3.公然の秘密会議
10人ばかりのゆるキャラが集まっている。それぞれぬいぐるみの頭部分を外し、生の人間の顔を出している。公然の秘密会議をしている。
なぜ公然の秘密会議と言うか?それは公然と集まっているからである。イベントによって、1か所にたくさんのゆるキャラが集合する機会がある。その時に、ゆるキャラにしか分からない悩みの相談や、心の交流をする機会を作ったのだ。イベントが終わった後、1室を借り、ゆるキャラだけが集まり、お茶とお菓子を食しながら、だらだらとおしゃべりをするのである。このおしゃべり会が恒例化すると共に、だんだんと秘密会議になって行ったのである。
何度かの集いの後、<ゆるキャラ人権会議>という団体が結成された。議長にはくまマンが選出された。会議の出席者はその都度変わる。しかし最も常連なのがくまマンだったからである。
くまマンは威厳を持って言った。
「この間、だんだんと分かってきたことが有る」
おしゃべり会から、秘密会議に移ったことが分かり、全員の真剣な顔がくまマンに向いた。
「ゆるキャラの人権を求める運動をする前に、まずしないといけない事は肖像権の確立である」
全員がくまモンを見ながら、必死に言葉の意味を考えた。
「この間、全国の同志達が<ゆるキャラに人権を与えてくれ>と知事や市長に訴えた。帰ってきた言葉が『ぬいぐるみを脱いで辞めてしまえ』とか『君の代わりはいくらでもいる』だったそうである」
誰かが言った。
「私は訴えは未だしていませんが、常日頃そんなことを言われています」
くまマンが断定的に言った。
「ゆるキャラ人権会議の当面の目標は肖像権の確立とします。有名になったゆるキャラは中に入っている人間の肖像権がある。誰でも、そのゆるキャラを演じることは出来ない。とって代わることは出来ないというルールを確立することだ」
「そんなことできますか?」
「できる。1人ひとりでは出来なくても、全員が一斉に要求すればできる」
「よし、先ずは匿名で話題作りから始めよう」
「SNSを使って、ゆるキャラの中の人は肖像権を持っているのだろうか?と徹底的に話題にしよう」
「ヒャッハー、誰でも中に入れるのだったら、やる気がなくなるよねーって書いてやるっしー」
「お前、その言葉で書くなよ。直ぐバレてしまうから」