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フェルディナンド

アクラブの谷でシンデレラとウィリーが腕試しをして夜となった頃。





ベリンダは作業の途中で息を吐いていた。


(さて、どうしようかね……作業の途中だけどソール軍に対して何もしないでおくわけにも行かないからね……)


ベリンダはそう考えると、部屋の奥、床に木炭で術式を書いた。


道具を揃え、並べ、呪文を唱えるーー……。


ベリンダの唱えた魔法はカンパネルラ城で寝ていたフェルディナンドへと飛んだ。





翌朝、カンパネルラ城にいるソール軍の兵士達は大騒ぎした。


フェルディナンド王子が起きないからだ。


ソール軍の魔法使いは術式を見破ったが、すぐには解けない難解なものだとわかった。


魔法使い達はてんやわんやで解呪の魔法に取り掛かった。





フェルディナンドが目を覚ましたとき、何だか柔らかいものに全身が挟まれていた。





「何だ……何かに包まれている……」


そこはシンデレラの胸の谷間で、フェルディナンドはねずみのアビーになっていた。


シンデレラはうーんとむにゃむにゃ言いながら、マムルーク王国の宿屋のベッドで横になっていた。


(生暖かい……)


まだ、フェルディナンドは状況を理解出来ていなかった。


フェルディナンドはキョロキョロ辺りを見回した。


(カンパネルラ城じゃないな……)


自分の手を見て驚愕した。


「何だこの手はあああああ!俺の手じゃない!これじゃねずみの前足……」





鏡を探してキョロキョロ見渡し、シンデレラのあられもない姿が目に入った。


「うわああああああ!何だこの娘……!舞踏会で踊った娘だな……」


フェルディナンドは鏡を見つけ自分の映った姿を見て驚愕した。


「ねずみだと……?!」


がくがく震える。


「どうなってるんだ。ねずみ?俺はねずみになってしまったのか?それに大体どこだここ……俺の部屋じゃない。くそ!呪いだ!呪いを受けたんだ!」





「……あれ?アビー起きたの?」


シンデレラが目をこすりながら半身を起こす。


取り敢えず何が何だかわからないフェルディナンドは「ち……ちゅー……」とだけ鳴いてシンデレラに不思議がられた。


「どうしたのアビー。最近の貴方なら普通に人間語でお喋りするじゃない」


「なん…だと…」


シンデレラの名前を聞いてないのでわからない。


「私シンデレラよ。何よ、忘れちゃったの?」


「……貴様など知らない」


「何よその言い方。酷いわね。おはようアビー」





はーあとシンデレラは伸びをする。


「支度して下に下りて食事にしましょう。あなたの好きなお砂糖もあるわよ」





シンデレラは夜着から水色のドレスに着替えた。


昨日装備を整えたときに買ったドレスだ。


フェルディナンドは呆然とそれを見つめていた。





(何をやっているんだ俺は……)


「さ、アビー。下に降りて、ウィリーと食事しましょ」





「貴様の指示など受けん。ここはどこだ。俺はカンパネルラ城に帰る」


「カンパネルラ城?遠いと思うわよ。ここはマムルーク王国だから」


「マ……マムルーク王国だと……?」


シンデレラはひょいとアビーを掴んで肩に乗せた。


「もう。変なアビーね」


シンデレラが階下に降りると、複数の客に紛れてウィリーが席に着いていた。


その傍にシンデレラも腰掛ける。


ウィリーの顔を見てフェルディナンドはすぐピンと来た。


間違いない。


(こ……こいつ!ウィリアム・カンパネルラ!)


