男の子たちと一緒
ゼオ王子……いや、ゼオからわたしは説明を受けた。
ここはまさしく迷宮。迷路のような場所なんだって。
わたしが遅れているあいだに、みんなは先に進んでバラバラに散らばっていったんだとか。
「どのルートが正解……この正解ってのは出口に繋がっているかってことだが、それがわからない」
「あっはい!」
「普通ならヒントのようなものがあるはずだろ?」
「あっはい!」
「まず、どの程度の広さかわからねぇ。出口がいくつあるのかも、バケモノどもをどうすればいいのかもわからん」
「あっはい!」
「…………」
ゼオが目を細めた。
「おまえ、聞いてるか?」
「あっはい! もちろんです!」
わたしの心臓がどくんどくん鳴っている。外にも聞こえてるかも知れない。
だってさ……同い年の男の子となんて話したことないもん。
中学生のときにプリントを配って貰って「はい」と来て「あっどうも」ってくらいの会話しかしたことなかったんだよ!?
陽キャな女の子だったらお話しする男の子だって5人や10人や100人や1000人くらいいるんでしょ?
まだまだわたしの陽キャ街道は先が見えないなぁ。
「あのバケモノ犬を見ただろ? ありゃ魔法で造られた、人造生物だろうな」
「人造生物!?」
この世界で生きてきて、はじめて耳にする単語だった。異世界っぽい。
「俺もはじめて見たけどな。動物にも魔力があるだろ? そういう別種の魔力と魔力をつなぎ合わせるのが得意な魔剣士もいるらしくてな」
わたしはそんな話を聞きながら、それってきっと陰の魔力だよね? とか思ってた。
石像を動かしたり、人造生物を生み出したり。すごいなぁ魔力って。
「あっなるほど」
「で」
ゼオは思い出すように頭上の魔石灯を眺めてる。
軽く息を吐いた。
「あのバケモノども、真っ二つにすると増えるんだ」
「……増える?」
「1匹が2匹、2匹が4匹って感じだった」
「ええ……」
ファンタジーな存在すぎるってば。
「もちろん限界はあるんだろう。そうじゃなきゃ、世界はアレで埋め尽くされてる」
「ヤバいね」
「ああ」
ちらりと見る。
ゼオは軽い言葉を気にしていないようだった。
わたしは誰かと話すのが苦手だから……どうやって話していいのかわかんない。距離感がつかめないというかなんというか。
敬語ってその点で言えば便利だなって思うけど。
でも。
やっぱりフレンドリーなのは友達に使うような言葉だよね。
フレンドリーな会話。フレンドリーな会話?
友達がいなかったわたしに、そんなのわかんないよ。
わたしは頭をかかえた。
「気にするな」
「へ?」
「この授業は迷宮を突破すればいいだけだ。バケモノ犬なんて、逃げればいい」
「あっ、そっちか」
「どっちだよ」
そんなこんなでわたしとゼオは迷宮内を右に左にと進んでいった。
人造生物が襲ってきたら、逃げる。でも逃げ切れないときもあって、そのときはゼオが人造生物を斬って逃げたんだけど。
「うわ、ホントに増えてる!?」
「信じてなかったのか?」
「い、いやいや信じてたけど」
別に疑ってたわけでもないけどさ。
実際に見てみるとおどろくしかないって。
前足がころりと地面に転がる瞬間から、再生がはじまってる。
足がなくなったほうだけじゃなくて、足からだって人造生物が生まれた。
「グァァァ」
「うわああ!?」
わたしの足が遅すぎる。
ゼオはわたしを置いていけるのに、戻って助けてくれた。
また人造生物が増えて。増えて。増えて。
「ど、どうしよう」
「さっさと出口を見つけるしかないだろ──なっ!」
ゼオが曲がり角に進んだとき、正面から斧が振られた。
横っ飛びしたゼオ。
ずっこけたわたし。
飛び上がって噛みつこうとしてきた人造生物がそのまま地面に叩きつけられる。
「あぶねぇだろ!」
「知るかよ。避けられたんだから、文句言うんじゃねえ!」
筆記試験や実技試験でゼオに突っかかって来ていた大柄な男の子が、ぐいっとゼオに顔を近づける。
「ああ?」
ゼオも大柄な男の子に顔を近づけた。
「青春だね」
わたしはしみじみとふたりを見る。
ふたつの顔が同時にこっちを見て。
「「どこがだよ!!」」
ゼオと大柄な男の子の声がハモってた。
青春でしょ。青春じゃない? 青春じゃないのかも。
「……おい、攻撃するな。アレは分裂して増えるんだ」
「知っている。でも限界があんだろ?」
大柄な男の子が斧をぎゅっと握って突っ込んでいく。
ゼオは舌打ちしつつ、その背中を追って人造生物たちの群れに飛び込んだ。
斬って叩き潰して斬って叩き潰して。
人造生物はビー玉くらいのカケラになっても再生をはじめようとする。それをまた斬って叩き潰す。
ふたりが汗を流して荒い呼吸を吐きながら、腰を下ろした。
「おお……もう再生してない」
わたしは黒剣で人造生物だったものをつつく。
半透明なクラゲのカケラみたいな肉がぴくぴく動いてる……。うわぁ。
「おい、リーネ」
「あっうん?」
「おまえも戦えよ」
ゼオが大きな息を吐く。
「そうだ。白髪女、その変な剣は飾りかよ」
大柄な男の子に若干にらまれてる。
うう。飾りです。豆腐なら切れるけど、カボチャは切れないレベルの刃です。
「おまえ、名前は?」
「…………デュランツ」
大柄な男の子──デュランツは自分の名前を言うのにすこし間があいていた。
「俺のことはゼオでいい。あいつはリーネだ」
デュランツは答えなかった。でも、ゼオが進んでいく方向についてきてる。
やっぱり、わたしも戦ったほうがいいのかも。
さっきは邪魔になると思って動かなかったけどさ……。
剣は無理だから炎とか?
「うーん」
わたしがどうやって戦おうかって腕を組んで悩んでいると。
「ぼくはハヤテという」
「……へっ!?」
いつの間にか隣に忍者が立ってる。
びっくりしたぁ……。
「おまえ、いつからいたんだ?」
ゼオが聞いた。
「リーネさんがあっはい。って言ってたときから」
どれかわからないけど、結構前だった!!
 




