ジャッカローブ
ジャッカローブ山の麓の街ジャッカローブの教会で、シンデレラとウィリーはフェルディナンドを生き返らせて貰った。
神父が聖書の言葉を読み上げると、ネズミのフェルディナンドの身体が光を帯び……やがて……人の姿になった。
緑色の王族服を着ている。
「あれ……こいつ人間に戻ったぞ」
「いっぺん死んで蘇ったことで掛けられてた呪いが解けたのデース」
神父が説明する。
目をぱちりと開き、フェルディナンドは「俺は仏教徒だー!」と叫びながら起き上がった。
「ああ、良かったわ。呪いが解けたのねフェルディナンド……」
シンデレラは感嘆の声を上げる。
だが、フェルディナンドは、ウィリーを見てすぐにウィリーの腹にパンチを入れた。
「ぐはあっ!いってえ!なんでだー!」
ウィリーは痛みにもんどりうつ。
「ウィリアム王子。貴様を殺し、俺はカンパネルラ城に帰る」
「えっ……ウィリアム王子……?」
わけがわからないという様子のシンデレラにフェルディナンドが話す。
「こいつはウィリアム・カンパネルラ。カンパネルラ王国の王子だ」
「あらそうなの」
反応の薄いシンデレラにウィリーは「ひでええええ!自分の国の王子だぞ!」と叫ぶ。
「お願い、フェルディナンド!貴方も賢者の石の材料集めを手伝ってちょうだい!」
「何かもうぐだぐだだな……」
「俺はカンパネルラ城に戻る。日本がアメリカを乗っ取るためにな!」
「あ、本音言った!本音言ったよこいつ」
「俺の本当の名前は唯だ。何かちょっと欧米の王子っぽく名乗ってるだけだ」
「聞いてない。聞いてないよ」
「お願いよ、フェルディナンド。私達を手伝って」
シンデレラはフェルディナンドに懇願する。
「だが俺は日本がアメリカを乗っ取るという悲願を果たしたい。あとこいつさえ始末すればアメリカは俺のものだ」
「もう別の国名ついてんだからそっち使おう!日本とかアメリカとかいやそうなんだけど伏せて。伏せて」
「さあどうする。貴様らの旅の目的は俺を倒し、カンパネルラの捕えた貴族達を解放することだろう。そうはいかん」
「あっ……そう言えばそうだったわ」
「忘れてたんかい」
ウィリーは溜息を吐いた。
「仕方ねえな……」
大鎌を取り出し、構える。
フェルディナンドも剣を抜く。
「二人とも……こんなところで……」
「ここでこいつを倒せばカンパネルラ王国が奪還出来る」
「貴様の息の根を止めればアメリカは俺のものだ」
それを見ていた神父が「あーこれこれ」と割って入る。
「ジャッカローブ山には温泉が湧いてるよ。温泉に浸かって疲れを癒してちょっと考え直しなさい」
「そんなねえ。神父さん今それどころじゃ……」
だが、フェルディナンドが剣を落とし愕然とする。
「温泉だと……」
「どうしたのフェルディナンド」
「温泉にはあらがえん……俺の中の日本人の血がそう叫んでいる。旅はまず温泉と……」
「おーい」
どこから取り出したのやら、フェルディナンドは手ぬぐいと桶を手にしていた。
「お前達……温泉に行くぞ」
シンデレラは「私も温泉に行きたいわ、フェルディナンド」と付け足した。
「あー温泉かー。温泉なー。何やってんだろ俺。はーあやってらんねー」
ウィリーはしゃがみ込んでいじけ始めた。
「その何だったか。燃える石?探しに付き合ってやってもいい」
「何のために探してると思ってんだお前ー!」
「ありがとうフェルディナンド。これで、お義母様とお義姉様を牢屋に入れてる悪い奴を倒せるわ」
「いやそいつそいつ」
フェルディナンドはウィリーをじろりと睨む。
「アメリカは俺が乗っ取るからな」
「いや返せよ!カンパネルラの貴族を……五十の州伯と妹を解放しろー!」
「ウィリー、ソール王国って隣にあるの?」
「太平洋を挟んで隣」
シンデレラ達三人はジャッカローブの街を出ると、ジャッカローブ山へと登った。
「ここは何温泉というんだ」
「ジャッカローブ温泉。お前にわかりやすく言うとカリフォルニアのラッセン温泉。言っとくけど裸で入るなよ。水着着て入れよ。変質者扱いされんぞ」
フェルディナンドは呆然として桶を取り落とした。
