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「終わった。……すべてが終わった」


 わたしは机に突っ伏して涙を流した。


 取り調べが終わったあと、わたしは急いで学園に向かったんだ。

 そして他の受験生たちに合流した。

 他人と話すのが苦手だから、一番の難関は面接だと思っていたし、そんな面接を面接だと知らなかったのもあって上手(うま)く乗りこえられたんだけど。

 次の試験、筆記がわたしを苦しめた。


 いや、別にわたしはバカじゃない。

 バカじゃない……はず。

 ペーパーテストの問題は全部埋めてる。空欄はないけど、あってる可能性が低いだけで……。


「高校……いや、学園デビューが……またしても失敗すれば、死ぬ……死んでしまう」


 そんなことをぶつぶつ言っていると、


「テストくらいで死ぬなんて、大げさね」


 なんて──(すず)やかな声が聞こえた。

 突っ伏したまま顔を動かしてみると、隣の席の女の子が、わたしを見ている。

 あれ、どこかで見た顔だ。

 淡い色の金髪を肩よりも少しだけ長いセミロングにしている美人さん。

 というか……話しかけてくれた!?


 こ、これはチャンスだ。こんなチャンスがまたやってくるのか、わからない。今しかない。

 がんばれ、わたし!

 話すんだ、わたし!!


「……あ、あの……わたし、リーネ・トトラって……」


 だ、だめだ……こんなしゃべり方じゃ、引かれてしまう。

 思い出せ! 妹で練習した、あの日々を。目指すんだ──陽キャを!!


「こほん……いやぁ~、いい天気だね! 今日は何してるの? 調子はどう? わたし、リーネ・トトラ。トトラから来たんだ、あっトトラっていうのはローレンティアの南部にある小さな町でね、良質な砂鉄が採れることで有名なんだよ! あ、よかったら友達になろっ!!」


 女の子は少しだけ目を細めたあと、にっこりと笑った。


「ええ、いい天気ね。今日はアクシラ学園の受験をしているの。調子は普通ね。友達になんて、な・り・ま・せ・ん・わ」


 身振り手振りの合わさった、完璧な拒否。

 あ、あばばばばばばばば。

 こんなの……想定してないよ……。


「あ、ああああああああ」


 わたしは震える口から、震える声を出した。

 淡い金髪の彼女は、そんなわたしをちらりと見てから、長机の向こうにある通路へと進んでいく。

 終わった。学園デビューは失敗かも知れない。

 わたしはまた机に突っ伏した。


「あら、今度はあなた? で、何か用?」


「ふんっ」


 声がする。視線を向けると、大柄な男の子が立っていた。

 通路をふさぐみたいに立ってる。

 背も高くて、淡い金髪の彼女は見上げてるほど。


「お前らローレンティア人は、お気楽でいいなあ!」


「……いきなり、何を」


「けっ! アクシラ魔剣士学園はな、てめえらみたいな田舎国家の三流魔剣士が来ていい場所じゃねえんだよ。そんなこともわからないから、平然としていられるんだろうが!」


 わたしは周囲を見る。

 試験会場のほとんど全員が、こっちを見ていた。

 無関心な人、本を読んでる人、無視して談笑してる人、そんな人もいるけれど、大勢が値踏(ねぶ)みするような視線を向けている。

 

