武闘大会
いざ武闘大会となった。
特等席のバイバルス王が前に出て演説する。
「皆の者、良く聞くがいい。優勝賞品は特別に我が娘、アブドゥラ姫とする!」
白い姫装束姿のアブドゥラ姫がおずおずとお辞儀をする。
「おおおお!」
「やる気出たああああああ!」
石で造られたコロシアムの控え室。
屈強な男達の中、シンデレラは自分の出番を待っていた。
「見ろよ。女がいるぜ」
「ははは。嬢ちゃん痛い目見たくなけりゃやめた方がいいぜ」
やがて、自分の名前が呼ばれ、シンデレラは控え室からコロシアムの中に出た。
オオオオと、観客達が叫び、野次を飛ばす。
「女!女だぞ」
「マジかよ……」
「こりゃ賭けにならねえぞ……」
シンデレラの一回戦目の相手は、半裸にパンツ姿で顔に深くマスクを被り、斧を持ったならず者といった風の男だった。
「ははははは、なんだ、嬢ちゃん、やろうってのかい」
審判が入って来る。
「アッバース対シンデレラ、勝負始め!」
勝負開始のゴングが鳴った。
アッバースは斧を振りかぶってシンデレラに襲い掛かって来るが、シンデレラはそれをひらりとかわし、出来た隙に思い切りアッバースの腹に蹴りを食らわせた。
「ふへ……」
アッバースはそう呟いたきり倒れてしまった。
起き上がらない。
「しっしっ勝者シンデレラあ~!」
わあああああ!とコロシアム内の人々が歓声を上げる。
「おいおいおーい」
「マジかよ、女の子が大の男に勝っちゃったよ」
応援席でウィリーが呟く。
「こりゃ俺が回復呪文を唱えるまでもねえなあ」
「回復呪文なら俺も唱えられる」
砂糖の塊を食べながらフェルディナンドが言った。
それから、シンデレラは破竹の勢いで武闘大会を勝ち進んで行った。
少し外の空気を吸おうと、シンデレラは外に出たところ、白い姫装束に身を包んだアブドゥル姫に出会った。
「あっ……」
「あら、あなた……」
アブドゥル姫は白金色の長い髪で、本当に美少女だった。
「何でこんなところに……」
「あの……ぼ……私、シンデレラ様にお願いがあって来たんです」
「私に?」
「どうか、シンデレラ様が優勝して下さい!このままだと好きでもない人と無理矢理結婚させられてしまいます……他の男の人達は嫌だけど、シンデレラ様とだったら私、結婚してもいいです!」
「え……いや、あの……うーん……」
シンデレラは腕を組む。
「わかった。貴方と結婚は出来ないけど、優勝目指して頑張るわ。嫌な相手と無理に結婚させられるなんて可哀相だもんね。私が優勝して貴方を解放してあげる」
「……ホッ。ありがとうございます!」
そう言うと、アブドゥル姫は去って行った。
「これは頑張って優勝しないとね」
シンデレラは次々に勝ち進み、とうとう決勝となった。
決勝の相手は鎧を着込んだ兵士だ。
噂で聞いたが、殆どの出場者は金で働く戦奴隷らしい。
「決勝、ナギーブ対シンデレラ、勝負はじめ!」
暫く睨み合い、殴り合いが続いた。
数発、シンデレラの腹に入り、シンデレラは薬草を食べた。
応援席でウィリーとフェルディナンドがおのおの感想を言う。
「あー見てらんないよ。ったくー」
「あいつは大丈夫だ。強い女だからな」
相手の拳がシンデレラの頬に入ったが、シンデレラはカウンターで思い切り相手の顎を殴り飛ばした。
「ぐふぉっ……」
相手が盛大に吹っ飛ぶ。
「ゆ……ゆ……優勝者、シンデレラー!」
観客席がわあああああああと騒ぐ。
シンデレラは血ヘドをぷっと吐き捨て、拳を空に上げた。
「いやーしかし、そうなると、優勝商品のアブドゥラ姫はどうなるんでしょうか……。まあいいか。女同士……」
シンデレラにフェルディナンドを肩に乗せたウィリーが近寄る。
「あーもう本当大丈夫かー」
「ウィリー、どっちか回復お願い」
「ああ……」
フェルディナンドが「待て」と割って入る。
「クリフトは俺だ」
「俺だってクリフトだぞお前ー!」
「わかった……」
そう言い、フェルディナンドがかっと目を開く。
「俺と戦え。勝った方がクリフトだ」
「俺もお前もクリフトでいいじゃねえか……あー仕方ねえなー俺こういうの好きじゃないんだけど俺の得意呪文ザキだぞ。あと神父の服だから」
「俺の得意呪文はメガンテだ……」
ねずみのフェルディナンドとウィリーが互いに距離を取り睨み合う。
客席は皆戸惑っている。
「なんだなんだ」
「ガキとなんだ……あれ……ねずみ?」
「まあすまないが後で教会で復活させてやるからよ」
「全て爆破して終わりだ」
フェルディナンドとウィリーは一斉に呪文を唱えようとした。
「ザ……」
「メガ……」
だがそこで「駄目ー!」という少年の叫び声が響き渡った。
見ると、アブドゥラ姫が特別席からコロシアムの中央に走り寄り、ウィリーとフェルディナンドの間に割って入った。
「駄目です!駄目!」
アブドゥラ姫の叫びに、ウィリーとフェルディナンドは喧嘩を止めた。
「えーと」と呆けた顔のウィリー。
「僕……?」
フェルディナンドも戸惑った表情を浮かべる。
「僕はバイバルス王の三十番目の子、アブドゥル。アブドゥル・マムルークです!」
客席がどよめく。
「マジかよ……」
「女装ー?」
バイバルス王は逃げようとしていた。
「僕は父上に偉そうなことを言ったばかりに、罰として女装させられて武闘大会の賞品にされてしまったのです!」
「どう見ても愛らしい姫君だぜ……」
「女装似合うなアブドゥル王子……」
アブドゥルは特別席にいるバイバルス王に話し掛ける。
「父上。今夜は宴を開きこのお三方を招待しましょう」
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