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第12話  海面が見えてきた!


 俺はフグの体を空気で膨らませ、漏れ出た気泡と共に海中を浮上していた。

 道中は魔力プランクトンらしき煌めいた霧も見えず、そのせいか海魔にも遭遇していない。

 海魔は魔力プランクトンに集まるが、普通に海の中を泳いでるだけではあまりエンカウントしないのかな?

 海は広いということだろうか。


「ぷくぷく~」


 ちなみにだが、バレットシュリンプと万眼まんがんウツボの完食を果たしたものの、〈奪食だっしょく〉でスキルを奪うことはできなかった。

 まあスキルを奪える確率は低いって言われてたから別にいいんだが、ちょっと期待してたので残念でもある。

 特にあのウツボの〈魔眼〉のスキルとか奪えたら良かったのに。

 魔眼を駆使するフグとかカッコよくね?


「ぷくっ?」


 ふと見上げてみる。

 辺りの様相はだいぶ変わっている気がした。

 海魔は見当たらないものの下部に堆積した砂やデコボコした岩窟が増えている。

 そこに生息する、恐らく海魔ではない一般の海の生物たちも見え隠れしていた。

 主に貝やヒトデや海藻である。

 海に潜れば普通に発見できる海洋生物であるが、今の今まで俺は見たことがなかったのだ。

 ああ、貝に関してはアンモナイト先輩と出会ったけど、あれはイレギュラー枠なのでノーカンである。


 なんかようやくちゃんとした海らしい環境に変わってきたな。

 俺は嬉しいぜ。


《お知らせします。ただ今、『恐怖なる海牢』エリアを抜けました。現在の水深は二〇〇メートル――表層エリアに突入しました》


 カッ、と目を見開く。

 俺は心の中でガッツポーズをした。

 左右のヒレにも思わず力が籠る。


 ついに……ついにっっ!!

 あと二〇〇メートルで俺は海面に出られる!

 異世界のお日様を浴びることができるぞ!

 永遠に暗闇が広がる深海を抜け、愉快で凶悪な海魔たちから逃れ、ようやく俺は安寧の地にたどり着くことができるのだ!


「ぷくぷくぷく~!」


 ルンルン気分で海面に上がるのと同時に、僅かな懸念が胸中を掠めた。


 しかし、海面に出たら何をしようか?

 今まではがむしゃらに浮上することしか考えてなかったけど、俺は突然この異世界に転生しただけの存在だ。

 つまり、生きる目的とか使命とかはない。


 だが、この海の表層で雑魚狩りしてぬるま湯に浸かったような生活を一生送るのか?


 それは……なんか嫌だな。

 前世ではブラック企業で心身共にすり減らしていて、たまの休日の釣りだけが心の癒しだったが……。

 しがないフグに転生した今、どうせならこの異世界を全身で味わい楽しみ尽くしてやりたいという思いがないと言えば嘘になる。


「…………ァァ」


 不意に、不気味な重低音が響いた。

 なんだ?

 音が聞こえてきた方角に目を向ける。


「……グァァ……ァァ!」


 なにか、ドドドド……と波が伝わってくる。

 まるで大軍が行進をしている地響きのような。

 今やレベル八十に到達した俺はあまり恐怖はないが、また新手の海魔かと思い一応その場で停止した。

 しばらく待っていると、無数の黒い影が遠方から姿を現す。


「ギュアアアアアアア!」

「ギュブァァァアアア!!」

「グァァァァアアア!」


 現れたのは、魚の頭を持った人型の生物の群れだった。

 体は四肢を有しているものの、全身は青い鱗で覆われていて、手にはもりのような武器を携えている


 な、なんじゃアイツら!?

 半魚人か!?


 お前の出番だ、〈鑑定〉!


 ――――――――――――――――――――

 名前:半魚人魔はんぎょじんま

 レベル:21

 HP:941/941

 MP:463/463


 物理攻撃力:810

 物理防御力:681

 魔法攻撃力:236

 魔法防御力:659

 敏捷性:517

 器用さ:304

 スタミナ:921


 スキル:高速遊泳Lv.10、音感知、集団行動

 ――――――――――――――――――――


 名前は半魚人魔はんぎょじんま……異世界の半魚人ってとこか?

