友達できました
午前中の授業が終わると新入生たちは食堂に向かう。もちろんわたしも。
アクシラ魔剣士学園の食堂が安くておいしいってことは、お姉ちゃんが実家に戻ってきたときに聞いているから楽しみだったんだ。
わたしはよだれを我慢しつつ、メニューを見た。
厨房のカウンターでおばちゃんがこっちを見てる。
「新入生かい?」
「は、はい」
「スペシャルランチが人気だよ」
「じゃ、じゃあそれと単品の若鶏の香草焼き。あとマッシュポテトと……シェフの裏メニュー、グァーガーのステーキ完熟スグリと共に──を」
なっ!? と、おばちゃんが目を見開いた。
「あんた通だねぇ。新入生がこれを頼むなんて……いやはや、はじめてのことかもしれない」
そんな大袈裟なー。
わたしは支払いを終えて後ろを見る。
白いクロスのかけられた長いテーブルがいくつもあって、そこに火の灯された燭台が等間隔で置かれていた。
本物の魔法学校に来たみたい。……あ、ここ本物の魔法学園だ。
「わたしはこのハンバーガーで」
リゼがそう言っておいしそうなハンバーガーを注文した。
とろりと溶けてるチーズがいい感じ。
わたしたちは料理を受けとると、一緒に座れそうな場所を探して、そして座った。
「ふへっふへへへへへへへっ」
なにこれなにこれ! 一緒に食堂って思い描いていた青春の1ページだよ!
高校──じゃなくて異世界学園デビューできてる! できてるんだ!!
「ふへへへっ」
周囲からの目が怖い。あと痛い。
でも関係ないよ。だって今のわたしは陽キャだからね。
お姉ちゃんがおいしいって言ってた、グァーガーのステーキ完熟スグリと共に──をナイフで切り分けて食べてみる。
ぐはっ、想像を絶した。
後頭部を殴られたようなパンチのある味に、鼻腔をくすぐるのはスグリの香り。さっぱりとした柑橘系のソースがまったりとした肉汁を洗い流していく。
口のなかに残ったものは小さな宇宙だった。
「小宇宙ォ……」
「グァーガーだっけ。それなんの肉なの?」
「えっ」
リゼの質問にわたしは首をひねった。
グァーガーじゃないの?
そもそもグァーガーってなんなの?
わたしが知らないだけで異世界では普通に流通してるような肉だと思ってたのに。
「グァーガー食べてんの? すげー」
アホ毛をぴょこぴょこさせながら、わたしの向かいにシャルが座った。
「グァーガー、すごい」
シャルの隣、リゼの向かいに座ったシャロもそんなことを言う。
いや、なんで?
ローレンティアでは聞いたことなかったけどさ、もしかしてアクシラでも一般的な食材じゃないの!?
「ちょっと貰ってもいい?」
「あっ交換で」
シャロがこくりとうなずいて、パスタをすくってわたしのお皿に置く。
別にパスタが欲しかったわけじゃないよ? こういうのにあこがれてたんだ。
グァーガーの肉を受け取ったシャロはシャルに半分を渡して、ふたりで同時に食べた。
ああ、いいなぁ。こういう友達同士でお弁当のおかずとか料理をシェアする感じが……友達?
「す、すっげーうまい」
「ありえないほどおいしい。ありがとうリーネさん」
「ありがとー、リーネ」
わたしはポカンとした表情で正面を見る。
瓜二つな双子たちが、わたしを見て同時に首をかしげた。
「あの、よかったら……」
テーブルの下で手をもじもじさせつつ、テーブルの上では勇気を振り絞る。
震える唇よ。静まれ!
「わた、わたしと友達になってください」
「ん? いいよ」
「ふふっ、はい」
双子はごく普通にそう言った。
そもそも同じ寮に住んでるしなー、とかリーゼリア姫はどうです? そうね、よろしく。リゼと呼んでくれていいわ、よろしくなーとかなんだとか。
言葉が聞こえているのに聞こえない。
あれ、聞き間違いかな? 違うよね?
「うっ、ううっ……友達になってくれてありがとうございます」
わたしは号泣していた。
号泣しながら食事を続けた。どの料理も涙でしょっぱい。
「友達くらいで泣くなよー」
「おもしろい」
「わたしのときは泣かなかったでしょ。わたしもそれ貰ってもいい?」
「どうぞ……どうぞどうぞ。食べてください」
ああ、わたしは学園デビューを成功させたんだ。
リゼがグァーガーの味に目を丸くさせてる。うんうんおいしいよね。
わたしが号泣しながら食事を続けていると、「おい」という声が聞こえた。
ふえ? と振り向くと栗色の髪の毛が見える。ゼオ王子だ。
「その短い足をどけろ」
「ああ? んだとコラー」
ゼオ王子の前に足を出している生徒がいた。試験中にもちょっかい出してきた大柄な男の子。
どうしてだか、あのふたりは仲が悪いみたい。
◇◇◇
そうして食事を終えたあと。
午後からは授業じゃなくて学園内の説明、みたいなことをやって1日が終わった。
やっぱり……はじめは学園生活に不安があったんだけどさ。
友達が3人もできて、その3人が同じ寮に住んでるってのは心強いよね。
寮の食堂で軽く晩ごはんを食べたわたしは、これまた寮にあるお風呂に向かった。
住居スペースの反対側に銭湯みたいな空間があっておどろいたけど、湯船につかってみると落ち着く。
ローレンティア人ではあるけど、わたしは日本人でもあるんだなー。
『リーネちゃん。学園生活、どうだった~?』
うわっと。
いきなり声が聞こえてびっくり。
ああ、そういえばイヤリングを外してなかったよ。
「お姉さん! えっとですね……最高でした!」
『よかったね。声がうれしそうだけど、もしかして友達とかできた?』
「はい! それも3人ですよ、3人。えへへ」
『マジ? やったじゃーん』
わたしは今日あったことなんかを伝えて、お姉さんはそれを楽しそうに聞いてくれた。
お姉さんがいなければ運び屋さんにもならなかったし、そうすればきっと学園にも入学できなかったよね。
ホントありがたい。ありがたやー。
『そうそう。こっちは新しい仕事も入ってないからさ、リーネちゃんは学園生活を楽しんでくれたまえ』
「了解です!」
ガラガラッ。
そんな音が後ろから聞こえた。
扉が開いて、リゼが立っている。
白くて傷ひとつなくて。引き締まってる綺麗な身体だなぁ。
「あれ、誰かと話してなかった?」
「……」
わたしはすぅーと息を吸って、吐いた。
「会話の──練習をしてました!」
「へえ」
うぅ、失態だぁ……。
~忙しくなってきたので次回から二日おき更新にします~




