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幻の信用

「魔法を通貨にする――か。」


青い光を放つ魔法装置「Enchanted Verification System(EVS)」を見つめながら、俺は呟いた。

正確には、信用を魔法で保証するシステム。

もはや金銀はない。紙幣は白紙以下の価値となった。

ならば、「信用」を可視化し、価値として流通させることができれば――それが、新たな「通貨」になり得るのではないか。


「信用を、貨幣に変える。虚無から価値を生むのではない。"真実"を価値にするんだ。」


開発は苛烈を極めた。


王宮の地下、かつて魔導研究所として使われていた石造りの薄暗い部屋に、俺と魔導技術局の異端者――サラ・ミリスは籠もりきりだった。

サラは銀色の髪を振り乱し、目の下に隈を作りながら、魔法陣と符号が組み込まれた巨大な石盤に魔力を流し込んでいく。

「個人識別符の安定化がまだ不十分だわ!信用値の記録が歪む!」

「ならば、魔素の共鳴反応を抑制しろ!符文の偏差は3%以内に!」

「そんなの理論上無理よ!でも…やるしかない!」


魔力の火花が散り、青白い光が石盤を奔り、符号が組み替わるたび、俺は震える手でデータの転記を繰り返した。

「このシステムで、取引履歴を"誰にも改竄できない"形で残せるんだな…?」

「ええ…個人の魔素波長と取引の"事実"を組み合わせて、信用台帳に固定する。

この記録は本人以外が改竄することは不可能で、誰でも検証可能よ。」


やがて、基盤となるシステムが形を成した。

その名は――


「Ether Jirgaエーテル・ジルガ


魔素を利用した分散型信用台帳システム。

全ての取引は、個人の魔素波長による署名を持ち、中央銀行や王国政府すら介入できない形で「事実」として記録される。

取引履歴、所有残高、信用値、すべてが透明で、偽装不能。

金銀の裏付けも不要。信頼の源は「事実」のみ。

貨幣単位は「EJエーテル・ジルガ」とし、王国全土での取引に使用できる仮想通貨として設計した。


「これが、通貨だ。」

「嘘がない。虚偽も、改竄も、隠蔽もできない。誰が、何を、いつ、誰と、何の価値で取引したのか――すべてが記録される。」


俺は震える指で試験用の魔石端末を操作し、初めてのテスト取引を行った。

「1EJを、カルム局長に送金。」


魔石が淡く光り、EVSの中央に新たな符号が刻まれた。

「Transfer Confirmed.」

取引の詳細が、魔法陣上に浮かび上がる。

その輝きは、かつて見たことのない「透明な価値」だった。


「これが……通貨だ。」

俺の声は震えていた。


だが、課題は山積していた。

国民にこの新たな「価値の概念」をどう受け入れさせるか。

魔素認証の負荷に耐えられるインフラをどう整備するか。

悪意ある者たちがこれを「信じる」までに、どれだけの時間と試練を要するのか。


それでも、俺は確信していた。


「金銀がなくてもいい。紙幣が破れてもいい。

信用を、魔法で可視化し、価値にすることができれば、通貨は再生できる。」


この「エーテル・ジルガ」が、ハイパーインフレに沈むジルガルド王国を救う、最後の切り札になる。

そのためなら、俺は――命を賭けてでも、やり遂げる。

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