!!!
ポイント高すぎるって!
今の俺の保有スキルポイントじゃどれか一個しか買えないじゃないか!
中にはそもそも全スキルポイントを擲っても取得できないやつもあるし!
〈神聖なる天啓〉の二千ポイントって価格設定どうなってんだ!
人に取得させる気ないだろ!!
《聖属性スキルは取得難度が極めて高い属性の一つです。一部の例外を除き、人間でも聖属性のスキルや魔法を身につけるには長期間の神聖空間での鍛練が必要となります》
人間でもおいそれと発動できない能力ってことね。
でも"一部の例外を除き"って、どういうことだよ。
《この世界には生まれながらにして神々の祝福を受けた寵児が稀に誕生します。そのような者は幼い頃から高い能力を有しており、中には苦もなく聖属性の力を行使する者も存在します》
なるほどね。
生まれながらの天才みたいなもんか。
しっかしお母さんのお腹の中にいる時点ですでに神々の祝福を受けてるとかすげぇな。
しがないフグに転生させられた俺からしたら羨ましい限りだ。
「ぷくぅ~」
しっかし、俺のスキル構成はどうするか。
話を聞いてる限りだと聖属性スキルは俺にはまだ敷居が高そうなんで、もうちょっとリーズナブルな一般的なスキルでも見繕ってもらうか?
海面にぷかぷかと浮かび、闇カモメが飛び回る青空を眺めながら思考を巡らせていると、不意に〈探索〉に反応があった。
なにか赤いアイコンがこちらに近付いてくる。
これは海魔を現すアイコンだ。
しばらく待っていると、海面がバシャバシャと揺れ始め、ウォーターバイクのような水飛沫が接近してくる。
ん?
なんだアイツは?
〈鑑定〉を発動させる。
――――――――――――――――――――
名前:クラーケン
レベル:42
HP:2783/2783
MP:4999/4999
物理攻撃力:3481
物理防御力:2915
魔法攻撃力:4657
魔法防御力:3081
敏捷性:3664
器用さ:2691
スタミナ:4001
エクストラスキル:再生
スキル:高速遊泳Lv.10、触腕術Lv.10、墨、水流、水弾
――――――――――――――――――――
俺に向かってきているのは、巨大なイカの海魔――クラーケンだった。
ファンタジー作品じゃ有名なモンスターの一種だな。
この世界にもいたとは。
リヴァイアサンと遭遇してドラゴンという生物を始めて見た時のような感慨深さを覚えている。
もっとも、今回のクラーケンは俺よりも弱いっぽいのでリヴァイアサンの時のような恐怖を抱くことはない。
ってなわけで。
「ぷくぷく~!」
俺はぷくぅと体を膨らませて威嚇する。
こっちはスキル構成考えてんだ!
邪魔してんじゃねぇ!
あっちいけイカ野郎!
出しっぱなしになっていた〈暴君〉の影響範囲内に侵入したクラーケンが、途端に顔を歪ませる。
「――ギュア!? ギュュアアアアア!」
クラーケンは身を怯ませながら俺がいる場所を迂回して泳ぎ去っていった。
有名なファンタジー生物でちょっと興味をそそられたが、まあ俺より弱いしな。
脅威にはなり得ないので、一旦今はスルーしておく。
「ぷくっ?」
その瞬間、またしても〈探索〉に反応があった。
それも複数。
三つくらいのアイコンが重なっている。
新手の海魔かと思ったが……これまでとは様相が違う。
なぜなら――対象を表すアイコンの色が青色になっていたからだ。
なんだこれ?
俺から逃げていくクラーケンは赤色のアイコンでどんどん遠ざかってるっていうのに。
その疑問には、すぐに回答が提示された。
《青色のアイコンは、魔物以外の知的生命体を表しています》
……それはつまり?
《非常に高い確率でそのアイコンの先には――――この世界の『人間』が存在していると推測します》