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魔法剣士3姉妹です

 わたしが異世界にやって来て──というか生まれてから、10年が経過した。

 10年、つまり10歳。

 元の世界が恋しくて、お父さんやお母さんに会いたくて、泣いたこともある。

 それでもこっちの世界の家族も、やっぱり本当の家族で、わたしのことを大切に育ててくれたんだ。

 だから今では泣いたりしない。


 でも……異世界は暇でツラい。娯楽が少なすぎるんだ。

 元の世界だと、スマホでゲームしたり動画サイトを見て楽しかったけど、こっちの世界にはそんなのないからね。

 持っていた漫画や小説も続きが読めないし……。


 そもそも赤ちゃんの頃なんて、自分で動くことすら難しくてさ。

 わたしはお姉ちゃんが読んでくれた魔法の修行をするくらいしか、やることがなかった。

 生まれてからずっと魔法の基礎修行をやっているからなのか、なかなかの魔力量だとは思うんだけどねぇ。


「そう、今では砂鉄を操っていろんなモノを作れたりするんだよ……ふ、ふふっ……でもこれじゃ大道芸だぁあああああああああ」


 空中に小さな黒いイルカが泳いでいる。

 もちろん、砂鉄なんだけどね。玉乗りしたり輪っかをくぐったり……この一発芸、家族には結構評判がいいんだよなぁ。


 あ、それから、妹が生まれました。

 よくできた姉となんかヤバいわたし、あと可愛い妹。この3姉妹は町でも有名だったりしなかったり。


「リーネおねえちゃん」


「えっ、あ……どうしたのメリル」


 灰色の髪を後ろで結んだ妹が、わたしの後ろに立っている。


 わたしはこの世界でリーネ・トトラと名づけられた。

 りいねがリーネに。

 多々良(たたら)がトトラに。

 微妙な差だよね……。


「またぶつぶつ変なこと言ってる~」


「や、違うよ。これは……状況を確認していたというか。それよりどうしたの?」


「アデルおねえちゃんが部屋から出てきて欲しいんだって!」


 うっ……。

 わたしはこちらの世界で挫折していた。

 いや、こちらでも……かもしれないけど。


「わかった……準備したら……行くって伝えておいて」


「いいよー!」


 ばたりと扉が閉まる。


 陰キャで友達もいなかった根暗コミュ障のわたしは、異世界にやって来たからって性格までは変わらなかったことに涙した。

 鏡に映ったわたしはお母さんと同じ、雪のような白い髪をしている。瞳は3姉妹同じで、氷の張った湖みたいな色。

 客観的に見て、可愛いのではないかなー、なんて。

 姉と妹は美少女だもん。


 そんなわたしは、またしてもぼっちなわけで。

 でもさ、これでも最初は頑張ったんだ。


 うちはいわゆる騎士の家系らしくて、お父さんは辺境伯の10人いる騎士のひとり。

 伯爵や騎士の子どもたちは小さい頃から顔をあわせるわけだ。

 そこで……。


「こ、こ、あっ……ああ、こここここここここここここここぉおおおおおおお」


 5才の頃に初めての顔合わせに行ったわたしは、辺境伯のご令嬢にそんな挨拶をしてしまった。

 目の焦点は明後日の方向に向いて、唇は震えて顔面蒼白。

 そんな挨拶を受けた辺境伯のご令嬢は、ガタガタと震えて数日うなされたらしい。悪いことをしちゃった……。


 そうして大事な日に失敗したわたしは……いじめられてはないんだけど、だからって積極的に周りに人が近づいてこない状況になってしまったんだ。

 家族はいつも通りなんだけどね……。

 外ではまさしく空気だった。

 でも空気がなくちゃ、人は生きていけない。だからわたしは空気未満なのかも。


「はあ……憂鬱(ゆううつ)だ」


 わたしはベッドの脇に置いていた2本の剣のうち、茶色の鞘の剣だけを拾い上げた。

 しぶしぶ部屋を出て、家から出ると、墨を流したような黒髪のお姉ちゃん──アデルお姉ちゃんが立っていた。

 待たせてるのに、そんなこと気にしてないって微笑みを向けられて……少し胸が痛い。


「さ、剣の稽古に森にでも行こうか」


「アデルおねえちゃん、わたしもついていっていい?」


「見てるだけになるけど、それでも構わないなら、いいよ」


「うん! おねえちゃんたちの剣を見るの、わたし好きだも~ん」


