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激闘(主に絶剣さんが)

「君は、どんな依頼を受けてここにいるの?」


 涼しげな声だった。

 飄々(ひょうひょう)としてる、というよりは何ものにも縛られない、風のような音色。みたいな。

 だからってわけじゃないけど、わたしは正直に言うことにした。

 隠すようなことでもないしね。


「パン屋さん……いや、パン屋の土地の権利書を取り戻しに」


 少し声色を変えて、堂々と。

 絶剣さんは口をあんぐりと開けたあと、けらけらと笑った。しばらく笑って、また口をあんぐりと開ける。


「ほんとうにパン屋の権利書を取り戻すだけ? それだけで金貸しの敵にまわるって言うの?」


 わたしはこくりとうなずいた。


「そうか……君を誤解していたよ、狂想曲。絶剣の月影(げつえい)だ」


 えっ、知ってますけど……?

 よくわからないけど、絶剣さんが手のひらを差し出してきたので握手する。

 がっしりと掴まれてわたしは内心、おどろいた。


「絶剣さんはどんな依頼で?」


「われは……いや、ある意味では君と同じだよ。われも権利書を取り戻しにきた」


「そうですか」


「しかし、権利書のある場所がわからないんだ。情報屋たちに聞いても場所までは知らないのか、あるいは金貸しを恐れて言わないのか」


「わたしも探していたんだけど」


 まあ探そうと思ったらいきなり廊下で、あの人たちに見つかって追われて……。

 探してないよねぇ。やっぱり。


「探せなかった、です」


「探せなかった?」


 ふむ、と絶剣さんは考えるようなしぐさをしている。


「つまり……同じことを考えたってわけか」


 はい? えっ、はい?


「あの」


「われは金貸しを警戒させるために、わざと犯行予告を出した。そうすればやつがボロを出すと思ったんだ。まさか金貸しのような悪人が、テーブルに置くとは思っていないさ」


「テーブル?」


「ああ。いちおう確認したんだけどね、テーブルに置かれていた台帳や書類は偽物だったよ」


 あれ、この人の会話とわたしの会話ってかみ合っていないのでは?


「う、うーん」


「なにか、気になるところでも?」


「気になるといいますか……あの」


「ああ、彼のことか。──盗み聞きですか?」


「へっ?」


 絶剣さんは屋根を見上げた。

 わたしもつられるように上を見る。


「ほう、気づいたか」


 と、低い声を出したのはヴォルグさんだった。

 あっちの世界で見た、仁王像みたいな、見ただけでも強そうってわかる仁王立ち。

 そんな人に見おろされてて、わたしはびっくりした。

 いつからあそこにいたんだろう。


「舞踏会の会場で、戦いを隠れて見ていたでしょ。そのときから気づいていたよ」


「ほう。さすがは若手で最強と言われる、絶剣だな」


「かの金剛無敵に褒めてもらえるなら、素直に受け取っておくよ」


「それで? そっちの黒いのは誰だ?」


「あっ、狂想曲……です」


「ふははははっ! そうか、若手の最強格がふたりも。まさかこのわしを倒しにきたのか?」


 ヴォルグさんはそのままの姿勢で屋根から飛び降りた。

 ドガッと両足で地面に着地する。なんだか、大地が揺れた気が……。

 

