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見晴(みはる)高等学校ーー晶が通う学校で、全校人数おおよそ500人のまま規模のある学校。

通常の学校にある設備は、ここ大体ある。

唯一特別と言えるところは、丘の上に建っていて、区内を一見できるほどの、視野の広い学校だ。

それゆえ「見晴」と名付けられた、というのが学校の歴史らしい。


そしてその丘に建てられた関係で、毎日通う学生たちにとって、面倒くさいことでしかない。

「はあ、はあ…さすがにきついなー」

晶は少し疲れた顔で、校門前まで着いた。

(家は学校との距離はそんなにないが、せっかく治ったし、走ってみよう。)

と家出た時そう考えて、全力で10分ほど走った結果だ。

おかげで、この体はそんなに運動してないと改めて実感できた。

(いや、しっかり運動してた自分から見るとそうなるか。)

『元の自分』の体は、マッチョじゃないが、少なくとも筋肉ある。そして今走った距離も、前ならここまで疲れ気味にならなかった、と思う。

(まあ、とにかく、新しい環境だし、楽しい!)


走る途中で、もちろん周りの景色を見回した。

6月の中旬は、アジサイの咲く頃。通学路の道端に、色鮮やかな赤、青、紫で満たされて、花の生きとし生ける力は目で見ても分かる。

澄み渡る空に、自然を感じる新鮮な空気。夏だからもちろん暑いけど、それを忘れさせるほど、今の目の前に広がる現実の方がインパクトが強かった。

(台湾だとまず道路を走ってる車が、速い上に、クラクションもずっと鳴らすから、うるさいよなー)

空気も臭い。

あと台湾の空気に含まれてる水分の量は日本より多いと、昔聞いたことある。夏だと蒸し暑すぎて、皮膚が汗でねばねばの感じになる。例えるなら、そう、納豆ぐらいのねばねばさだ。


見知らぬ場所と自分の故郷を比べながら、遅刻ギリギリの時間で学校に到着した。

そのまま記憶を辿り、教室に向かう。

今まで『(あきら)』が歩いた道を、今度は『(ジェンシン)』が歩くことに。

ただ、今回は違う。

(繰り返すもんか…!)


学校は4階建てで、彼は階段を上り、3階に着いた時、足を止めた。

自分の教室は、階段上った後のすぐ隣だからだ。


1年A組。

教室の中から生徒たちの騒がしい声が聞こえる。授業まだ始まってないから、それはみんなわいわい話すのは問題ないだろう。

ただ、なぜか酷く耳鳴りや雑音と似たようなものと感じる。

きっと、これは元々晶が感じたものだろう。


入学して2ヶ月も満たないから、懐かしいと言えるほどでもない。

ただ、この学校は地元でまあまあ有名なので、小、中学校を卒業して、そのままこの学校に入学する人も少なくはない。

つまり、知り合いは同じ学校に、もしくは同じクラスにいることも、決して珍しくない。

(さて、どうしようかな。)

このまま元気よく教室のドアを開けて、『Hey!戻ったよ!みんな元気!?』ていうふざけた挨拶してもいいし、今まで通りに、静かな子を演じるのも悪くない。

「お、晶か。どうした?早く教室に入れ。」

晶が悩んでる途中に、後ろから女性の声が聞こえた。

くるっと回って確認すると、先生だ。


古谷先生ーー琥珀色の髪にモデル並みのスタイル、『なんで学校にいるの?』とみんな疑うぐらいの容姿の持ち主。

入学の挨拶の時、『教育するのが好き』と本人言ってるが、その『教育』は何となく意味深に聞こえるのは気のせいと思いたい。

とにかく、面倒見がいいと、それは晶の最初の印象だった。

そして何より、晶がいじめられてることも、一番最初に気づいた。相談もした。


だからといって、状況よくならなかった。

まあ、『相手』が悪かったかもしれない。


先生がゆっくり晶の隣に近づいて、小声で「放課後、職員室に来てくれ。」と言って、そしてそのまま教室のドアを開けた。教室内の声も一瞬静まった。

「はい、みんな席に戻りなさい。ホームルーム始めるよ。」

『はいー』

生徒たちはどこかダルそうな声で返事をし、ゆっくりと自分の席に着いた。

みんなちゃんと着席したのを確認してから、先生が話し始めた。

「今日はいくつ伝えたいことあるか、まず一番大事のことから話そう。入れ、晶。」

その名前を聞いた瞬間、教室の静かだった空間が、さらに温度が下がって、絶対零度空間みたいな場所になった。

みんな教室のドアに目を向いて、そこに、晶が立っていた。

「うそ…」「退院…した?」

全員が信じられない顔で、晶を凝視した。驚く人、戸惑う人、そして嬉しいと思った人。様々感情が、彼らの顔に隠さずに出てる。

それに対し、晶は固まったまま、教室に入ろうとしない。

「うん?どうした?」

それを察したが、古谷先生が若干心配そうな声をかけた。

でも、晶は相変わらず反応なし。

緊張?どう話すのを迷ってる?

古谷先生は晶の今思ってることを推測しようとしたが、彼の目線の先を辿っていくと、答えは明白だ。

彼の視線は、自分から一番遠くにいる、教室の隅っこに座ってる生徒を見てるのだ。


そしてその生徒も彼の視線に気づいたが、悪意に満ちた笑顔で返事した。

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