積み上がる荷、滞る流れ
港に降り立った瞬間、俺の鼻腔を突いたのは、塩気と油、そして焦げた荷札の匂いだった。
桟橋の上、倉庫の前、波止場の隅――あらゆる場所に積み上がる荷物の山があった。
木箱に詰められた香辛料、樽に詰められたオリーブ油、布地の束、金属部品、奇妙な形の機械。
積み上げられた荷物は高く積み重なり、いつ崩れてもおかしくない不安定さで、
港の労働者たちは額に汗を滲ませながら叫んでいた。
「これじゃあ、いつまで経っても荷がさばけねぇ!」
「馬車が足りない!人手も足りない!倉庫もいっぱいだ!」
「荷札の管理もぐちゃぐちゃだ!どれが誰宛か、誰にも分からん!」
交易が活発化したのは喜ばしいことだった。
だが、増えた荷物を運ぶ国内流通の力が追いついていなかった。
道路はまだ整備途上で、馬車は不足し、荷役の人手も限られていた。
「輸入品が腐るぞ!これじゃあ腐敗商人が横流しするのも時間の問題だ!」
「どうなってんだよ、役所は!」
商人たちの怒声が港に渦巻く。
俺は唇を噛み、港の奥に積み上がる貨物の山を見つめた。
「……交易の成功は、流通の失敗を突きつける鏡だな。」
仮想通貨の力、見え始める変革の芽
だが、その混乱の中で、少しずつではあるが、変化の兆しも見えてきた。
EJ決済システムを使った取引は港の荷札にも応用され始め、
「積荷ごとにEJ取引IDを紐づける」ことで、誰の荷物で、誰が支払ったか、何が入っているのかが瞬時に分かるようになったのだ。
「この積荷はエルゼラ商会、到着時刻は正午、支払いは済み。配送先は王都の織物問屋。承認確認済み。」
「こっちはカルヴァの薬品、レダの香辛料。全部データで確認できる!」
仮想通貨の「改竄できない記録」は、取引の証明だけでなく、物流の管理においても圧倒的な力を発揮し始めていた。
積荷の山を前に呆然としていた商人たちも、EJ管理端末を手に取ると目を見開いた。
「これがあれば、誰が責任者か分かる…!」
「これまで誰の荷物か分からなくなってたのは、管理がずさんだったせいだ。」
「取引の記録が正確なら、信用取引もできるな。」
そう、EJが示したのはただの「便利さ」ではなかった。
「取引と流通の信頼性」を可視化し、
「流れを作るためには、道が必要だ」という当たり前の事実を、痛みを伴って突きつけたのだ。
商人たちの意識の変化
港の会合で、かつて「税を取るな!」「公共事業なんて税金の無駄だ!」と叫んでいた商人たちが、
今ではこう口にしていた。
「我々も協力しよう。流通網がなければ、せっかくの品も運べない。」
「港だけでは駄目だ。内陸への馬車路、橋、倉庫、これらがなければ商売は回らない。」
「大臣、次の公共事業はどこを優先する?」
彼らの目に、かつてはなかった「道を繋げることの価値」が宿り始めていた。
俺は執務室で窓の外、港を眺めながら静かに思う。
交易が活発化するほど、国の弱さがあぶり出される。
流通の未整備は致命的であり、放置すればせっかくの経済成長も腐らせてしまう。
だが、逆に言えば――
「この痛みを乗り越え、流通を整えれば、この国は真の意味で『価値を生み出す国』になれる。」
それを信じ、俺は次の公共事業計画案を広げ、ペンを走らせた。
「南港への新道路整備、主要都市間の荷車優先路の拡張、中央物流倉庫の建設…。」
「国を繋げるのは、この手だ。」
外では今も、荷を積み上げ、汗を流し、叫びながら働く人々の姿があった。
その喧騒の中に、確かに「国が動き出した音」があった。
1EJ = 魔力ベースの基準単位で1秒あたりのエネルギー価値
「1EJ = 1秒間に安定的に流せる標準魔素量」
1EJ ≒ 1,000円
ミリエジェイ1/1000 EJ小さな支払いに。街の屋台の調味料追加料や、小さなサービス料に使われる。