表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/34

流れは街を潤し、街は人を育む

南港の倉庫群が整備され、内陸へと続く「アルグレイド街道」はさらに広げられた。

土埃をあげて行き交う荷馬車の列。

港から王都までの主要路には「荷車優先路」の札が掲げられ、各所に中継所と馬の給水場が設けられた。


「これが…物流の流れか…。」


王都の中央市場では、朝日が昇る頃から見たこともない品が並び始めていた。

「レダの香辛料入りソーセージ!今日入荷分のみ!」

「カルヴァの羊毛布地、今なら値下げ中だぞ!」

「南港の干し魚がこんなに早く届くなんて…!」


市民たちは財布(いや、魔石端末)を握りしめ、商品を手に取り、EJでの決済を交わす。

「昨日はこの胡椒が王都に届くのに三日かかったんだぞ。それが今朝にはもう届いてる!」

「新しい道と倉庫のおかげさ!」

商人たちの目は輝き、労働者たちの顔には疲れの中にも笑みがあった。


雇用の波紋

物流の拡充は、働き口を生み出した。

かつて失業給付に頼っていた若者たちは、

今は港で荷を積み、街道で荷車を引き、中継所で馬の世話をし、倉庫で仕分け作業をしていた。


「これが、俺の仕事か…!荷物ひとつで、国が回ってるんだな!」

「お前の積んだ荷が、王都のパン屋に並ぶんだ。誇っていいさ!」


港湾労働者組合では、かつて「救済を求める嘆願書」ばかりだった帳簿に、今は「荷役募集の張り紙」「給金支払予定表」「作業員研修の案内」が貼り出されていた。

「港で働きたい?よし、明日から研修に来い!」

「馬車の扱い方は先輩が教えてくれるぞ!」


街道沿いの宿場町にも変化があった。

「食堂が儲かってる!道を通る荷馬車の御者たちが、朝昼晩と寄っていくんだ!」

「雑貨屋も道具が飛ぶように売れてる!」

「昨日、村に初めて『エルゼラの旅人』が来たんだ!酒場が盛り上がって大変だったよ!」


地方都市の目覚め

物流が届かなかった内陸の町、ガルドの市長は涙を浮かべて言った。

「ずっと、港からの荷物は途中で止まり、私たちは『国の外れ』だと思っていた。」

「でも今、塩も粉も布も、港で積んだものが二日で届く。」

「我々も…国の一部なんだと、ようやく感じられる。」


かつて閑散としていたガルドの市場には、今では「港直送」と書かれた看板が立ち並び、

「王都で流行りの香水」「南方の甘い果実」「異国の鍛冶道具」を並べた露店が活気づいていた。


若者たちは港へ、街道へ、倉庫へと働きに出て、家族の元には初めて「働いて稼いだ賃金」が持ち帰られるようになった。

「父さん、これ、俺の給料だ!荷運びで稼いだんだ!」

「そうか…そうか…。」


涙ぐむ老人の背を叩きながら、俺は胸に熱いものが込み上げるのを感じた。

「これが…国が繋がるってことか。」


それでも残る課題

だが、問題が全て解決したわけではなかった。

道ができ、物流が流れ始めた分、道路の補修や倉庫の維持管理、

さらには港での治安維持や税関手続きの煩雑さといった課題も次々と噴き出していた。

「港の混雑をどうする!?」

「密輸品が混ざってる可能性もあるぞ!」

「倉庫の容量がもう限界だ!」


それでも――

商人たちの顔には、以前にはなかった「理解」の色があった。

「大臣、この街道がなければ俺たちの荷は腐ってた。」

「倉庫がなければ、商品が保管できない。」

「港がなければ、国は孤島のままだったんだな。」


彼らは、かつて「税金は取られるもの」としか見ていなかったものを、

「自分たちの商売を支える投資」として受け止め始めていた。


俺は港の高台から積み荷の山を見下ろし、胸を張った。

「物流は、国の血管だ。そして、税は国を支える筋肉だ。」

「経済が回り、道が繋がり、人が動く。そのすべてが、国を生かす。」


国が変わり始めた音が、港の喧騒の中に確かに聞こえていた。

1kEJキロエジェイ1000 EJ小規模な交易単位。商人ギルド間の決済など。

1 MEJメガエジェイ1,000,000 EJ国家間取引や王宮財務に関わる大規模取引単位。


kEJ以上の取引は「信用鑑定」を義務付けられ、厳格な履歴管理が必要。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