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目を覚ます者たち
夜が明けきらぬ城下の空気は、まだひやりと冷たかった。
薄青い光が市場の石畳を照らし始め、通りを掃く少年の箒の音が、誰もいない街角に響いていた。
その音を、寝台の上で目を開けた俺は、ぼんやりと聞いていた。
頭の奥で渦巻く情報の奔流は、相変わらず重く、鈍い痛みを残していたが、
それでも、不思議と心の中には一つの言葉が繰り返されていた。
「始めなければならない。」
重い体を起こし、机に散らばった書類の山を見やる。
そこには、王命として与えられた経済立て直しの勅命が、未だ開封されぬままの封筒の中で眠っていた。
(王は何を考えている?これを与えたのは、俺を試しているのか?
あるいは、ただの時間稼ぎか?)
それは分からない。だが、考えている時間はない。
俺は封筒を手に取り、蝋を剥がした。
そこに記された文字を見つめ、深く息を吸い込む。
「――なら、やるしかない。」
市場の通りでは、また一日が始まろうとしていた。
だが、その空気の奥底に、誰も気づかぬ微かな変化が生まれていた。
誰にも見えないところで、古びた城の片隅から、
小さな革命の種が、音もなく芽吹き始めていた。