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不穏な会議

 新入生、というよりはそろそろ1年生と呼んだほうがよさそうな生徒たちも眠りについた頃。

 学園の会議室に数名の教師が集められていた。

 わたし、エールッシュ・カーリットもそのひとりだ。


「これから、緊急の会議をはじめます」


 そうおっしゃったのは学園長のミカエラさま。

 他の教師たちも、そしてわたしも、わずかにうなずく。


「でもそうねぇ。本題に入る前に、1年生たちの様子を聞こうかしらね。気になった生徒はいる?」


 やんわりとした笑顔はトラブルに見舞われている学園に咲いた、1輪の花のよう。

 すこしばかり緊迫していた空気がやわらいで……。


「では」


 と、グノー先生が声を出す。


「ローレンティアのふたりについて話します」


「ええ。あのふたりはどんな様子?」


「リーゼリア姫の魔力はそこまで多くはないですが、良い戦闘技術を持っていると思います。どこかで見た技か、あるいはローレンティアでは普通なのかわかりませんが……わたしのゴーレムを掌底(しょうてい)で砕いたのには、おどろきましたよ」


「まあ、すごいわね」


 ミカエラさまはにこにこと優しそうに笑った。


「次に、リーネですが」


 グノー先生は考えているように目を伏せる。


「正直……わかりません」


「わからない? どうしてです?」


 口を挟んだのはゲイル先生だった。

 わたしと同じく新任の教師ではあるけれど、2年生を教えている教師だ。

 首をかしげて金色を髪が揺れる。

 わたしはこの人が嫌いだった。濃い青色の瞳が、なんだか嫌な光を放っているように感じるから。

 でも生徒や他の女性教師には、結構人気らしい。

 すらりとした身体や整った顔つきのためだろうか。わたしには何から何までウソっぽく見えてしまうけれど。


「おや、エールッシュ先生。どうかしましたか?」


 さわやかな笑顔で、ゲイル先生がわたしを見る。


「いえ」


 わたしはわずかに首を振った。


「こほん」


 グノー先生がわざとらしく咳払いをする。


「リーネに関しては、やはりわからないというのが正しいのでしょう。ゴーレムに込めていた魔力が尽きるまで、攻撃を受け続ける……そんな芸当はわれわれ教師でもできない。だが彼女はやった。もう一度だけ言います。わからない」


 アクシラ魔剣士学園の教師のなかでも、グノー先生はすぐれた魔剣士であり研究者だ。

 そんなグノー先生が、わからないと言うなんて思わなかった。

 いや、たしかに実技試験でもリーネさんは桁外れな魔力を見せている。

 わたしはそれを見た。けれど……どうなんだろう。


「では、次はわたしが」


 と、ベルベット先生。

 暗い見た目だけれど、とてもやさしい人だ。わたしとミザリアの学生時代の先輩でもある。


「わたしも、リーネさんですね」


 こうして他の教師たちが気になった生徒のことや新しく受け持ったクラスことを語っていき、ミカエラさまはそれを楽しそうに聞いていた。

 今年の1年生は優秀な生徒が多い。わたしもそれは認めるけれど、グノー先生とベルベット先生が言っていたほどの才能は、リーネさんには感じない。

 実際に魔力量は桁外れなのだろう。

 でも魔剣士は魔力量だけで優劣が決まるモノではないし。


「エールッシュ先生。では、あの件を報告してください」


 ミカエラさまは優しげな表情だったけれど、実際の感情まではわからない。

 なぜならこれからわたしが話す内容は、アクシラ魔剣士学園がはじまって以来の大事件だから。

 他の教師たちが居住(いず)まいを正す。


「はい。わたしは今日、自分が担当する1年赤組の生徒たちを地下迷宮につれていきました。いつも通りの迷宮探索の授業だったんですが、負傷者が数名出てしまいました」


「それは聞いたが、喧嘩か?」


「いえ」


 グノー先生からの言葉にわたしは首をふりふり。 


「生徒たちからの説明では、迷宮内に人造生物が出た、と」


「なに?」


 話は内密にしていたから、グノー先生を含めた事情を知らなかった先生たちは顔をしかめた。

 大きなテーブルにぐるりと座っている先生たち。その奥の席から声が聞こえる。


「ありえない」


「人造生物なんて、だれか研究していたか?」


「そんなの学園ではやっていないだろう」


 ざわざわ。ざわざわ。

 声が聞こえているなかで、手が上がる。


「エールッシュ。生徒たちが喧嘩して、それを隠すためにウソをついたんじゃないか?」


 グノー先生からの言葉に、もう一度わたしは首を左右に振った。


「生徒からの報告を受け、わたしは即座に迷宮に入りました。そこで人造生物を見つけることはできなかったのですが、カケラを見つけまして」


「これ」


 ベルベット先生が小瓶をテーブルに置く。


「調べさせてもらった」


 数人の教師たちはムッとした。

 わたしはこの件をミカエラさまに報告して、ミカエラさまはベルベット先生に解析を頼んだ。

 知らされてなかった教師たちは疎外感があるのだろう。


「どうだったの、ベルベット先生」


「学園長……これは学園のモノではないです。保管されてたモノと比べても該当しなかった、です。学生が作った可能性はありますけど、こんな高品質なの……わたしは造れない」


「つまり、それって」


 息がつまりそうな殺伐とした会議室に、あっけらかんとした声がする。

 ゲイル先生だ。彼は一房(ひとふさ)だけ長い髪を指でもてあそぶ。


「学園に侵入したやつがいるってことですか? それも、侵入するだけじゃなくて人造生物を運び込んで迷宮に(はな)った?」


 先生たちが意見を言い、議論する。

 もしも本当に侵入者がいたとすれば、アクシラ魔剣士学園で初の事態だ。

 ミカエラさまは目を閉ざしていて感情は読み取れない。



【リーネ】



 朝になって寮の部屋の扉を開けると、扉の横に制服が置かれている。

 (こん)色のスカートと灰色のブレザーは日本の高校生が着ていそうな制服だった。

 ここに赤組を示す、赤色のケープをまとえば……んーコスプレっぽい?


「おお! リゼ似合ってる!!」


 着替え終えたリゼはすこしだけ頬を赤くしたけど、すぐにいつもの白色に戻った。


「あなたも似合ってる」


 ぼそり。

 リゼの声はわたしに聞こえていた。


「ふへへっ。ふひひ」


「……言わなきゃよかったわ」


 そんな朝。

 明日から2日間、学園は休日──お休みだ。

 わたしはなんと!

 リゼとお買い物に行こうという約束をしていたりする。

 休みの日に友達とショッピング。ああ、陽キャだ。なんて陽キャなんだろう。


「なにしてるの、授業がはじまるわよ」


「う、うん!」


 わたしはリゼの背中を追いかけた。

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