国の重さ、民の叫び
「大臣、どうか、これ以上の予算削減はおやめください…!」
老齢の女性が泣きながら訴えた。
その後ろには、痩せこけた子供たちを抱いた母親たち、杖をつく老人たちが列をなし、宮殿の階段を埋め尽くしていた。
「この国は…福祉があったから、生きてこれたんです…!」
「学び舎があったから、子供たちは夢を持てたんです…!」
俺は、彼らの声を胸に刻みながら、震える手で国庫の帳簿をめくった。
だが、そこに記されているのは、残酷な現実だった。
「国庫歳出内訳(前年)」
福祉予算(高齢者手当、生活保障費、失業者給付金):国庫歳出の47%
教育予算(学費無償化、教育機関維持費、教職員給与):国庫歳出の28%
公共インフラ整備予算(道路、港湾、物流施設):国庫歳出の6%
防衛・治安維持:9%
その他(農業補助金、医療技術開発など):10%
「……これじゃ、国が回るはずがない。」
俺は思わず吐き出した。
福祉と教育の理想に殉じた歴代の政策は、確かに「優しい国」を作ったのかもしれない。
だが、その優しさは、財政という基盤を食い潰し続ける巨大な獣となっていた。
さらに、その「優しさ」は国内だけに向けられ、国境の外――交易路や港湾、流通の整備は後回しにされ続けてきた。
「だから、国は閉ざされ、外貨を稼ぐ力を失い、今――破綻しようとしている。」
俺は机を叩き、立ち上がった。
「このままでは国が死ぬ。痛みを伴っても、変えなければならない。」
政策転換の決断
国王陛下との会議で、俺は震える声で告げた。
「陛下…福祉予算を大幅に削減し、浮いた資金を交易路の整備事業に投入します。」
会議室は凍りついたような沈黙に包まれた。
「何を言う、大臣…!」
「それでは民の怒りが…!」
「子供たちはどうなるのだ!」
俺は歯を食いしばり、頭を下げた。
「分かっています…私だって、これがどれだけの痛みを伴うか分かっています!」
「ですが――これ以上、"内側の支え合い"だけで国を回すのは限界です。」
「外と繋がらなければ、この国に未来はありません。」
新たな道の建設
その年、王国中に響き渡ったのは、削減された福祉給付金への不満の声と、
一方で、北方山岳地帯を切り開く「アルグレイド交易街道」の建設を告げる号砲だった。
「なぜ、福祉を削ってまで道を作るのか…」
そう嘆く声が街を満たした一方で、
「俺たちに仕事が回ってきたぞ!」「交易路ができれば、新しい商売ができるかもしれない!」
そう語り合う労働者たちの目には、かすかな希望の光が宿り始めていた。
土煙を上げる建設現場では、かつて失業給付金に頼っていた若者たちが、ツルハシを握り、額に汗を流して働いていた。
「これが、俺たちの仕事か…でも、金貨よりも食える実感があるな。」
山を切り開き、川に橋を架け、荒地に石を積み、交易の血管が少しずつ国土に広がっていく。
「この道は、国を外と繋ぐ命綱になる…!」
俺は現場で土の匂いを吸い込みながら、胸の奥で決意を固めた。
国の未来は、「内側で守り合う優しさ」だけでは築けない。
「外の世界と繋がり、価値を生み出し、分け合う力が必要だ。」
その痛みを受け入れながら、俺はこの道を見つめた。
土埃にまみれたその一本道は、やがて国を救う血脈となる――そう信じて。