何かが違うシンデレラ
中学時代に考えた二次創作ネタです
夜のカンパネルラ城の廊下を、エイダは歩いていた。
エイダは長い金髪で、ふわふわした扇子を手にしている。
「お兄様ー?お兄様ー?」
兄の部屋のドアをノックする。
応答が無いので勝手に扉を開けた。
「お兄様ー……」
兄の部屋の窓は開き、カーテンがバタバタとはためいていた。
「お兄様……もう、どこかしら」
右手を腰に当てる。
と、後ろから声がした。
「どうしたんだい。エイダ」
エイダはびっくりして飛びのいた。
黒髪の端正な顔立ちの……緑色の王族服の男が立っていた。
「僕はここだよエイダ」
そういい、男はにっこりと笑った。
今日も、シンデレラは義母ライザと義姉キャシーにこき使われて、侍女のように働いた。
「ちゃんと掃除した?シンデレラ」
「……窓枠に埃が残ってるわよ」
「早く拭いてちょうだい」
「……はい」
長い金髪は煤と埃まみれ。
着ている服も灰色の地味なドレスに破れたエプロン。
シンデレラは雑巾を持って来て、言われた箇所を拭いた。
「拭いたわね。じゃあ引っ込んで暖炉の隅にでも座っててちょうだい」
「はい……」
シンデレラは言われた通り、暖炉の隅に座った。
暖炉の隅は煤と灰だらけで、いつもそこで控えていろと言われるので、そうしてる内にシンデレラはいつも灰にまみれた状態になってしまった。
本当はエラという名前なのに、それで灰かぶりという意味のシンデレラになってしまったのだ。
父と母は死んでしまった。
まず最初に母が病気で死んで、父が新しい妻としてライザと新しい娘としてキャシーを連れてきた。
その暫くのち、父も病気で他界。
今、この屋敷はライザとキャシーのものだった。
その日は掃除洗濯水汲み、料理など他の侍女に混ざって行い、シンデレラは夕食は固いパンと水っぽいスープをいつも通り与えられただけだった。
ライザとキャシーは今度お城で開かれる舞踏会について話していた。
「ねえ、今度の舞踏会、王子様のお相手を決めるんですって。私行きたいわ」
「そうねキャシー。あなたならきっと王子様のハートを射止めることが出来るわ」
シンデレラはストーブの傍で黙って話を聞いていた。
辛いとき、シンデレラは与えられた屋根裏部屋で友達と一緒に遊ぶ。
灰色のねずみ、アビーだ。
アビーは辛い時も傍にいてくれた。
シンデレラは固いパンをこっそり隠してアビーに与えていた。
「ねえ、アビー。お父さんとお母さんは何ですぐに死んじゃったのかな」
ぽろぽろと涙が零れる。
「何でかなあ……」
その日はいつものように、埃まみれのベッドで寝た。
翌朝、シンデレラはやることを済ますと、母の墓の元に行った。
母の墓はハシバミの木の傍にある。
父の墓はライザが分けて立てた。
「お母さん……毎日辛いよ……お母さん」
シンデレラがぽろぽろ泣いていると、ハシバミの木がざわざわと揺れた。
そこに女の影が過ぎったことにシンデレラは気付かなかった。
数日ののち、ライザとキャシーはめかしこんで……シンデレラの母親のドレスや装飾品を身につけた。
シンデレラはドレスや装飾品を取りに行かされ、また髪を焼きごてで巻く仕事もした。
やがて、ライザとキャシーは馬車に乗ってお城の舞踏会に出掛けてしまった。
シンデレラには仕事を言い付けて
。シンデレラは溜息を吐いた。
「私も行きたかったな……舞踏会」
シンデレラが外に出て井戸傍で水を汲んでいた。
そのとき、だった。
「おやおや。伯爵令嬢様が水汲みしてるぞ。こいつは良くないな」
声の方にシンデレラが目を上げると、杖に腰を掛けた少年が空に浮かんでいた。
黒いローブで、長い金髪を後ろで三つ編みに結って、十字架のペンダントを身につけている。
シンデレラは目をパチパチと瞬かせる。
「何故私が伯爵令嬢だと知ってるの?灰まみれなのに」
「そりゃあ俺が魔法使いだからさ。厳密に言うと魔法使いの弟子だけどな」
「魔法使いの弟子?」
「なんてな」
そう言うと少年はふわりと空から地面に降り立ち、長い杖を手にした。
「お師匠に言われて一日百人に魔法をかけて幸せにする修業をしているんだが、お前さんのところに行くように言われたんだ」
