表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/34

国の血脈

春の風が、かつてぬかるみだった山間の道を吹き抜ける。

「アルグレイド交易街道」――石畳が敷かれ、橋が架けられ、かつて人も馬車も通れなかった山の隘路は、今や人と荷車が行き交う「国の血脈」へと姿を変えていた。


「通れたぞ!ついに道が繋がった!」

労働者たちが泥だらけの手を上げ、歓声を上げる。

商人たちは新品の荷馬車を連ね、エルゼラ、レダ、カルヴァといった他国の名を冠した木箱を荷台に積み上げていた。

その木箱には、かつてジルガルドでは見たことのなかった、異国の印章と品名が踊っていた。


「これは…『硝子板』?」

「蒸気圧縮機の部品?…見たこともない仕組みだな。」

「この植物…『カカオ豆』だって?食べ物なのか?」


俺は港に並ぶ荷物を見渡し、胸が熱くなるのを感じていた。

これまでジルガルド王国は、閉ざされた国境の中で自給自足を目指し、外の世界を恐れ、交易をおざなりにしてきた。

だが今、国を貫く道が繋がり、港が整備され、外国の商船が次々と入港する。


外の世界との流れが、国を満たし始めていた。


技術がもたらす生活の変化

交易で運ばれてきたのは物資だけではなかった。

技術と知識が、国の空気を変え始めていた。


港町では、エルゼラの「ガラス工芸師」たちが招かれ、王国では珍しかった透明な硝子窓が貴族の屋敷だけでなく、街の薬局や商店にも設置されるようになった。

「ほら、窓が透明だと昼間はランプがいらないんだ!」

子供たちは目を輝かせ、その光景を見上げていた。


レダ国の「圧力鍋技師」たちは、魔力を利用した低圧鍋の製造法を持ち込み、調理時間が大幅に短縮されたことで、

市場では「肉の煮込み」「豆の煮炊き」が安く早く提供されるようになった。

「これなら、朝早くから仕込みをしなくても昼には出せるぞ!」と、料理人たちは声を弾ませた。


さらには、カルヴァ商会が持ち込んだ「水車式製粉機」の設計図が王国技師たちの手に渡り、各地の水辺に新しい製粉所が次々と建設された。

「粉が安くなる!」

「パンがもっと安く買えるようになる!」

人々の生活に、目に見える「変化」が広がり始めていた。


新たな税の流れ、そして希望

交易が活性化し、雇用が増え、労働者たちの手に渡った賃金の一部は税として国庫に戻り始めた。

それは、かつて福祉として一方的に与えていた資金とは違う。

人々が働き、価値を生み出し、対価を得た上で、「この国の一員として払う税」だった。


「税収が増えています、大臣。」

カルムが報告を持ってきたとき、俺は机に伏せたまま、ようやく安堵のため息をついた。

「これで…少しは、未来に繋がるだろうか。」

「国が…生きる国になるだろうか。」


それでも残る不満と問い

だが、国中に希望の声ばかりが響いているわけではなかった。

街の隅では、削減された福祉を嘆き、

「俺たちは見捨てられた」「昔の方が良かった」という声も絶えなかった。

「道や港より、家族を支えてくれ!」と叫ぶ者たちもいた。


その声を聞くたび、胸が痛んだ。

「…これで本当に、よかったのか?」

夜、暗い執務室でひとり、帳簿を見つめながら、俺は何度もその問いを自分にぶつけた。

だが、外から聞こえる街のざわめき、異国の言葉が飛び交う市場の熱気が、静かに答えていた。


「国は、変わり始めている。」

「そして、この国はもう――閉ざされた国ではいられない。」


俺はペンを握り、震える手で次の予算案の草稿を書き始めた。

「外と繋がり、価値を創り出す国」

それが、これからのジルガルド王国の未来だと信じて――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