第11話 そこのけそこのけおフグが通る
襲来したデッドリーシャークを瞬殺した後、アドバイザーの忠告通り色々な海魔がうようよと現れた。
が、そのどれもが一発か二発の攻撃で倒れてしまう。
おい、これなんのバグだ?
これまで食物連鎖最下層の立ち回りを徹底して逃げ惑っていたっていうのに、ここに来て急に覚醒した??
そんなことを思っていると、また性懲りもなく新手の海魔が襲ってきた。
「ギチチチチィィィ!!」
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名前:バレットシュリンプ
レベル:54
HP:3016/3016
MP:3811/3914
物理攻撃力:6123
物理防御力:5188
魔法攻撃力:3456
魔法防御力:3219
敏捷性:3099
器用さ:3511
スタミナ:2692
エクストラスキル:弾丸打撃
スキル:高速遊泳Lv.10、殴打Lv.10、防殻、瞬転
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今度はエビの海魔か。
伊勢海老みたいな豪勢な見た目だが、腕が異様に発達している。
名前もバレットシュリンプだし、〈鑑定〉によって相手の所有するスキルを見る限りパンチ攻撃に自信がある海魔みたいだな。
まっ、近接に持ち込まなければ余裕だろう。
俺は〈毒属性の大器〉を発動する。
「ぷくっ!」
口の中に含んだ毒液の塊をバレットシュリンプに向けて吐き出す。
エビの甲殻に、ドゴンッ! と当たった毒の塊は一気に弾け、猛毒がバレットシュリンプを襲った。
「ギチィィイ! ギチチ……チチィィィ……!!」
しばらく静観していると、バレットシュリンプが動かなくなる。
霧状の毒に包まれて息絶えていた。
すると、立て続けに〈探索〉が反応する。
「ゴゴォォオオオ……!!」
次はなんだ?
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名前:万眼ウツボ
レベル:82
HP:6134/6134
MP:6822/8917
物理攻撃力:7139
物理防御力:5388
魔法攻撃力:6911
魔法防御力:5388
敏捷性:3511
器用さ:7185
スタミナ:8931
エクストラスキル:魔眼Lv.8、精神干渉Lv.5
スキル:高速遊泳Lv.10、威嚇Lv.10、とぐろLv.10
、水撃、巨圧、探索、
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現れたのは体中にギョロギョロと眼球をくっつけたウツボだった。
なんじゃこいつキモッ!?
あっちいけ!
俺は再び毒液を吐いてウツボに食らわせる。
「ゴォォゴゴオォオオオオ……!!」
ウツボは毒から離れようともがいている。
が、俺の毒は弾けると水中をじわじわと蝕むように拡散していくのでなかなか離れられない。
ちょっとでも体内に摂取してしまうと一気に毒が体に回る。
「ゴゥゴゴォォオオオ……!!」
ビュオッ! と海を切る感覚。
ウツボはもがいて身を翻すと同時に、長い尾の部分で俺に回転斬りを浴びせたきた。
だが、甘いな!
スキル発動、〈瞬転〉!
「ぷくぅ!」
俺は〈瞬転〉のスキルで瞬間的にその場を離れ、ウツボの尾の範囲外まで緊急避難した。
さすがにレベル八十を超えてくると一発KOとはいかないようだが、まだ大丈夫だ。
集中して本気でかかれば勝機は作れる。
ウツボは反撃してきたとはいえ俺の毒を食らっているので、恐らくこのまま放っておいても毒が回って死ぬだろう。
が、せっかくだから俺の最強技の一つで葬ってやろう!
俺は小さな体でウツボに突進していく。
食らえ――エクストラスキル、〈咬撃〉!!
「ぷくっ!!」
フグの鋭利な歯で、ウツボの脳天にガブリと噛みついた。
警戒色満載の斑模様のウツボの頭の皮膚を食い破り、内部まで歯を突き通す。
俺の〈咬撃〉は、噛みつき攻撃時に威力が上昇するエクストラスキル。
さらに元々有している〈フグの加護〉の効果でも噛みつき攻撃の威力が上がっているから、二重にパワーアップされている状態だ。
魔法みたいなスキル攻撃だけじゃなく、こっちの物理攻撃も舐めちゃいけないぜ!
「ゴゴォォオオオ……ァァアアアア……!!」
ウツボは振りほどこうと全身をうねらせる。
が、俺は絶対に口を離さない。
元々フグは顎の筋力が凄く、釣り針程度なら噛み切ってしまうくらいの個体もいるくらいだ。
ウツボの全身に浮き出た眼球が紫色の光を放つ。
直後、俺のHPがジリジリと減っていくのを感じた。
《"万眼ウツボ"のエクストラスキル、〈魔眼〉の効果によるダメージです。破滅属性を有しており、視線を合わすだけでHPが削られていきます》
おお、なかなか強そうなスキルを持ってるじゃねぇか。
だが、無駄な足掻きだ!
俺のHPが尽きるより、お前が倒れる方が早い!
俺はさらに顎に力を込め、噛みつきを強める。
すると、ウツボが徐々に脱力していき――ほどなくして沈黙した。
《――経験値を獲得しました。マスターのレベルが七八から八十に上昇しました》
《レベルアップにより、HP/MPが全回復しました》
《各種ステータス値が上昇しました》
アドバイザーの言葉で、戦闘が終結したことを悟る。
俺はウツボから口を離した。
ウツボは、ぷかぁと海中を漂っている。
《――条件を達成しました。エクストラスキル〈奪食〉を獲得しました》
最後に告げられたアドバイザーの無機質な言葉。
"エクストラスキル"という単語に反応する。
お、新しいスキルを獲得したのか?
スキル名は……ふむふむ、〈奪食〉か。
で、こいつはどんな便利スキルなんだ?
《奪食:低確率で捕食した生物が有するスキルをランダムに一つ奪うことができる》
おおっ、すごい!
捕食しただけで獲物が持っていたスキルを一個奪えるのか!?
なるほど、それで〈奪食〉ってことね。
まあどのスキルを奪えるかは選べないし、そもそも奪える確率も低いみたいだが、捕食する楽しみが一つ増えたぜ!
レベルもついに八十に到達したから、こりゃ百レベルの大台も夢じゃないな!
もし百レベルになったらどうなるんだろう。
なにかとんでもない進化を果たしたりするのだろうか?
ぐふふふ、最強フグに進化するのが待ち遠しいぜ……!
「ぷくっ」
小さなフグの体で熱い野心を燃やしていると、横に巨大なウツボの亡骸が浮かんでいることに気付いた。
そして少し離れた場所にはバレットシュリンプの死体も浮かんでいる。
もったいないからこのエビもウツボも食っとこっと。
戦って小腹が減った気もするし?
〈奪食〉でなにかスキル奪えるかもだし?
あ、ちなみに先陣を切って襲ってきたデッドリーシャークを始め、俺が倒した海魔はちゃんと全部捕食している。
めちゃくちゃ美味しいということもないが、食えなくはない程度の味だった。
フグは見た目に寄らず思いのほか大食いだからな。
食欲旺盛であるがゆえ、巨大なデッドリーシャークですらぺろっと完食してしまった。
この小さな体のどこに入ってるんだと自分でも不思議だが、なんか食べれば食べるほど力が湧いてくるような気がするんだよな。
そして目の前にはエビとウツボ。
食欲にかすかに火が灯る。
こいつら平らげてちゃっちゃと海面でお日様の光を浴びよう~っと。
「ぷっぷくぷ~!」
俺は意気揚々とフグ踊りを披露しながら、エビとウツボに齧りつくのだった。