アクシラ対ヴェルネスト
わたしの戦い方に、観客の人たちが驚いていた。
長年、学園祭を見てきて目が肥えている人たち。名の知られた魔剣士や学生たち。
大勢が食い入るようにわたしとベルさんに視線を向けているのがわかる。わかっちゃう。
だから──視線だけでも、度肝を抜かれたって感じがひしひしと伝わって、その上で歓声まで聞こえてくると心臓がバクバクと鳴っていく。
わたしはぶっ倒れそうだった。
ともかく……わたしの戦い方というのは、今まで見てきた魔剣士の戦い方ではない、みたいだ。
わたしとしても、わたしと同じような戦い方の人を見たことがないんだから、案外この戦い方って珍しいのかもとは思ってたんだけどね。
「リーネちゃん」
それはなに?
ベルさんは聞きたそうだったけれど、こっちは戦いの最中に会話するような余裕がない。
仕方なく、答えずに少し距離をとった。
新しい黒剣を両手に持って、右に左にふりふり。
剣に弾かれると捨てて、新しく作り直す──。
元々使い捨てる予定の剣だからこそ、圧倒的にすばやいベルさんを相手にしても追いつけている。……気がする。
いや、ダメだった。
『おおーっと! 奇妙な剣を使うリーネ選手、ベル選手に蹴りを喰らってしまったァーー!!』
司会の女子生徒の声がコロッセオに響いた。
ベルさんは追撃を仕掛けず、蹴りを放った場所で剣を振ってる。まるで血糊がついたのを振り落としている感じ。
まあこの試合は魔力の腕輪で守られているから、怪我すらしないんだけど。
「あっ」
気づいて大モニターを見てみると、わたしの写真の横にあるゲージが下がっていた。
お姉ちゃんの相手をしている人のゲージがぐいぐい減っていく。
「ゲームみたい」
あんまりやったことなかったけど、格闘ゲームの体力ゲージってこんなだったと思う。
わたしは尻餅をついていた体勢から立ち上がる。
魔力の腕輪があるから、狂想曲の格好をするのはズルいはず。だってさぁ、魔力の腕輪が守ってくれる上から鎧を着込むようなものだもんね。
「リーネちゃん、おもしろい戦い方だね。あたし、以前にそういう剣を使ってる人に合ったことがあるよ」
「えっ、そうなんですか!?」
な、なんてことだ。
わたし以外にも砂鉄を武器にしている人ってやっぱりいたのか。
「うん。案外、リーネちゃんの師匠だったりして」
わたしに師匠なんていないはずだけど……。
ともかく、ベルさんはそんなことを言って剣を目線の高さで横に構える。
ベルさんの剣は大剣なのに、速い。大剣だからこそ、重い。
正直、黒大剣を上手く扱えないわたしは、その戦い方を教えて欲しいくらいだ。
「勝ちたいので、今から」
わたしは視線を正面に戻して、ベルさんのあやめ色の瞳を見つめて。
「──すこしだけズルをします」
ベルさんがかすかに目を細める。
やっぱりズルはいけない、かも。
でも訂正する前にベルさんが突っ込んできた。弾かれた弓矢のように、わたしへと。
──がきぃん
重い金属音が辺りに響く。
大剣は左手の黒い盾に防がれていた。もう片方の手には細めの黒剣がカタチを作っている。
わたしはそのまま前に進んでいく。
「盾と剣?」
ベルさんは最初こそ驚いていたようだけど、すぐに対応してしまう。
盾を叩いて叩いて隙ができると蹴ってくる。
「うわっ」
また攻撃を受けちゃってゲージの残量が半分くらいになった。
「武器を自由に変えられるのは戦いにくいけど、リーネちゃんらしさが無くなってしまうよ」
ダメ出し。ぐぬぬ。
「わ、わたしは……陽キャになりたくて」
「陽キャ?」
ベルさんは肩に大剣を置いて首をひねってる。
すこし離れたところにお姉ちゃんがいた。もう勝って暇をもて余しているって感じ。やっぱりお姉ちゃんはすごい。
「明るい人のことです。わたしは……その、髪を切ったりしてみたけど、やっぱり暗いままで」
お姉ちゃんがわたしを見ていた。
これは試合だ。勝つための作戦として、ふたりでベルさんと戦うのは何も卑怯なことではないし、むしろするべきことだとも思う。
「こっちに来てから、たくさんの人に出会いました。クラスメイトたちは……そのなかでも明るくて、いい人ばかりです。だから……!」
わたしはごくりと息を呑んだ。
お姉ちゃんに手伝って欲しい反面、ひとりだけで戦いたい。
「お姉ちゃん、わたしが勝つところを見てて!」
「ふふっ、何をするのかわからないけど、あたしも負ける気はないよ!」
ベルさんは背後にいるお姉ちゃんがこっちを見ていたのを知っていたのか、口端だけをあげてクールに笑う。
わたしとベルさんが正面から激突した。
大剣を受けた黒盾が音もなく割れる。ベルさんはそんなに力をいれていないのに、と言いたそうな顔。
それはそうで、だって黒盾はわたしが分裂させたんだから。
割れた黒盾が黒小剣に変わる。
逆手に持った黒小剣をわたしは交差させるようの構えた。
「あれ? あたしの型じゃん!」
数えきれないくらいの大勢の観客がやって来ているコロッセオなのに、その声が聞こえる。
ちらりと見るとシャロがポップコーンを食べながらこっちを指さしてた。アホ毛がピーンと立つ。
「じゃあ、さっきの盾と剣はわたしのかな」
シャルの隣にいるシャロの声も聞こえた気がする。たぶん幻聴じゃない。はず。
わたしはシャルが戦うように動いて、ベルさんに進んでいく。
「いい動きだね。まるで別人だ」
ベルさんは素直に感心しているみたい。
わたしはシャルの動きを完璧に模倣している。
つまりシャルの動きがいいってことだろう。
それでもやっぱりベルさんの方が速くて、力も強い。
まるでカンフー映画みたいに突き出した腕がからめとられて背負い投げされた。
さらにとどめの一撃。
「えっ」
ベルさんは驚いていた。
わたしが背中を壇上につけたまま動いたからだ。するりと。
仰向けのまま動く。まるでゴキブリみたいに……いや、なんでもない。
「ま、まだまだ!」
立ち上がると黒小剣が黒剣に変わる。いつものカタチじゃなくて、これはゼオの剣のカタチ。
わたしはゼオの構えで突っ込んでいく。
体力もなければ剣術の才能もないわたしに、本当はこんな真似なんてできない。
それでもやっているのは手首と靴裏にある砂鉄を動かして、無理矢理に身体を動かしているからだった。
クラスメイトたちの動きをコピーして動く剣術……名付けて陽キャコピー剣術。…………名前はまた今度でいいや。
わたしはわたしじゃないように動いた。
まるでジェットコースター。むしろ戦闘機。……戦闘機なんて乗ったことなんてないけど。
そんな負担やらGが身体を無理矢理動かしていく。
がんばれ手足。
勝っても負けても、筋肉痛には苦しめられそうだ。




