9.怪文書拡散する
あるメールがあるところに届いた。
至急拡散されたし
あるゆるキャラの肖像権を中の人が要求したところ、
首を宣告されている。孤立させてはならない。
至急全国一斉の連帯行動求む。
誰の話か分からない。発信責任者も分からない。しかしメールは拡散されていった。
全国で有志達が一斉に肖像権の要求を始めた。
「ゆるキャラの肖像権は一生懸命動いとる、中の人にあるだべ」
「皆どう思っとるん?肖像権は中の人のだがやー」
全国に広がってはいたが、ゆるキャラ全員の動きではない。30人ばかりの動きである。しかし、いずれも有名なゆるキャラばかりなので某テレビ局がスクープした。と言うか、誰かが垂れ込んだのである。
是か非か、議論が沸き起こった。ゆるキャラの若いファン層は中の人の味方になった。しかし、決定するのはファン層ではない。決定権を持つ者はゆるキャラ毎に違っている。自治体の長であったり、企業の代表者であったり、団体のオーナーであったり、様々である。結論は簡単には出ない。幸か不幸か、決定権者は団結した。勿論、要求を認めない方向である。それでも、首の話は保留になった。ファン層の反感を買いそうであったからである。
決定権者のガードは堅かった。しかし、長引くに連れ、ゆるキャラの有志達も増えていった。決定権者達は結論を出さないまま、沈静化することを望んだ。
某テレビのリポーターとカメラマンがⅠ市の市長に直撃した。
「ゆるキャラの中の人を首にしたそうですね?」
「首ではない。自宅待機だ」
「市長にそんな権限あるのですか?」
「帰ってくれ。自宅待機を解除する。もう用は無いはずだ」
市長は2人を追い払った。
連帯行動は1人の首を取り戻したが、その後目に見える進展はなかった。運動は選択制ゆるキャラ姓の導入に重点が移った。
現在選択制夫婦別姓の導入法案が国会で承認間際まで進んでいる。これに学んで、ゆるキャラも社会的一員として認めてもらう運動である。中の人間は人間名とゆるキャラ名を選択できるようにするのである。社会的活動を、ゆるキャラで行い、名声を得ている場合、人間名よりゆるキャラ名の方が世間で受け入れ易いのである。つまり、ゆるキャラ名は人間名に対し、ペンネームのようなものである。過去にはペンネームで議員になったケースもある。それには本人とペンネームが同一であると社会的に認められていることが条件であった。そうであるなら、人間名とゆるキャラ名は同一であると世間に認められている場合、同様に認められるべきである。現在は声紋で同一性が証明される時代である。
半年の運動期間を経て、選択制夫婦別姓法案とゆるキャラ名使用法案が同時に国会を通過した。
「ヒャッハー、ゆるキャラ名使用法案が通ってしまったしー。僕は市長に立候補するなっしー」