表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/40

7.ゆるキャラは生きている

 全国物産展が開かれた。30人のゆるキャラが会場に集まった。終了後、別会場でゆるキャラだけの慰労会が招集された。自由行動ができない18人は他のスタッフと共に会場を後にした。

12人で慰労会が行われた。5人のゆるキャラが前回より入れ替わっている。ノンアルコール飲料とおつまみを囲みながら、和気あいあいと話を交わした。

それぞれのゆるキャラ達は会場で沢山の人に囲まれながら、孤独の時間を過ごしていたのである。着ぐるみで隔離されている為、普通の人間仲間と同じ付き合い方ができないのだ。ゆるキャラだけの慰労会は、同じ気持ちを持った者の集まりなので本当にくつろげるのだった。


「ヒャッハー、そろそろゆるキャラ人権会議を始めるっしー」

ミスタードーナッテンは初めての参加だったので<どうなってん>と思った。

 くまマンが立ち上がって言った。

「初めての顔ぶれもあるので少し我々の置かれている立場を説明します」

「ヒャッハー。あまり難しく言わないっしー」

「例えば、知事や社長の命令でゆるキャラが生まれたとします。この場合、知事や社長の命令でゆるキャラが殺されるかも知れない。ある日突然、他のゆるキャラに替わることもあり得る」

 ミスタードーナッテンは「殺される」の言葉に耳を疑った。

「運よく生き延びたゆるキャラは年を経る毎に人気が出て、有名になって行く。これは誰のお陰か?」

 誰も返事をしない。

「中の人が一生懸命演じているからだ」

「ヒャッハー。そうだ」

「中の人はゆるキャラの名声は自分に対する名声と思う。そしてだんだんと意思表示を増やしていく。そして中の人が他の誰かに取り替えられない様に、声やしぐさをますます個性的にする」

「ヒャッハー、わしのことやー」

「ゆるキャラはまず生き延びるために、一般大衆を味方にする。その上で、中の人と外の体は同一であるとアピールする。全国のゆるキャラは私を含めて大体似た生い立ちと思う」

 ドウナッテンは話が飲み込めるようになった。 

「当面の肖像権の確立運動は前進している。この運動はゆるキャラにとっては生存権につながる大事な運動なのだ。必ず全国に波及する。ここに確信を持とう」

「わしは著作権や意匠登録の話は聞くけんど、生存権の話は初めてじゃ。話が大きくなりすぎてないけん?」

 くまマンはゆるキャラ語は使わず、威厳を以て答えた。

「未だ肖像権の確立運動は途に就いたばかりだ。必ず妨害が始まる。これは権力闘争なのだ。必ず生存権を意識するようになる」

 ゆるキャラ達はキョトンとした面持ちで聞いている。

「皆、選択制夫婦別姓の話は知っているな?」

「知ってるなっしー。社会に出て活躍した女性が結婚したら姓が変わって不利になるちゅう話や」

「そう。だから姓を変えるか変えないかは選べるようにするという話だ。国民の6割以上が賛成しているのに、政権は反対している。なぜだと思う?」

 誰も答えない。

「政権は本能的に権力支配の邪魔になると思うのだ」

 皆、神妙に聞いているがあまり分かっていない。

 くまマンは続けた。

「我々の肖像権確立運動は必ず権力者と争うことになる。そして権力者は権力者同士で団結する。選択制夫婦別姓と同じ構図なのだ」

 皆、気持ちは同じなのにくまマンの話は難しすぎると思った。

 ミスタードーナッテンは思った。

<ゆるキャラになる前は何をしていたのだろう?>

「すみませ~ん。ぼく初めての参加なので肖像権確立運動が分かりませ~ん」

「ヒャッハー。内密に進めているので知らない者がいて当然だっし―。ゆるキャラの肖像権は中で演じている者にあると認めさせる運動だっしー。内密だけど急いで広げたいっしー」

「分かった、しー、アイシー」

 機転を利かせた返事に、全員が笑った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