「わたしが平然としているのは余裕の現れよ。それに三流ですって? 目でも洗ってきたらどうですか? すこしは相手が見えるようになると思いますけど」


「ああ?」


「──やめておけ」


 大柄な男の子が拳を振り上げた瞬間、席から立ち上がって腕を掴んだ人がいた。

 すらりとしているのに筋肉質そうな身体をした、栗毛色の髪をしたイケメンさんだ。

 イケメンさんは少し見下したような視線で2人を見ている。


「その女はローレンティアのリーゼリア姫だ。ぶん殴ったら国王に泣きつかれて、外交問題になんぞ?」


「誰がそんなこと!」


「へっ、そうかいそうかい。これはご無礼を姫さま、ひらにご容赦を」


 大柄な男の子がバカにしたように言う。

 リーゼリア姫はぷんすこ怒って、筆記試験の試験会場から出ていった。


「あっ……あう」


 そういえばあの子、たしかに同じ飛行船に乗っていたローレンティアのお姫さまだ。

 あのときはドレス姿で、今はわたしみたいなローレンティア風の庶民的な服。

 だから、わ、わからなかった……。


「でも、どうしよう……わたしのせいだ。わたしが話しかけたから」


 みんな試験に真剣に挑んでるんだから、こんなところで友達を作ろうとしたのが間違い……だよね。

 きっとリーゼリア姫だって、あんなことを言われて傷ついてる。謝らないと!


「はっはーん、あんたら小物ね」


 わたしが席から立とうとしたとき、そんな笑い声が聞こえてきた。

 前のほうの席からだ。

 机に座った女の子か、椅子に座った女の子、どっちが笑ったんだろう。


「やめなってシャル」


 椅子に座った女の子が、机に座った女の子の(そで)を引っ張ってる。後ろ姿しか見えないけど、静かな声だ。

 また揉めそうな雰囲気が、試験会場に充満していくのがわかった。

 わたしは壁に貼り付くようにして、そそくさと教室を出る。

 リーゼリア姫はどっちに行ったんだろう。

 きょろきょろと廊下を見ていると、シャルと言われた女の子が、右のほうを指差して優しげに笑っているのが見えた。


「あっ……ありがと、ございます」


 わたしは走った。

 そして走った先には、トイレがあった。

 トイレのなかには誰もいなくて、そこの窓から、リーゼリア姫が帰っていく姿が見えたんだ。

 いや、わたしトイレに行きたかったわけじゃないってば。


「……そんな感じで、1日が終わりました」


 わたしからの説明を受けたミザリアお姉さんは、お腹を抱えてけらけらと笑っている。

 今日の試験、面接と筆記が終わって安宿を借りると、いつの間にかお姉さんが部屋に入っていたんだ。


「鍵はどうしたんですか?」

「こんな宿の鍵なんて、ないのと一緒だよ~」

「じゃあ、どうしてここだって」

「そりゃ試験会場からつけてたからね。とぼとぼ歩いてるから、どしたのかなーって」


 そんな話をしてから、わたしは今日あったことをすべて、お姉さんに伝えた。

 お姉さんは青春してんなーとか言いながら、わたしの背中をバシバシ叩く。

 少しだけ酔っぱらってるみたい。


「お姉さんこそ、なにかあったんですか?」


「あったよー。えっとね、裏の世界の住人たちと会ってきたかなー。あたしが生きてるのにびっくりしてて笑ったわ」


「なるほど」


 お姉さん、初めて会ってからずっとローレンティアにいたもんね。


「それよかリーネちゃん」


「はい?」


「明日の試験、どう? 合格できそう?」


「実技……ですよね。どうなんだろう」


 本当にどうなんだろう。

 魔力の量と操作には、わりと自信があるんだ。お姉ちゃんやお姉さんにも褒められるし。

 でも肉体の強化になっちゃうと……自信がない。

 それは陽の魔力が得意なことで、わたしのような陰の魔力を持っている人が苦手とする分野だからなんだけど。


「がんばりたい、とは思ってます。でも」


 剣に魔力を集めて何かを斬れ、とか。

 攻撃するので魔力で防御しろ、とか。

 試験内容がそんな感じだったら──。


「……正直、無理かも」


「大丈夫だって! 試験が終わったら、お姉さんがごはんつれていってあげる! だからさ、気楽にいこうよ」


「……は、はい!」


 わたしは手を胸の前でぎゅっと握りしめた。

 失敗する前から、怖がってちゃダメだよね!

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