信用の国際化と暗躍する影
「ジルガルドが信用の土台を独占しようとしている!」
「信用を作るのは各国の権利だ!技術を奪い返せ!」
各国の商館や港に、そんな声が飛び交い始めていた。
ラザーン港での成功事例が広がるにつれ、EJ技術をめぐる政治的駆け引きが表面化し、各国の思惑が交錯し始めたのだ。
国際検証機関設立への外交戦
王都に集められた各国の特使たちの前で、俺は提案を示した。
「EJ技術は、各国が独立した台帳を持つ形で運用されるべきです。
ただし、互いの取引記録を保証するために、国際的な第三者機関――"信用監査機構"(IAVC:Inter-Allied Verification Council)を設立することを提案します。」
会場にざわめきが広がる。
カルヴァの特使が険しい顔で言った。
「その機構の本部はどこに置くつもりだ?」
「…中立地に設置します。ジルガルドではない。」
「ふん、本当に中立で済むと思うのか?」
「だからこそ、監査委員会の議席は各国均等、議決権は平等、技術情報の管理権は分散させる。」
「我々は技術提供者であって、監視者ではない。」
言い切る俺の声は震えていたが、その奥には、必ず「信用の国際化」を実現するという覚悟があった。
暗躍する影
だが、会議の熱気の裏で、蠢く影もいた。
「…ジルガルドの技術中枢に潜入しろ。」
エルゼラの密偵団が動き、王都の魔法工房周辺で怪しい人物の目撃情報が相次ぐ。
カルヴァの商人ギルドは巨額の賄賂を積み、ジルガルドの若手技術者に接触を図り、
「ブラックボックス化されたアルゴリズムの断片」を盗み出そうとしていた。
「奴ら…技術だけ奪い、あとは切り捨てるつもりか…!」
カルムが憤る横で、サラは冷ややかに言った。
「分かってたことでしょう?信用が力になるなら、その力を奪おうとするのは当然よ。」
「…それでも、守らなきゃならないんだ。」
俺は拳を握りしめた。
「信用の基盤を、誰か一国のものにさせるわけにはいかない。」
新たな連携、そして理想の輪郭
一方で、希望の芽もあった。
メルディアでのEJシステム導入は着実に成果を挙げ、
「これがあるから、我々は取引の証明を持てる。信用を持てる。」
「ジルガルドの技術がなければ、この国は再び搾取されるだけだった。」
そんな声が農民たちから上がっていた。
さらに、南方の島国オリネスは、IAVC設立案に強く賛同し、
「信用を持つことは独立の証だ。我々はジルガルドのように、閉じた国から脱却したい。」
と熱意を示した。
未来へのビジョン
俺は夜の会議室で、魔法の光に照らされた世界地図を見つめていた。
各国に分散して配置されるEJ台帳、その間を結ぶ相互検証ネットワーク。
中立のIAVCが技術の監査と透明性を保証し、
各国は独立を保ちながらも、取引の「信用」を共有できる世界。
「もしこれが実現できれば…通貨を抱えて戦争する時代は終わるかもしれない。」
「戦うのではなく、取引で繋がる。信用で国が結ばれる。」
だが同時に、カルヴァの冷たい笑みと、エルゼラの鋭い視線が脳裏にちらつく。
「それでも…やるしかない。」
俺は深呼吸し、次の国際会議の議題案に手を伸ばした。
「戦いは続く。だが、この戦いは――価値のための戦いだ。」
「マナコード端末」
魔力で動作する結晶体。触れることでインターフェースが空中に浮かび上がる。
操作: 手の動きや魔力の流れで送金やトランザクションを実行。
セキュリティ: 使用者の魂紋(魂の指紋)でのみ認証可能。
比較的安価。素材に直接儀式的加工を施すことですぐに作れる。
《アルカナ・コンソール》
外見: 大型の魔導円盤(直径1m以上)、周囲を囲む水晶柱。中央に浮遊する「マナの核」。
操作方法:
魔力を流し込むと、空中に複雑なマジックサークル(UI)が展開。
取引データは光の紐として編み込まれ、手で結んだり解いたりして操作。
特定のジェスチャーや詠唱で署名や暗号化も可能。
用途:
高額取引、複雑なデリバティブ(魔力先物取引)、スマートコントラクトの作成。
新規トークン(アルケミートークン)の発行、ブロックの生成・承認。
リアルタイムの市場分析、資産の「霊的分散」管理。
セキュリティ:
魂律署名(ユーザーの魂波長を複雑な数式に変換)。
端末が持つ「結界フィールド」により、物理的な侵入を自動排除。
マナ残留検知:他者が触れた形跡を残すと、警告が表示される。