「私のところに……?」
「お嬢さんの願い事は何かな?言ってみなさい。聞いてあげるから」
「私……あの……」
シンデレラは目の前の良くわからない不思議な少年に、願い事を言った。
「私……お城の舞踏会に行きたい」
そう言うと、少年は「はーあ?」といった顔をした。
「城の舞踏会だー?」
シンデレラはこくりと頷く。
少年は右手を腰に手を当てる。
「いいもんじゃないぞ。あんなもん」
「でもどうしても行きたいの」
「どうしても?」
「どうしても。女の子の夢なのよ」
はあと少年は溜息を吐いた。
「仕方ねーな。わかった。願い事を聞いて差し上げよう。お嬢様」
そう言うと、少年は杖を振って呪文を唱えた。
「ビビデバビデブー!」
少年が呪文を唱えると、杖から光がふわふわと浮かび、光がシンデレラを包んだ。
シンデレラの灰色のドレスは水色の美しい、ふわふわしたドレスに変わった。
庭のかぼちゃはかぼちゃの馬車に変わり
、いつの間にか外に出てかぼちゃをかじっていたねずみのアビーは御者へと姿を変えた。
「それとはいこれ」
少年はシンデレラにガラスで出来た靴を渡す。
「これ……素敵……」
「夜の十二時までには帰ってきなさい。魔法が解けてしまうからね」
シンデレラはガラスの靴を履き、かぼちゃの馬車に乗り込んだ。
立派な伯爵令嬢と言えるドレス姿になったシンデレラを乗せて、かぼちゃの馬車は城めがけて走り去って行った。
「舞踏会……何がいいのかね、あんなの」
そう少年は一人呟いた。
シンデレラはかぼちゃの馬車から出ると城の者に案内され、城の大広間へと入った。
城は遠くで見るよりずっと大きくて、中もとても広かった。
音楽が演奏され、その音楽に合わせて人々がダンスを踊っている。
「王子様、私と踊ってください!」
「次は私と!」
精一杯めかし込み、押し寄せる女達に、女の一人と踊りながら王子は笑い掛ける。
「ははは、ちゃんと皆さんと踊りますよ」
だが、人々がざわめいて、一斉に扉の方を見ていた。
王子も釣られて皆が見ている方向を向く……。
そこには、水色のドレスを着たとても美しい少女が……シンデレラが呆然と立っていた。
王子はシンデレラの方に歩み寄り、片膝を着き、手を差し出した。
「どうか私と踊ってください」
「はい……」
シンデレラは頬を染め、王子とダンスを踊った。
それは夢のような時間だった。
踊り終わり、シンデレラは王子に連れられバルコニーに出て、共に語った。
どんなものが好きかとか、家族はどんな人間かとか。
だが、シンデレラは余り言えなかった。
(駄目……私……何を言えばいいかわからない!緊張する……)
やがて、時計の針が十二時を差した。
「あの……すみません。私これで失礼します……」
「待ってください!」
王子が追い掛けるも、シンデレラは走り出して城内を駆け抜け、城の外に出てしまった。
城の時計は十二時を差していた。
シンデレラに掛けられていた魔法は解け、水色のドレスは灰色の汚れたドレスに戻ってしまう。
かぼちゃの馬車もかぼちゃに、御者もねずみのアビーに戻ってしまう。
シンデレラは溜息を吐いた。
ガラスの靴が片方脱げていた。
「もう……終わりなのね」
片方のガラスの靴とねずみのアビーを拾い、とぼとぼと家路に着く。
だが、シンデレラの魔法が終わったのと引き換えに、ある魔法が始まっていた。
シンデレラの残された片方の靴を、王子は拾う……でなく踏んで壊した。
バラバラに砕け散ったガラスの靴を見つめる王子に兵士が話し掛ける。
「フェルディナンド様、始まりました」
「ああ、わかっている。城の中はどうだ」
「王に加えカンパネルラ王国中の貴族が眠りについております」
「今のうちに全員縄で縛って牢屋に放り込んでおけ」
王子は兵士の方を振り返った。
「一人逃げられたが、まあいい。ただの小娘だ。問題は……」
兵士が頷く。
「本物……ウィリアム王子が家出したきりで見つからないことですね」
「そいつさえ見つけて捕まえれば、もうこのカンパネルラ王国はソール王国のものだ」
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