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6月12日(月)
晴れやかな日。学校行くには絶好日和。
「本当に大丈夫?無理してない?もう何日休んだ方が.......」
玄関で、晶は母に見送られながら、最後の身だしなみを整えてた。
ショートヘアで爽やかな顔立ち、制服の姿が小柄の関係で、かっこいい感じ全くないか、賢くかわいいという雰囲気が自然に出てる。
陽キャまでいかないけど、これで根暗の感じはなくなるはず。
と、晶が思った。
「大丈夫だよ。お医者さんもびっくりするぐらい完全に治ったといi言ったから。」
晶は母を安心させるために、元気いっぱいの笑顔を作った。
(これから、学校で完全に安心できないことをしに行くけどね.......)
そう考えると、晶は母の顔を見つめた。
自分が入院してた時よりは、元気になった様子だけど、長年の仕事と生活のストレスによる疲れが、さすがに取れない。
目の下に見て分かるぐらいひどいクマ。腰まで伸びて、長くて黒い髪の中に隠れてる、若干の白髪。肌のツヤもあまりなく、30代後半だけど、見た目はもう40代に見える。
母がそうなった理由は、とても単純だ。
(母子家庭の辛いところ、というべきかな.......)
晶の父は、彼がまだ小さい頃に、もう車事故であの世にいった。
仕事の終わりに車で自宅帰る途中で事故にあったらしい。
あの時まだ幼すぎるから、事故の話は母から聞いたものだけ。それで記憶は結構曖昧になっている。
たぶんそこからだろう、母が仕事と子供の世話を一人で全部しないといけなくなり、晶は母に迷惑かけたくないことを考え始めて、学校のことあまり話さなくなった。
そして学校いる時もまた、周りとの違いを感じたくなかったから、何も話さないようにしてた。
それを小学校からずっと続けて、その結果は、
今の自分のこの状態だ。
ただ、こういうことはきっと、世の中どこでもあるだろう。知られてないだけで。
でも、自分が知った以上、さらに当事者になってるから、見て見ぬふりはできない。
「晶、どうしたの?ぼっとして、大丈夫?」
「あ.......うん、大丈夫。ちょっと考えこと。」
「平気?なんか病院で目覚めてから、たまに変なところあるけど.......」
「えっ、へ、変?どこですか?」
そう言われて、晶は明らかに狼狽えた。
「ほら、そういう感じにたまに口調変わってるし。」
ぐさ。
「先みたいに、なんか心がここにあらずの感じもあるし。」
ぐさ。ぐさ。
「そもそも性格がなんか変わった感じもなくはないし。」
ぐさ。ぐさ。ぐさ。
「は、はは、そうなの?気のせいだよー」
鋭い。
晶は冷や汗をかきながら、わざとらしい明るい声で誤魔化そうとした。
いや、まあ、本人じゃないから、記憶あっても、所詮モノマネでしかない。
なにより、2週間も満たない時間で、知らない人の16年の人生を真似するというのは、無理があると思う。
「.......ふふ、でも、元気になってくれて、よかった。あのまま目覚めなかったら、それを考えると私.......」
母が途中まで話して、涙目になった。
「あ、お、お母さん、泣かないでよ。」
「だってー」
「あ、学校行かないともうやばいから、出かけるね!」
晶は逃げるように玄関のドアを開けて、走り出した。
そうでもしないと、母を落ち着かせるために、ハグされた状態で、お説教と昔話、色々聞いてあげないとまず落ち着かない。それで1時間ぐらいかかるかもしれない。病院で目覚めた後、ほぼ毎日そういう感じに過ごしてきたから。
そうしたら完全に遅刻だ!
「あ!晩ご飯ちゃんと帰ってきて食べてねー」
「分かった!行ってきますーー!」
そして晶が青空の下に、新しい一歩を、踏み出した。