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武闘家シンデレラ

中川翔子さんはラプンツェルなのですが…

日が昇ると、人々は城に押し寄せた。


城や城壁の旗がソール王国の旗に変わっていたからだ。


城の胸壁にフェルディナンドが立って話を始めた。


「私はフェルディナンド・ソール。ソール王国の王子だ。これからこのカンパネルラ王国はソール王国領となる!刃向かう者は殺す!大人しくしてろよ!それとウィリアム王子を探している。見つけた者はただちに連れて来い。褒美をやろう」


人々は驚き、どよめいた。


「王は!カンパネルラ王は!」


「うちの騎士が殺した」





翌朝、屋敷の使用人は皆戸惑っていた。


朝になってもライザとキャシーが帰って来ないからだ。





シンデレラもきょとんとしていると、役人がやって来た。





「大変だ!」


「どうなってるんですか?うちの女主人とお嬢様が昨日の舞踏会から帰って来ません!」


使用人が聞くと、役人が説明する。


「城や城壁の旗がソール王国のものになってる!役場に出掛けたら今日からこの国はソール王国だって」


「ええっ?!」


「今、街は隣国のソール王国軍があちこち歩いてる。何でも王様は殺され、王妃様、姫様その他の貴族達、昨日の舞踏会に参加していた奴らは皆縄で縛られて牢屋に放り込まれてるらしい」