「……わたしがボコられるのを見て、楽しいの?」


 返答はなかったけど、えへへーなんて、ニコニコと妹が笑っている。

 わたし、メリル、お姉ちゃんで横に並んで森に向かうことになった。

 森は家の裏側にあって近いんだけど、領民の人がきのこを採ったり、猪やうさぎなんかを狩ったりもする場所なんだ。

 だから……。


「こんにちは、剣の稽古かい?」


 きのこを採った帰りって感じの、おばさんが道端の石に座って休んでた。


「こんにちは。ええ、そうです」


「こんにちは~」


 お姉ちゃんが軽く話して、妹がニコニコと明るく挨拶している。わたしはうつむいていた。


「……こ、こんにちは」


 まさに蚊の羽音くらいの声。これにはおばさんも苦笑い。

 いつの間にか話が終わって、また進み出す。というか妹に引っ張られて進んでいく。

 しばらく進んで広場のような場所に到着。

 空気がおいしい。青々とした緑は美しい。わたしはどんよりとした雲みたいな表情だけどね。


「じゃあ、やろうか」


 さっそくお姉ちゃんが剣を構えた。

 わたしも、仕方がないので剣を構える。


「それにしても」


 お姉ちゃんの姿が消えた。

 ううん、超がつきそうなスピードで走ったんだ。

 それが理解できても、だからって身体は動かない。真後ろに気配。


「リーネは人が怖いのか?」


 肩の上に剣が置かれた。


「いや、怖いわけじゃ」


 ないとは思うんだけどなぁ……。

 そりゃ相手の目も見れないやつだ、変なやつって思われてるのはわかるんだけどさ。


「喋って……あの娘は頭がおかしいって、思われたくないし」


「おねえちゃん変人だって、町でも有名(ゆうめー)だし、大丈夫だよ~」


 ぐさり。


「い、いや……そんなことないでしょ」


「滅多に家から出なくてー」


 ぐさり。


「ひとりで砂鉄を集めてニヤニヤしたりー」


 ぐさりぐさり。


「伯爵さまの娘なんて、おねえちゃんを見ただけで泡を吹いて倒れちゃうんだってー」


 ぐさりぐさりぐさり。


「ひとりでぶつぶつ変なことを言ってるのを、聞いた人もいっぱいいるよー」


「そ、そんなこと言ってないよ」


「さっきも言ってた~」


「……いや、メリル、変人だとかそんなことを言っちゃいけないぞ。リーネには良いところがたくさんあるんだからな」


 否定してくれない!?


「知ってるよ! おねえちゃんちょっと変だけど、ヘタレなだけだもんねー」


 ぐさりぐさりぐさりぐさり。

 わたしのハートは無数の矢に貫かれてしまった。


「うう……もう今日はこれくらいで」


「いや、まだ始まったばかりだろう?」


 そうしてわたしは夕暮れ時まで剣の稽古をすることになってしまったのだった。


 この世界では魔法が使える人は魔剣士と呼ばれている。

 魔法の才能は遺伝するっていうのが通説で、だからわたしもお姉ちゃんも、メリルだって魔法が使える。

 ただ、魔法……なんて言っても、火球を出したり、なんてことはできないらしいんだけどね。


「よく見ておけよ」


 わたしじゃなくてメリルに言ったんだろう。

 お姉ちゃんの剣が淡く光った。


「すごーい!」


 メリルは綺麗だと喜んでいる。

 でも、これは非常に高度な魔法だ。


 この世界の魔法、というか魔力は身体から離れると極端に弱くなる性質があるらしい。

 手のひらに炎を出すことは理論的には可能だけど、それが1センチでも身体から離れれば、ろうそくの火くらいの大きさになってしまうんだって。

 だから魔力を利用して近距離で戦う、魔剣士という人たちが生まれたらしい。

 魔法で肉体を強化すれば、大きな岩や馬車だって持ち上げられるし、さっきみたいに高速移動だってできる。

 でも。


「武器に魔力を……すごい」


 お姉ちゃんがやってるのは、さらに高度な魔法だった。

 武器を身体の一部として、魔力を送っている。

 剣自体の耐久力だとか切れ味だとか、そんなものが大幅に強化されてるみたい。

 腰がおろされて、居合いのような構えでお姉ちゃんの動きが止まった。

 

「おねえちゃんたち、がんばれー」


 ゆっくりと、青く輝く白刃が──煌めく。

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