「何だと……」
「日本の温泉じゃねーんだからなお前。スパだぞスパ」
「知らなかったのフェルディナンド。カンパネルラでは温泉は水着を着て入るのよ。私達一緒に入れるわよ」
「そんなことはどうでもいい。おい温泉は源泉掛け流しなんだろうな」
「知らねえよ。ここ日本じゃねーんだからアメリカなんだから」
「ウィリーあなた国名、自分でカンパネルラ、ソールってあるんだからって言ってたてた癖にアメリカ、日本呼びになってるわよ」
「ていうか本当は温泉入りに来たわけじゃねーんだけど。燃える石探しに来たんだけど」
「うむ。腐った卵の匂いがして来たぞ」
フェルディナンドは桶と手ぬぐいを手にずんずん進んで行く。
溜息を吐きながらウィリーはそのあとを追った。
シンデレラも楽しそうだ。
だが、いざ温泉を見てフェルディナンドはがっかりした。
「何だこれはー!」
「カリフォルニアのラッセン温泉」
「プールだこれは!」
シンデレラ、ウィリー、フェルディナンドの前にはだだっ広いプールがあった。
確かに山奥、森林に囲まれてはいるがどう見てもプールだ。
「ほれ、着替え室に入るぞ」
「違う!温泉じゃない!こんなのは違う!アメリカには温泉はないんだ!」
「だからスパリゾートつったじゃねえか」
「俺はこんな温泉は認めん。爆破する」
「お前自爆テロ扱いすんぞっていうか俺お前の部下に父親殺されてお前に国乗っ取られてるからな。既にお前アメリカにテロ仕掛けたんだからな!」
「ウィリー、カンパネルラ、ソールって言いましょう」
シンデレラが突っ込む。
「じゃあとにかく水着に着替えるぞフェルディナンド」
「違う……温泉じゃない……違う……こんな温泉俺は認めん……」
ウィリーとフェルディナンドが水着に着替えてプールサイドでシンデレラを待っていると、やがてシンデレラが……ごつい潜水服を着て歩いてきた。
「シンデレラまだかね」
「こんな温泉俺は認めん……」
「私ならここにいるわ」
シンデレラが喋った。
驚いてウィリーは振り返る。
「うわっ!何だよその格好……」
「こんなの温泉じゃない……」
「フェルディナンド、どう?似合う?私の水着」
「爆破したい全て」
「シンデレラ?シンデレラか?おいおいおいおい……ちょっと待てよ……」
「似合う?」
「似合うも何も潜水服じゃねえか」
「装備は万端よ……。さ、プールに入りましょう」
「温泉な」
「温泉に入りましょう、フェルディナンド」
「俺もいるんですけど」
シンデレラとウィリーはフェルディナンドをずるずると連れてプール……温泉に浸かった。
「ぬるい!」
「文句言うなよ。あー気持ちいいぜー」
「こんなのは温泉じゃない!こんな温泉俺は認めん!」
文句を言っていたフェルディナンドも何だかんだで暫く経って癒されたようだった。
「ウィリアム。実はカンパネルラ王はまだ生きている。殺していない。殺したと言っただけで地下牢に放り込んである」
「それもっと早く言えよ……。何だよ……」
「温泉ってこんなもんなのかしら。何とも感じないわ」
「そりゃそうだろうな。そんな格好してるぜシンデレラ」
その後、温泉から出ると三人は施設のレストランのテーブルに着き、話し合った。
「おいフェルディナンド。俺の家族と五十の州伯を解放しろ」
「俺はただ任務を遂行するだけだ。出来んな」
「駄目だ。話になんねえ」
「お前達はやりたいようにやれ。おいウィリアム俺をカンパネルラ王国に戻せ。俺は瞬間移動の呪文が使えん」
「嫌だね。勝手に帰れよ」
フェルディナンドは押し黙るとウィリーの腹にパンチを入れた。
「ぐっはあっ!」
「今のはウィリーが悪いわ」
「いってええええ!」
ウィリーは腹を抑えて地面を転がった。
「ウィリー、フェルディナンドを移動呪文でカンパネルラ王国に戻してあげて」
「そいつの帰るところカンパネルラ王国じゃねえから!ソール王国だから!あとそいつそのまんまカンパネルラ王国に戻したら国乗っ取られるから!」
フェルディナンドは腕を組んだ。
「仕方ない。お前達についていってやろう」
「あー!偉そうに言うなお前ええええええ!」