「なんだって?」


「カンパネルラ王国はソール王国に支配されちまったんだ……」





使用人達がざわめく。


「そんな……」


「そんなことって……」


シンデレラは屋根裏部屋に戻って、アビーに話し掛けた。


「どうしようアビー。ライザとキャシーは大丈夫かしら。私何もしなくていいみたいだけど。大丈夫なのかしら」


「何もしなくていいなんて、そんなことはないよシンデレラ」





突然ねずみのアビーが喋り出して、シンデレラはびっくりした。


「アビー、貴方喋れるの?」


「魔法使いが君が寂しいだろうからって、僕は喋れるようにそこらへんの魔法は解けないようにしたんだと思うよ」


シンデレラはまじまじとアビーを見つめた。


「嬉しいわ、アビー」


「それよりシンデレラ。君は女魔法使いベリンダに会いに行かなくちゃならない」


「ベリンダ?」


「ベリンダがそう僕に夢で語りかけてきた。行き方はわかるよ。僕が案内する」





アビーはぴょこぴょこ走り出した。





「ついて来て」





アビーは町外れのシダの森をゆく。


シンデレラはアビーの後をついて、しばらくシダの森を歩いた。


森はきのこが生え、リスやきつね、うさぎなどの動物が走り回る。


やがて、森の奥深くに小さなひしゃげた赤い屋根の家が見えてきた。裏にパン焼き竃がついている。


「ここだよ」


アビーに言われて、シンデレラはノックしようとすると、中から昨日の魔法使いの少年が出て来た。


金髪を三つ編みに縛って黒い神父服だ。


「あ……あなた昨日の」


「どうぞ中に入って。師匠が待ってる」





家の中はこじんまりとして多少本で散らかっていたが、暖炉で暖かかった。


ソファーで中年の女が椅子に腰掛け、編物をしている。





「おや、来たね。シンデレラ」


「あの、あなたがベリンダですか?」


「ああ、私が女魔法使いベリンダ。あんたの死んだお母さん、リネットの友達さ。さ、そこにお座り。暖かいお茶をいれるからね」


そう言うとベリンダはテーブル席に座り、ちょちょいと指を動かした。


台所からポットとカップと小皿とスプーン、角砂糖を入れた小皿が出てくる。


勝手にポットのお茶は湧き、カップにお茶が注がれた。





シンデレラの目の前に紅茶が現れる。


「さ、砂糖はお好みで」


シンデレラは出された紅茶を飲んだ。


体が温まる。


アビーは角砂糖をかじっていた。


椅子に座った少年は赤眼鏡を外す。


「ベリンダ、昨日あなたがお弟子さんを私のところに来させてくれたのね。ありがとう」





シンデレラの隣に座る少年もお茶を飲みながらベリンダの方を見つめる。


「この子はウィリー。私の弟子だよ。楽天家なんだかこう見えて中々気が利く子でね」


「どうも」


「今、都は危険なんだ。ソール軍が闊歩してるからね。暫くここにいなさい」





ベリンダははあと溜息を吐く。





「それにしても、リネットの娘が惨めな生活をしていたとはね……もっとちゃんと見てれば良かったよ」





角砂糖をかじりながらアビーががなり立てる。


「ライザ夫人とキャシーは酷いんだよ。毎日、シンデレラをこき使って。それなのにシンデレラは二人を心配してるんだ」





ベリンダは驚いてシンデレラを見つめた。


「シンデレラ、その二人が心配なのかい?」


「心配だわ。出来れば助けに行きたい。私に力があればいいんだけど……。ベリンダ、私に力を貸してくれない?」





ベリンダは驚いてシンデレラをぽかんと見つめた。


ウィリーもシンデレラをまじまじと見つめている。


「驚いたねえ……」


「あんた頭おかしいのか?イジメられてたんだぞ」


「シンデレラはこういう子なんだよ」


アビーが角砂糖を口に詰め込みながら言った。


「わかった。シンデレラ、あんたに力をあげよう」


「本当?」


ベリンダは指を振った。


すると、シンデレラは全身から力が漲るのを感じた。





「ウィリー、板を出しておあげ」


「板?あいよ」


「そのまま板を持って。シンデレラ、板を殴ってみな」


シンデレラはそう言われて、腰を落とし、深く息を吐いた。


板に目掛け、思い切り拳を振る。


シンデレラの拳は板を突き抜け、ウィリーの腹に深くめり混んだ。


「ぐはっ!」





ドガア!と激しい音と共にウィリーは部屋の壁を突き抜けて吹っ飛ばされた。





煙が立ち込め、穴の空いた壁の向こう、すっかりウィリーはノックアウトされていた。


「ウィリー大丈夫かい」


「駄目じゃないかな」


「きゃあ!ウィリーさん!」


シンデレラは慌ててウィリーを起こしに行った。





ウィリーは口から血を吐き気を失っていた。


「やっぱり駄目だな」


「今、気付け薬をあげよう」


ベリンダが気付け薬を飲ませて、ウィリーは目を覚ました。





「……し、死にかけた」


「とにかくわかったね、シンデレラ。あんたは武闘家の力を身につけた」





「俺はもう嫌ですよ!このお嬢様の馬鹿力を受けるのはごめんですよ!やめて下さいよ!」


「ウィリー、あんたはシンデレラと一緒に、カンパネルラ王国を救うんだ。そうしなくちゃいけない理由があんたにはある筈だ」





ベリンダは指をちょちょいと動かして家を修復した。





「俺は……」


「問題はソール王国ということだろう」


ウィリーは唸った。


「ソール王国は戦争を好む。国中のもんが徴兵されちまう」


「ウィリーさん!一緒にカンパネルラ王国を取り戻しましょう!」


「そうは言われても、一体どうしたらいいですか。お師匠」





「何でも、昨晩ソール軍の者の手によって城中の者が眠らされたらしいわ。それに彼等はフェルディナンド王子を本物のウィリアム王子だと人々に思わせていた。惑わしの術を使っていた。相当腕の立つ術師が相手方にいるわ。その術師を破をらなきゃいけない。相当の魔力が必要よ」


「相当の魔力……」


不安げなシンデレラにベリンダが頷く。


「私が賢者の石を造るわ。賢者の石程魔力を持つものはないもの。貴方達はその材料を集めてちょうだい」





ベリンダは三本指を出した。


「賢者の石を造るのに必要なのは、硫黄、水銀、塩、この三つだ。私は塩にプネウマを込める作業をするから、あんた達二人には硫黄と水銀を手に入れて貰うよ」


「硫黄と水銀……」


シンデレラにウィリーが説明する。


「硫黄は黄色い鉱石で燃える石と言われてる。水銀は辰砂しんしゃという赤い鉱物から抽出するんだ。まあ皆、燃える石と辰砂つってるけどな」





アビーは角砂糖でお腹いっぱいで鼻ちょうちんをつけて眠っていた。


シンデレラはウィリーに対して手を差し延べた。


「よろしく、ウィリーさん」


「ああ、こちらこそ」

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