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思いがけない来客

 わたしはがんばることにした。

 さすがに優勝とは言わなくても……先輩やお姉ちゃんの足を引っ張らなければ、それで……。

 ううん! ダメだ!


「優勝目指してがんばりましょう!」


 ゴゴゴッとやる気を出しながらわたしは言った。

 やっぱり優勝だ。

 ミレーユさんの代わりなんだから!

 

 開会式まであと1時間。

 今日の試合は一騎討ちや戦争よりも重要視されているらしい。

 他の競技で全勝していても、決戦で負ければそれは負けを意味する──とか。って他の試合をやる意味ってあったの?

 ううーん、わからない。

 でもがんばるって決めたんだから、がんばらないと!


「それはそうなんだが、なあ?」


 ライコ先輩がミツモちゃんを見た。


「うん。実力うんぬんはミレーユさんが認めてるのでいいけど、連携とか無理だと思う」


「だろうな」


 お姉ちゃんは紅茶の入ったカップを唇へと持っていく。

 いい香りが隣に座っているわたしの鼻まで届いた。


「リーネの実力はわたしも保証するが、この4人で連携をとるのは難しいとしか言えないだろう」


「だな。多少のことはできても、そんなの付け焼き刃だ。練習を続けている他校のやつらに通用するとは思えねぇ」


「そうなると……困ったね」


 朝早くに呼び出された一室で、わたしたち……というか先輩たちとお姉ちゃんが悩んでいる。

 何度目かのうーん、という声にひとり黙って座っていたミレーユさんが口を開いた。


「こういう作戦はどうだろう」


 ──と。

 それは単純だったけれど、これしかないって思える作戦で。

 わたしたちにはそれしかできなかったのもあって、決戦での作戦が決定したのだった。


 作戦会議が終わったあと、わたしたちは試合に向かうために廊下を歩いていた。

 窓から見えるコロッセオはつい数日前にはなかったもの。

 それが今は見上げるほど高くて、以前からあったと言わんばかりに堂々とわたしたちを見下ろしている。

 廊下だから他の生徒たちもいる。アクシラの生徒たちはがんばれ、と応援してくれた。

 他校の生徒たちはわたしたちを──とくに1年生である、わたしを値踏みするかのような目で見てくる。


「……むっ」


 いつもだったら視線をそらしてた。

 でも今のわたしはいつものわたしとは違うんだ!


「置いてくぞ」


 わたしはジィーーーーと見つめ返していた生徒から視線を外してライコ先輩の後ろに戻る。

 お姉ちゃんがハンカチで目元をぬぐっていた。な、なんで?


「ああ……リーネが家族以外の目を見れるようになるなんて……」


 およよと泣いているお姉ちゃん。

 そんなお姉ちゃんに肩を落としかけたとき、


「お姉ちゃん!」


 声が聞こえた。

 お姉ちゃん?


「へぶっ」


 廊下から外に出たところで、いきなりお姉ちゃんが立ち止まった。

 だからか、ライコ先輩とミツモちゃんも立ち止まったみたい。

 日差しに目を細めていた上に、前にライコ先輩の壁のような背中がある。わたしはその背中に衝突してしまった。

 びたーん、と。ミツモちゃん、ライコ先輩、わたしで地面に倒れ込んで。

 先輩たちが悲鳴のような声をあげる。


「お前、めちゃくちゃ重いな!」


「ど、どいてー!」


 わたしは急いで先輩たちの背中から移動した。

 べ、別に体重が重いワケじゃないよ! ずっと寝かせて回復させていた黒大剣の魔力がようやく回復したから、今日は背負っているんであって……。

 その重さがあるから……重いんだろう。わたしは軽いはず。


「ご、ごめんなさい」


「お姉ちゃん、なにやってるのー」


 くすくすと誰かが笑った。


「すいません。娘がご迷惑を」


「これからも仲良くしてあげてくださいね」


 聞き覚えのある、懐かしい声の方にわたしは顔を向けた。


「なっ、なっなっなっ!?」


 わたしは驚いて口をあんぐりとさせる。

 だって、すごく驚いたんだ。

 夜、奇術師さんに出会ったときよりも、ずっとずっと驚いていた。


「なんでメリルがいるの!? それにお父さんとお母さんまで!!」


 そこにいたのは、お姉ちゃんに頭を撫でられている妹のメリルと、その横に立つお父さんとお母さん (3人とも奮発したのか高そうな服……)だった。



◇◆◇



 ライコ先輩とミツモちゃんは家族との再会だとわかると、先にコロッセオに向かった。

 わたしとお姉ちゃんは久しぶりの家族の再会に喜んでいたんだけど、でもどうしてメリルたちがいるんだろう。

 船か飛行船を使った?

 いやぁ……うちにそんなお金があるはずが……。


「実はリーゼリア姫の使者がうちにいらっしゃってね」


「ええ。最初はどうしたのかしら、っておどろいたんだけど」


「アデルはともかく、リーネが代表選手に選ばれたと聞いてびっくりしたよ」


「そうよねぇ。リーネは人前に出るのだって苦手だったもの」


 うう、そういう話はやめて欲しい。なんだか恥ずかしい。

 というか。

 お父さんとお母さんの説明を受けてわたしはさらに驚いたよ。

 なんと、リゼがお父さんたちを王家専用の飛行船に乗せてくれたらしいんだ。

 わたしとお姉ちゃんの晴れ舞台だからって。

 話を聞いていると、ぽろぽろと涙が頬の上を流れていく。

 悲しくなんてないのに。むしろうれしいのに。


「お姉ちゃん。お父さん、お姫さまの使者さんが来たとき、おうちがなくなるーって騒いでたよ」


「こ、こらメリル、そんなことを言うんじゃない」


「ホントだよねっ、お母さん。お姉ちゃんが粗相(ソソー)をしたんじゃないかって」


「そ、そんなこともあったかしら」


「お、おぼえてないな」


 わたしはがっくし肩を落とした。

 今流れている涙は悲しみの涙だよ。


 家族の懐かしい雰囲気に、わたしとお姉ちゃんは微笑んだ。

 というか粗相なんてしないよ! ……たぶん。

 ともかく、わたしは指で涙を拭う。

 コロッセオのほうで歓声が響いていた。


「父さん、母さん。優勝してみせる」


「がんばるんだぞ、アデル」


「怪我はしないようにね」


「行くか、リーネ」


「うん。話はあとで出来るもんね!」


「お姉ちゃんたち、がんばれー!」


 わたしとお姉ちゃんはコロッセオに向けて走る。メリルたちは客席から応援してくれるらしい。

 また負けられない理由ができた!

 よし、がんばるぞーー!!

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