アクシラ魔剣士学園、最強ランキング
翌日、教室でリゼにコロッセオについて聞いてみた。
運動場を占拠してどうするつもりなんだろう、と。
そして意味がわからないコロッセオなんかよりも、わたしのほうが意味がわからない存在だとばかりに、いぶかしんだ顔で見られちゃった。
「……リーネ、もしかしてまだ学園祭が何かわかってないの?」
リゼの声がちょうど静まり返っていた教室に響く。
どうしてこういうときだけあちこちの会話が止まるんだろう。
「あっいや、わかってるよ。学園祭ってクラスで出し物したり踊ったり歌ったり……じゃないんだよね」
クラスメイトたちの唖然としていく顔で違うんだなって……察した。
どうしよう。
中学校の文化祭の延長みたいなイメージだったのに!
「あわわわ」
「顔がとんでもないことになってるから落ち着きなさい」
「……はい」
「と言っても、わたしも正直どんなことをするのかは、知らないんだけどね」
クラスメイトたちがずっこけた。
がっくし肩を落としたシャルがプリントの裏に絵を書いて、はいっと渡してくれて。
なにこれ。
「学園祭っていうのはな、簡単に言っちゃえば学園対抗の威張りあいだ」
「この絵は?」
「怒ってる猫」
「あっそう、なんだ」
猫なんだ、これ。
でもなんで怒ってる猫の絵を描いたんだろう。言われてみれば周囲を警戒してる毛が逆立った猫に見えてくる。
「今年はアクシラ学園で開催するけど、開催場所は毎年違ってて順番に回ってくるんだ」
「……学園祭の?」
「学園祭の」
うーん。どういうこと?
「シャルの説明が悪いよ」
シャロがこめかみ辺りを掻きながらこっちに向いた。
「学園祭はね、他の学園からも生徒がやって来るの。そして集まった生徒たちが戦って、実力を示す催しだよ」
「それってもしかしてコロッセオで?」
「うん。コロッセオでやるの」
「もしかしてトーナメント形式で生徒同士が戦ったり?」
「うん。その通り……あれ、リーネ知ってたの?」
「いや、似たようなものを知っているというかなんというか」
異世界。
学園。
そう来れば──やっぱりあったんだ、トーナメント戦が。
思い出してみれば、運び屋さんの仕事が終わったあとの列車内で最強の学生がどうとかいう話が聞こえてきたっけ。
あれって、この学園祭のことを言っていたんだろう。たぶん。
「ふ、ふふふっ」
異世界の陰キャは観客席の最後尾で応援するくらいだろう。
でも今のわたしは陽キャなんだ。
いや、陽キャになりたいんだ。切実に。
「だったらやるしかない! わたし結構まあまあ案外それほどでもないかも知れなくもないくらい、強いらしいし! わたし……」
息を呑む。
ごくりと喉が鳴った。
「トーナメントで優勝しましゅっ!!」
あばばばばばばばばば。
一世一代の大場面で噛んじゃった。
わたしは自分の顔が真っ赤に染まっていくのを感じたけれど、やるって決めたからにはもう退けない。
みんなの視線が集まる。視線を下げても意味がない。上を見ないと……!
「あの、リーネさん。やる気があるのはいいけれど」
視線を動かすと、ちょうど教室に入ってきていたエールッシュ先生と目があった。
なんだかバツが悪そうにわたしを見てる。
「前にも言ったでしょう? 学園祭は、2年生からしか出れなくて……だからリーネさんは出場できないですよ」
わたしは身体が灰になって風で吹き飛んでいくのを感じた。
そのあとは放心状態で授業を受けて、午前の授業がすべて終わった。
授業が終わると食堂に行って、わたしたちは食事をすることになったんだけど。
今日はどうしてだか騒がしい。
「おい、あれを見ろ」
そんな声が聞こえる。
別にわたしに言ったんじゃなくて、周りの人たちに言ったみたいだ。
でもわたしも気になったのでそっちを見てみた。
人だかりがある。
「なにかしら」
リゼが気にしてるのか気にしてないのかわからないほど、優雅な様子でティーカップを唇に持っていく。
さすがお姫さま。わたしが同じように飲んでも、こんなにも絵にはならないと思う。
「他の学園から生徒が来たんじゃないか?」
「来るのは明後日だよ」
シャルとシャロの双子だって、優雅な感じだ。
学園長のお孫さん──つまりあの飛行船ローレンティア号で出会ったおばあさんの孫なんだから当然かも。
「これ、わたしだけが貧乏なのでは?」
わたしは小声で言った。
食堂の入り口辺りでの騒ぎもあって周りには聞こえていないみたい。
もう一度入り口の辺りを見てみると、ちょうど騒ぎが収まってきていた。
人垣が割れて、そこから数人が進んでくる。
先頭にいるのは水色の髪をした生徒会長ミレーユさん。その右側にお姉ちゃん、左側に目付きの鋭い男子生徒、さらに後ろにおとなしそうな女子生徒という四人組だ。
「ミレーユ会長! こっちを向いてぇ~!!」
「剣鬼! 再戦してくれ、次は負けねぇ!!」
「ライコさまぁ~!!」
「ミツモ先輩、図書室のものですが、貸し出した本を返してください」
わーわーキャーキャーという黄色い声援が食堂を包み込む。
お姉ちゃんと最後の人だけ、黄色い声援じゃない気が……するけど。
リゼがティーカップをおいてミレーユ会長を見た。
「あれがアクシラ魔剣士学園の生徒会長ミレーユ……まさしく才色兼備が歩いているかのようだわ。この人望、すばらしい人のようね」
「いや、それはない」
わたしは即答した。
昨日のあんな姿を見ている以上、それだけは答えないままではいられなかった。
「そう?」
「そう!」
わたしが頭をぶんぶん上下に振っていると、立ち止まる足音がした。それも間近で。
「おや、またあったね。リーネちゃん」
「あっ……はい。ミレーユ会長」
ミレーユ会長はわたしの隣に座った。
ちょうど空いていたからっていうのもあるんだろうけどね。
右にミレーユ会長、左にリゼ。そんなふたりに挟まれると……すごく食べにくい。
ミレーユ会長の隣に座っていた他の生徒たちがどうぞどうぞと席を開けていく。そこにお姉ちゃんたちが座っちゃって、食堂中の視線がわたしたちに集まった。
「へえ、その子が剣鬼の妹か。全然強そうじゃねえな」
げらげらと男子生徒が笑う。たしかライコって名前だっけ?
うどんを食べようとしたお姉ちゃんの箸がへし折れた。
「髪の色は違うんですね。瞳の色は同じみたいだけど」
ミツモと呼ばれていた先輩がわたしの顔を覗き込む。
お姉ちゃんの前にあるうどんが入ったどんぶりがガタガタと、触ってもいないのに動いてる。
これお姉ちゃんの魔力なんだろうか? オーラ的なものが滝壺みたいにバシバシ流れてくる。先輩たちは平気みたいだ。
でもリゼやシャルとシャロは唇をぴったりとくっつけて青い顔をしている。
「あ、あのお姉ちゃん?」
「……ああ、すまない。すこし、すこーーーーーし、殺気が漏れていた」
あれ殺気だったんだ……。
「俺はライコという。お前の姉を倒す男だ」
「わたしはミツモ。ミツモちゃん先輩と呼んでいいよ。だから代わりに本を返して来て」
あとから聞いた話なんだけど、この人たちが、アクシラ魔剣士学園での最強ランキング上位4人らしい。




