休みの日はショッピング
翌日に朝。
ケープをまとった(学生の証だから)わたしとリゼが寮から出ると、お姉ちゃんがすぐそこに立っていた。待っていたらしい。
お姉ちゃんのケープの色は青色でわたしたちは赤色。2年生は黄色なんだって。信号かな。
ともかく……えっ、なんでいるの?
「リーネ、会いたかった」
「うん」
わたしもだよ。ただ入学式のアレはやめて欲しかったなぁ。
今でも先輩たちから決闘を挑まれたりするし。
でも1度も戦ってはいない。
魔剣士のプライド的に、背中からは襲えないとかなんとか。
だから逃げれば戦いにはならない。だからわたしは逃げ続けている。だから……ま、そんな感じの学園生活です。お姉ちゃんのせいです。はい。
とはいえ、久しぶりの再会だ。
「お姉ちゃん、もっと早く会いに来てくれるんだと思ってた」
「本当は、もっと早く会いたかったんだけど、わたしは捕まっていてな」
「えっ」
「いや、犯罪とかじゃないぞ? 入学式のときにパトリシアを……生徒会長なんだが、彼女を拘束してロッカーに閉じ込めていたのがバレただけだ」
「それ犯罪じゃん」
わたしは冷静にツッコミを入れた。
まさか在校生代表という立場を、武力で奪っていたなんて。
「そうか? ふむ。それから自室待機させられてな、反省文をつらつらと書かされて、ようやくさっき解放されたから会いに来たんだが」
と、お姉ちゃんはリゼを見る。
「リーゼリア姫」
ぺこりと頭を下げて。
「リーネになにか、ご用ですか?」
「ご用っていうか、これから一緒に買い物に行くんだー」
わたしの言葉にお姉ちゃんが目を見開いた。
スカートのポケットからハンカチを取り出して目尻に当ててる。
しくしく。
「そうか。うう……リーネに友達ができたのか」
「泣かないでよ!」
わたしとお姉ちゃんがわちゃわちゃしていると、リゼが頭を下げた。
「アデルさん、単刀直入に言います。わたしをあなたの弟子にしてください! わたしは強くなりたいんです」
お姉ちゃんの氷の張った湖のような色の瞳がわたしを見つめる。
これは冗談か? そう言いたそうな感じ。
リゼの友達のわたしとしても、お姉ちゃんはオススメできる師匠だとは思う。
友達に対してなにかできるなら、そりゃやらなきゃ!
わたしは手のひらをあわせて、顔の前に持っていく。
「お姉ちゃん、わたしからもおねがい」
「……ふたりは友達なんだよな?」
お姉ちゃんはわたしの目をじぃー、と見つめた。
「ふへへ」
「友達です!」
「よかったな、リーネ」
にこにこと笑うお姉ちゃんがわたしの頭をやさしく撫でる。
リゼが家族だったら目を見れるんだ、とか言ってるけど、そりゃそうでしょ~。
「話はわかりました。リーゼリア姫、これからも妹と仲良くしてあげてほしい。それで師匠という話ですが」
お姉ちゃんは腕を組んだ。
「わたしよりもリーネに頼んだほうが、良いのでは?」
「えっ、リーネに?」
「いやいやお姉ちゃん、なにを言い出すの! わたしなんかに無理だって!」
「なぜだ? わたしよりもリーネのほうが強いだろう?」
「そんなこと無いって!」
リゼが困惑してる顔でわたしを見る。わたしだって困惑してるよ。
魔力量ではお姉ちゃんに勝ってるかもしれないけど、戦ったら勝てないって……。
「ふむ。リーゼリア姫、師弟うんぬんの話は後日でいいでしょうか? わたしもすぐには決められないので」
「それは……はい! わかりました」
リゼは元気よく答える。
「では、またそのときに」
お姉ちゃんは忙しいみたいで、これからいろいろと行くとこがあるんだとか。
だからここでわかれる。
ま、いつでも会えるよね。
わたしたちはお姉ちゃんに手を振って別れたあと、一緒に街に出かけた。
◇◇◇
小学生のころに浮いて、中学生でぼっちになったわたし。
貴族の子供たちとの顔合わせでアガちゃって空気になったわたし。
そんなどっちの世界のわたしでも、ぼっちなことには変わりがない。
でも学園デビューしてから……友達もできて。
ああ、わたしは陽キャになったんだーって。
思ったけどさ。
「うう……陽キャってなにをすれば?」
「えっ? なにか言った?」
リゼが首をかしげる。
高級そうなドレスなのか日常的に着ていいのか、わたしにはわからない服を持ちながら、そのうえで店員さんから「お似合いですよー」とかいうビジネススマイルを受けつつ……うわああああ。
「わたしにはこのお店が明るすぎる!」
陽キャレベル1のわたしには陽キャレベル300越えのお店は拒否反応ががががが。
「魂が抜けてるような顔だけど、どうかした?」
「い、いや……」
「そう?」
わたしはリゼを見習って、かけられている服を手に取ってみた。
音もなく店員さんがやってくる。
「あら、お客さま。お似合いになってますよ。そちらは今年の流行りの色でして──」
「あっ買います」
わたしは即答した。
断っていいのかどうかもわからないし。
美人の店員さんが似合ってるって言ってくれたし。服も綺麗だし。
値段が……あれ? 0が2つくらい、多くない?
「あっ買えません」
涙を流しながらがま口財布を閉じる。
それからもショッピングを続けたわたしとリゼは、お手軽な値段の雑貨屋をめぐったりして首都リーンを観光なんかもした。
わたしはともかく。
ローレンティアの首都に住んでいたであろうリゼも、アクシラ王国の首都リーンの、すべてが目新しく感じるみたい。
「通りには街灯があって夜でも明るい。街路にはゴミも落ちていない。……魔法の技術だけじゃなくて、都市としても、アクシラ王国はローレンティア王国の何歩も先にいる。本当にアクシラ魔剣士学園に来てよかった」
感慨深そうな声でリゼが言う。
たしかに綺麗な街並みだけど、日本に住んでいたわたしからすれば、馬車が走っている時点で田舎どころか時代劇みたいだなって思える。
もちろんトトラの町とは比べられないくらいに発展してるけどね。
「さてと」
リゼは王女の顔じゃなくて学生の顔になる。
「次はどこに行く?」
えっ。
もう何時間もショッピングしてるし、そろそろ帰るんじゃないの?
陽キャ。あと王女……おそるべし。
いや、今のわたしは陽キャなんだ。どこか言わないと!
「じゃ、じゃあ本屋さんとか行ってみたいなって」
「リーネ、詩をたしなむの?」
「へっ……娯楽小説的なものが欲しくて……」
「娯楽小説? 騎士とドラゴンが戦うおとぎ話のこと?」
「……あの、おまかせします」
なんてこった。この世界にはラノベとかが無いのかもしれない。