「どうする、狂想曲?」


「えっ」


「正直、勝てるかわからない」


 ヴォルグさんには聞こえないような、小声だ。


「わたしはヴォルグさんを倒せって依頼されてないです」


「そう、だな。それはわれも同じだ」


「ほう。では貴様らの目的はなんだ?」


 にやりと笑うヴォルグさん。


「わたしはパン……ごほっごほっ。とある権利書をもらいに来ました」


「われも似たようなものだ」


「ふむ。このような場所でうろついているところを見ると、それがどこにあるのかわからんのではないか?」


 わたしも絶剣さんも答えない。

 それを見て、ヴォルグさんはまたにやりと笑った。


「わしを倒せば、場所を教えてやってもいいぞ」


 わたしと絶剣さんは顔を見合わせる。

 どうする? そう聞かれた気がした。


「タイムで」


「タイム?」


 わたしはふたりから離れてしゃがみこむ。

 イヤリングに魔力を込めた。


「お姉さんお姉さんヤバいです!」


『どうしたの?』


「なんか……いろいろありまして。ヴォルグさんと戦う──感じの話になってます!」


『ヴォルグ? ああ~金剛無敵かぁ』


「ヴォルグさんって強いんですか?」


『かなり強いらしいよ。2つ名の通り、金剛……ダイアモンド並みの硬い筋肉で、まさに無敵ってうわさ』


「それ、人間ですか?」


『魔力で強化してるんだろうけどさ、剣でも銃でも肌に傷すらつかないんだって』


「……無敵だ」


『そう、無敵』


「……」


『でもさ、今回の依頼って権利書の奪取なわけだし、戦わないでいいんじゃない?』


「その権利書の場所がわからなくて、ヴォルグさんが勝ったら教えてやるって」


『んー、こっちも図面は確認したんだけど……隠せそうな部屋がないんだよね。いや、むしろ多すぎるっていうか』


「お城ですもんね」


 わたしがお姉さんと話していると、後ろで剣が打ち合うような音が響いてきた。

 ちらり。

 やっぱり戦ってる。


「正直、お城を守りながら戦えるような相手じゃないです」


『だろうねぇ。リーネちゃん、どこか変な部屋とかって見てない? 普通さ、()りに行きますって予告されたら、大事なモノを隠したり守ったりするもんだよ』


 わたしは迷子になったときに通った、お城の部屋なんかを思い出す。

 ううーん。


「あの、絶剣さん!」


「どうしたのッ!」


 絶剣さんの横薙ぎの一撃を、ヴォルグさんは口で咥えて受け止めた。

 そしてアメを砕くみたいなバリンッ、という音が響いて、実際に剣が砕けてる。


「ははっ……剣をかみ砕くなんて、ヤバいなぁ。どうしたの?」


 バックステップで距離をとって絶剣さんはこちらを見た。


「や、普通にですけど、書斎とかに権利書を置いてるんじゃ……」


 これに答えたのはヴォルグさんだった。


「そんなところにはないぞ。もっと見つからない場所だ」


「ま、嘘じゃないようだね。われは書斎をすでに探したが、そこには価値のある品物すら無かったよ」


 なるほど。

 わたしはまたしゃがみこんだ。


「書斎とかにも、ないらしいです」


『うーん。じゃあ、やっぱり倒すしかないかもね』


「でも武器がなくて……今の量だとローブとかを維持するので限界ですし」


『へへーん! 実は、さっきお姉さんは宿に帰ってリーネちゃんの剣を担いできたんだよ!』


「えっ!?」


 集中してみれば、たしかにわたしの魔力を離れた場所に感じる。


「あっ、あのこれ、どこです?」


『道路を挟んだ向かいの家の屋根の上だよ!』


「と、遠いですよぉ……」


 庭だってめちゃくちゃ広いし、その先の道路を越えた先。

 さすがに遠すぎだって。


『持って行きたいのはやまやまなんだけど、門の前に騎士団が来ててさ』


 どうやら絶剣さんの犯行予告を外部に言っちゃったお客さんがいたみたい。

 じゃあ、さすがに入れないよね。


「うわっ」


「へっ、うわっ!?」


 わたしは吹っ飛んできた絶剣さんをとっさに受けようとして、一緒に吹っ飛んだ。

 お城の窓を突き抜けて、そのまま廊下の壁に激突。

 魔力がなかったら大怪我するところだよ。

 ヴォルグさんは壁なんてないって感じでまっすぐ進んで、壁を突き破って入ってくる。

 こわい。


「壁……そういえば」


「どうかしたの?」


 絶剣さんがそろそろキツそう。

 魔力をかなり消耗してるみたいだ。


「わたしが屋上に出るときに通った中庭で、ヴォルグさんのお弟子さんたちが、なにもない壁を守ってたんです。あれってなんだったのかなって」


「っ」


 絶剣さんのあやめ色の瞳が大きく見開かれた。


「さすがだね、狂想曲。われの負けだ」


 なんで?


「そこに隠しトビラ、あるいは隠し部屋があるんだろう」


「──正解だ」


 ヴォルグさんがにやりと笑う。

 な、なんだってーーー!?


「しかし、この状況で行くことができると思うか?」

 

 たしかに……わたしたちとヴォルグさんとは、もう10歩くらいの距離しかない。

 絶剣さんは疲れてるし、追いかけられると目的の中庭になんて行けないよね。


「ふたりでやるしかない」


 絶剣さんが言う。

 そんな素手で戦おうとしている絶剣さんの肩を、わたしは掴んだ。


「絶剣さん、疲れてます。だから先に行ってください」

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