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反乱の火種、内から潰える

アストリア特区の港で、DCS導入から一ヶ月が経過したある夜。

王都からの伝令が密かに届いた。

「貴族派の反乱計画、失敗に終わる。

首謀者三名拘束、十数名逃亡中。」


「…どういうことだ?」

カルムが訝しむ。

「反乱の首謀者は、旧貴族の保守強硬派だったはず。

だが、鎮圧を指揮したのは、貴族派内部の若手改革派だったらしい。」


その報告には、驚くべき一文があった。


『旧来の特権を守るための反乱は、我々が望む未来ではない。

これからの時代に必要なのは、時代の変化を受け入れ、適応できる力だ。』

――リシャール・ヴァルク公爵(若手貴族、改革派)

彼らは、DCSによって自らの「透明性」を突きつけられる中で、

「古き腐敗の上にしがみつくより、変化に賭けた方が得策だ」と判断したのだ。


「…変わるのか。

あの貴族たちも。」

俺は胸の奥で、微かな安堵と、それ以上に深い緊張を覚えた。

「だが、これは始まりに過ぎない。」


特区での初期成果:数字が語る変化

アストリア特区。

DCS試用開始から一ヶ月のレポートがカルムの手でまとめられ、俺たちの前に置かれた。


取引総件数:前年比+42%

未払い取引件数:-78%(DCS導入前比)

税収増加率:+35%

港湾物流効率:+27%

市民満足度調査:「信用の見える化」に対する肯定回答:62%

不満点:

・手数料負担の増加(特に小規模商人)

・信用スコア制度の理解不足による混乱

・信用回復のルール整備不足

「上出来だ。」

ギルベルトが低く笑い、サラはため息をつきながらも、微かに口元をほころばせた。

「これなら、他地域への拡大も見えてくる。」


だが、カルムが眉をひそめ、計算書を広げた。


システム維持コスト:理想の代償

「だが、大臣。これを見てください。」


カルムが示したのは、DCS運用に係る維持コストの試算だった。


素認証端末メンテナンス費用980,000EJ(=9.8×10⁵ EJ)市場・商館・役所に設置された認証端末のメンテナンス費用。魔素回路の再調整や符文修復が必要で、魔導技術者の派遣料も含む。


分散ノード維持管理費用(港湾・商会・中継所含む)1,250,000EJ(=1.25×10⁶ EJ)データ中継地点の維持コスト。港や商館、村落の中継所での魔力中継結晶の補充、保守魔法陣の再刻、設備の耐魔素処理など。


認証データの符号化・解読処理維持コスト(魔導師報酬含む)720,000EJ(=7.2×10⁵ EJ)取引データの改竄防止・検証業務。高位魔導師による暗号符号生成が不可欠で、特に複雑な符号化処理の報酬が高額。


システム管理職員・監査官人件費680,000EJ(=6.8×10⁵ EJ)信用スコア監査、システムトラブル対応、市民問い合わせ、データ改定作業などの労務費。夜勤・緊急対応の手当含む。


教育・啓発プログラム費用350,000EJ(=3.5×10⁵ EJ)市民へのDCS利用講習会、信用リテラシー教育、学校での出張授業、街頭イベントの実施など。民衆の理解促進のために重要な投資。


「……高いな。」

俺は唸った。

「特に魔素認証端末の維持費と、符号化処理の魔導師報酬が重い。

だが、削れない部分だ。」


「今のところは特区の税収増と、王室の予備金で回せますが…

これを全国に広げるとなると、相当な資金繰りを考えねばなりません。」

カルムが憂いを帯びた表情で言った。


「これが、理想の代償か……。」

俺は胸の奥で、重くその言葉を反芻した。


だが、ギルベルトが肩を竦め、薄笑いを浮かべた。

「だが、投資だろう?信用を作るのは、金貨を作るのと同じことだ。」

「回収できるのか?」

俺が問いかけると、彼はにやりと笑った。

「必ずな。信用は価値を生む。価値は流れ、税を生む。

その仕組みさえ作り切れば、金貨なんぞ、あとからいくらでも付いてくる。」


革命の歩みは止まらない

夜のアストリア港。

港の明かりの下で、積荷が行き交い、DCSの青白い端末が淡く光を放っていた。

その光の下で、商人たちがEJ端末を掲げ、

「信用、確認したぞ!」

「この取引、記録された!問題ない!」

そう叫び合う声が、海風に乗って広がっていた。


理想はまだ遠い。

課題は山積みだ。

だが、確かに――世界は変わり始めている。


俺は港の奥で、そっと呟いた。

「さあ…次の一歩だ。」



補足解説:DCS維持コストの重み


国家規模での出費感覚:

3,980,000EJは、パン約400万個分の価値に相当する。つまり、国全体で1ヶ月に400万個のパンを分配できるだけの価値を、DCSの維持に費やしていることになる。

これを「高すぎる」と見るか、「国家安定の代価」と見るかで、議論が分かれる。

市民から見た負担感:

小規模商人や庶民からは、

「DCSの恩恵はあるけど、税金や手数料として回収されてるじゃないか!」

という不満が生まれ始めている。

魔導師報酬問題:

DCSの維持には魔導師の専門知識が不可欠であるため、魔導師ギルドとの交渉力が国家の弱点となっている。

「魔導師が国家を牛耳っている」という陰謀論さえ一部で囁かれている。

教育・啓発の重要性:

DCSを正しく利用できる国民を育てるため、教育投資は不可欠。

これを削るとシステムの誤用や不信感が広がり、国家の安定を揺るがす危険がある。

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