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労働と福祉

「働ける者には、働いてもらう。それが、福祉だ。」


その言葉を口にしたとき、自分の声が震えているのが分かった。

王宮の会議室で、俺は国王陛下と閣僚たちの前に立ち、まるで自分自身を鼓舞するように言葉を吐き出していた。


「この国は、長きにわたり『与える福祉』に偏りすぎてきました。」

「ですが、与え続けるだけでは、国家は持ちません。今こそ、『支えられる福祉』から『支え合う福祉』へと転換する時です。」


静まり返る会議室で、俺の手は震えていた。

「働ける者には、働く場を提供する。それが、公共事業です。」

「山を切り開き、道を造り、港を整備する。その中で働き、汗を流し、報酬を得る――それが新しい福祉の形です。」

「…我々は国を再建しながら、雇用を生み出し、そして税を生み、やがて再び福祉を充実させる。その未来を信じるしかないのです。」


俺の言葉を聞く国王は、静かに頷いた。

だが――外に広がる街のざわめきは、決してそんな理想を歓迎してはいなかった。


民の声、怒りの声

「働けって、どういうことだ!?年寄りだっているんだぞ!」

「足が悪いんだ!どうやって山を登れって言うんだ!」

「子供の学費を削って、道を作る!?ふざけるな!」


広場には不満を叫ぶ民が集まり、役人の屋敷には石が投げ込まれた。

市場では、福祉削減の報が伝わると、誰もが不安そうに肩を寄せ合い、言葉を潜めていた。

「子供の医薬費補助も減らされるんだって…。」

「もうすぐ失業手当も打ち切りらしい…。」


俺は市場を歩き、民の視線を受け止めた。

怒り、嘆き、恨み――その全てが俺に向けられていた。


(分かってる。痛いほど分かってる…!)

心の中で何度も繰り返した。

だが、その痛みの向こうに、俺が見ている未来があった。


「雇用を作る。」

「働く場を増やす。」

「税を生み、やがて再び福祉を充実させる。」


その未来を信じなければ、もうこの国を救う術はなかった。


汗を流す者たち

新たな公共事業の現場――「アルグレイド交易街道」建設地では、

かつて失業給付を受けていた若者たちが、ツルハシを手にし、泥だらけの手で石を積んでいた。

「これが…働くってことか。」

「金貨じゃなく、汗を流して…。」


疲れ切った表情の中に、わずかだが、誇りのようなものが見え隠れした。

現場監督は叫ぶ。

「お前ら!ここで流した汗は、必ず国の血肉になる!その手で国を作っているんだ!」


だが、その声は現場の外、街の中には届かない。

街では、削減された福祉に不満を募らせる人々の声が、今も渦巻いていた。


「こんな国、もう終わりだ…。」

「税ばかり取って、何も返ってこないじゃないか…。」

「私たちは捨てられたんだ…。」


苦悩する夜

夜、自室で帳簿を見つめながら、俺は額に手を当てた。

「……この選択は、正しかったのか。」


短期的な苦しみを国民に強いる代わりに、長期的な再生を目指す。

その理念を信じ、俺は歩み始めた。だが――

「その『長期』を、誰が待てる?」

「国民の怒りが、国を破壊する前に…信じてもらえるのか?」


胸の奥で、答えのない問いが渦巻く。

それでも、俺は帳簿を閉じ、震える手で新たな予算案にペンを走らせた。

「働ける者は、働け。国のために。」

その決断の向こうに、やがて福祉が再び回復し、国が立ち上がる未来を信じて――。

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