「なんだぁ、このネズミ目つきが悪くなってんぞ」


ウィリーがフェルディナンドに指を差して、フェルディナンドは思い切りウィリーの指をかじった。


「いってええええ!」


「ちょっとアビー、何するの!ウィリーに謝りなさい!」


「俺はこいつに謝る筋合いはない。こいつさえ殺せばあとは我が軍の天下だ」


「何言ってるのアビー!」


「このネズミこんなんだったか?何かすげえ悪い奴になってるぞ」


「……ふっ。俺は貴様らにとっては都合の悪い存在だろうな」


「何言ってんだこのネズミ。ネズミのくせに」


「まあアビーご飯にしましょう。ほら、あなたの好きなお砂糖よ」





砂糖の塊を出されて、フェルディナンドはついかじってしまった。





「砂糖食ってるときはいつも通りのネズミだな」


シンデレラとウィリーはパンと、香辛料の聞いた鶏肉料理を食べていた。





「貴様らは今何をしている。何故マムルークの地にいる」


「それは言えねえなあ。企業秘密だなあ」


「隠すの?ウィリー」


「だって何かおかしいんだもん、こいつ。案外師匠がソール軍のフェルディナンド王子の魂をネズミのアビーにぶち込んだのかも知れん。ソール軍の指令系統を混乱させるために」


当たりだ。


「誰だ。その師匠と言うのは」


「それも秘密だ。お前怪しいからなあー。まずお前の名前から話しな」


フェルディナンドは溜息を吐き、ギロリと強くウィリーを睨んだ。


「俺はフェルディナンド・ソール。何者かによってこのネズミに魂を入れられてしまった。」


一瞬、ウィリーとシンデレラはぽかんとフェルディナンドを見つめた。





「うえええええ!マジかよ!」


「あの……貴方、ソール軍の王子様なの?」


「お前が踊った王子様は俺だ。シンデレラと言ったか。下手なことを言うなよ」





「このネズミ、どうしたもんかな」


「アビーだからちゃんと連れて行かないと」


「とにかく今日は武闘大会に出るからな。邪魔すんなよフェルディナンド」


「……ふっ。お前らが何を企んでいるかは知らんが大体察しはつく。カンパネルラ王国を奪還するために動いてるんだろう。だが事はそう上手くは行かんぞ」


そう言うと、ネズミのフェルディナンドは何か呪文を唱え出してウィリーが慌てて「わあああああ!」とフェルディナンドの口を塞いだ。





「どうしたの?」


「こいつ自爆呪文唱えようとしてやがった」


「ええええええ!ここ他にも人がいるのよ……」


「お前自爆すんなら勝手に人のいないところで自爆しやがれ!俺らや他の人のいるところで自爆呪文使うなよ!即死呪文唱えてやんぞ!俺はこの界隈では、死神ウィリーと名前が通ってるんだぜ。即死呪文が得意な術師とな」


フェルディナンドはニヤリと笑った。


「俺は自爆が得意だ。今まで三回自爆した」


「自慢にならねええええ!」


だがそんなフェルディナンドを、シンデレラは「素敵……」と頬を染めた。


フェルディナンドは困惑する。


「な……何だとこの女……」


「おいおいマジかよ」





ウィリーは溜息を吐いた。


「いいか。アビーの身体だから仕方なく連れてくけど、とにかく俺達の旅の邪魔はすんなよ。これだけは言っとくぜ」





食事もそこそこに、シンデレラとウィリーはネズミのフェルディナンドを連れて、武具屋に入った。





「お嬢さんの装備はそれでいいか?」


ピンクのドレスの下に鎖帷子、鉄の爪だ。


「これで充分よ。私武闘家だから」


「回復呪文はその都度俺がかけるから」


「ウィリーは黒い神父服なのね」


「俺はずっとこれさ」





フェルディナンドは「ふん」と鼻息を慣らした。


「なってない武具屋だ。客がいるのに挨拶にも接客にも商品説明にも来ない」


「何を言ってるんだお前は」


「ソール王国では、客がパソコンでも見ようものなら店員がすっ飛んで来て、ねちねちしつこくプリンターがセットだの、ワイファイに加入すると一万円引きだの、腰を低くしながら懇切丁寧にねちねちしつこく客に勧めてくるものだ」


「あ、アップル社はうちの国の会社な」


「二人とも一体何の話をしているの……」


ウィリーが説明する。


「シンデレラ、一から説明すると長くなるんだが、まあ世界は広いんだ。ソール王国は島国で、うちのカンパネルラ王国は王国つってもかなりでかいんだ。ビッグアメリカは譲らねえ!あ、アメリカってのはカンパネルラ王国の昔の国名だ」


「ごめんなさい……意味がわからないわ。でもフェルディナンドが素敵なのは変わらないわ」


「揺らがねえな」


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