 見た目も気持ち悪いが、何より目を引くのはその数だ。

 あれ多分、余裕で百匹とか越えてるぞ。

 うじゃうじゃと大群で湧いて、全員でこちらへ突進してきている。


「ぷくぅ……」


 つーか、あれって俺を襲いに来てんのか?

 〈鑑定〉で見たところレベルもステータス値も雑魚だから戦っても勝てるだろうが、さすがに数がやべぇから全部相手にするのは面倒くさい。


 どうにかあいつら蹴散らす全体攻撃スキルとかなかったりしない?


《攻撃スキルではありませんが、全体に影響を及ぼす露払いの効果でよろしければすでにマスターは獲得されております》


 え、そんなスキルあったっけ?


《スキルではなく、『称号』の効果です。マスターが獲得されている〈暴君〉の称号による影響を発動すれば一定の露払いの効果が得られます》


〈暴君〉か。

 そういやそんな称号も獲得していたような。


 ごめん、それってどんな効果だったっけ?


《〈暴君〉:周囲に存在する自分よりも低レベルの生物を怯ませることができる。任意でオンオフが可能》


 あー、はいはい。

 思い出した。

 こんなのあったね。

 スキルの方はそれなりにしっかりと見てたんだけど、称号の方はちょっと忘れてたよ。


「ぷくぷく」


 自分より低レベルの生物を怯ませる、か。

 たしかに半魚人魔は俺よりも明らかに格下の海魔だし、効果はありそうだな。

 それに任意でオンオフが可能ってあるけど、通常時はオフで設定されてるってことか。


《マスターは〈暴君〉を獲得したばかりでしたので、自動的に通常時はオフで設定されています。しかし、マスターの意思で通常時から〈暴君〉の効果をオンにすることも可能です》


 つまり〈暴君〉を常に発動しっぱなしにしておけば、雑魚しかいないエリアにおいては勝手に向こうから怯えて逃げていってくれるってことか。

 一々雑魚の相手をしないで済むのは楽そうだな。


 何はともあれ、どんなもんか一度使ってみるか。

 俺は半魚人魔の大群に向き直る。


 発動――――〈暴君〉!


「ぷくっ!」


〈暴君〉を発動した瞬間、ビュオッ! と覇気のような波動が海を打った。

 目には見えないものの、周囲の緊張感が一気に高まっていく。


「グァ!?」

「ギュグァ!!」

「ギュバァァアアア!!」


 大群の先頭を泳いでいた半魚人魔が途端に狼狽えるように怯え始め、その恐怖と動揺は瞬く間に群れ全体に波及する。

 百を越える半魚人魔たちは徐々に統率を乱しながら、それぞれが逃げ惑うように俺を回避していく。


「ぷくぷく」


 そのまま尻尾巻いて反対方向に逃げるかと思っていたが、半魚人魔らは俺の周囲を避けるように迂回して泳ぎ去っていった。

 俺を中心とした球状の空間は避けるように、その周囲を数多の半魚人魔の群れが、ドドドドド!! と一挙に泳ぎ去っていく。

 水族館で集団で泳ぐイワシの大群を彷彿とさせるな。

 それをもっと気持ち悪くして迫力満載に進化させたみたいな体験である。


 ああ、もしかしてこいつら魚だからバックに泳げなかったりするのか?

 だから怯んでいるものの俺の方向に突っ込んできてフグを避けるように泳いでいったのかね。


 俺はポツンと一人ぼっちになった状態で憶測を立てたものの、まあどうでもいいかと思い考えを止める。

 半魚人魔たちは一心不乱に泳ぎ去ってしまい、もう姿が見えなくなった。


 さて、面倒な奴らも消えたところで気を取り直して海面に浮上しよう!

 今は水深二〇〇メートル。


 俺の目指す先はもう目と鼻の先だ!!




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