友達との再会
わたしたちはケイカさんから話を聞いた。
それで今回の事件の真相はわかったんだけど……。
「許してください」
「ええー、なんで……」
ケイカさんは、わたしとディーをバケモノでも見ているような顔で見る。
あんなに強気だったのに、震えながら何度も頭を下げた。
依頼人のことも、聞いたらすぐに教えてくれるし。
いったいどうしちゃったのか。
「許す」
そう言ってディーはケイカさんを許した。
わたしは……別にそこまで、許すも許さないもないかな。
結果的にディーは生きていたし。
イレーナさんだって無事だし。
衛兵さんたちは魔力があって鎧を着てるから、死んではないだろうし。
自首してって言えば、本当にしそうだとは思うんだけど……。
「今すぐにそれをすれば、余計にややこしくなっちゃうか」
わたしは呟いた。
依頼人が依頼人だからなぁ。
この件が終わったあとでいいか。
お城のあちこちで「賊を探せ」とか「見つけた者には報酬を」なんて声が聞こえてる。
「とりあえずわたしが行ってくるから、ふたりは隙をみて逃げて」
わたしはふたりを見てから外に出ることにした。
そうしたら、すぐに衛兵さんに気づかれて囲まれた。
「何者だ!」
「賊め!」
「捕らえるぞ!」
「い、いや! ちょっと待ってください!」
問答無用で捕まった。
賊が捕まったということで、見物客が集まってきた。
貴族の皆さんだ。
どうやら今日は王城パーティーとやらがあるみたい。
アシュトン伯爵があんなに大勢を集めて問題にならなかったのも、ガーラン将軍のお屋敷で戦闘をしてるのに近所の貴族すら見に来なかったのも、それが原因だった。
そうなって来ると、集まった人たちっていうのは……王都に住んでるくらいの大貴族やその子どもたちだ。
賊を珍獣かなにかでも見てるみたいに好奇の目で見てる。
わたしはやっぱり人の目なんて見れないから、後ろ手に縛られた状態でうつむくしかなかった。
「ふふっ、あの賊、後悔しているみたいね」
「あんなに若いのに、なんていうやつだ」
「不届き者め!」
ぐぬぬ。
後悔しているから下を向いているわけじゃないよ!
トトラ村のリーネ・トトラですが!?
それは、そう。
心のなかで反論しつつ、腰につけられた紐を引っ張られて、わたしはどこかに連れていかれた。
牢屋だったら嫌だなぁ……なんて思っていると、夜じゃなくなったみたいに明るい場所にたどり着く。
美味しそうな匂いにきらびやかな音楽。
見上げれば彫刻のほどこされた天井の装飾が見えた。
視線を下げると、ドレスやマントを羽織った正装中の大貴族が左右に別れてて、わたしはそのあいだを通っているみたいだった。
左右からの視線で身体に穴が開きそう。胃にはもう穴が空いてるかもしれない。キリキリ痛い!!
「ぐふぅ……ここにいたら、わたし死んじゃう……」
ようやく止まれたと思ったら、そんなパーティー会場のど真ん中。
身体がガタガタ震えてきた。
こ、これ以上の視線は耐えられない……。
いや、でもそういえばアクシラ魔剣士学園の学園祭でコロッセオに立ったときは、この何十倍もの人がいたはず……。
「見てみよ、震えておるぞ」
「おろかな。今になって自分の罪を知ったか」
「バカな娘ねぇ」
ああ……あのときの視線とは違う。
これ犯罪者を見てる視線だ。
がんばれって応援されるのとは、やっぱり違うなぁ。
「──その者が、ベルファーレ城に侵入したおろか者ですか」
わたしは聞きおぼえがある声に視線をあげた。
幅が広い階段の先、高台からこっちを見下ろしている、淡い金髪の少女と目が合う。
「えっ、リーネ?」
正装しているリゼがポカンしてる。でも、どうしてだが目元が赤い。
隣に立っているのはお姉ちゃんだ。
お姉ちゃんも騎士って感じの正装をしているわけだけど、おどろきに目が見開いてる。あんなにおどろいてるお姉ちゃんを見たのははじめてかも。
そんなお姉ちゃんが跳躍してわたしのそばに着地した。
「リーネ、やはり生きていたか」
言いつつ縛られてるロープを外そうとして。
「おやめください。こいつは城に侵入した悪人ですぞ」
なんて衛兵さんが言った。
「……は?」
お姉ちゃんが黒刀の鯉口を切る。
そんなとき、リゼが純白のドレスの裾を持って階段をかけ降りてきた。
パーティー会場に集まっている貴族たちが胸に手を当てて頭を下げる。でもリゼはそんなのは一切見ていなかった。
潤んだ青い瞳には、わたしが映っている。
「リーネ!」
最後の二段目くらいからリゼが跳ぶ。
ジャンピングハグ(謎)だ、これ。
目尻に涙を浮かべながら、両手を目一杯に広げたリゼが突っ込んでくる。
ああ、これダメだな。わたしにはわかった。
後ろ手に縛られてる状態の人はそんなの受け止められない──。
「ぬわっ!?」
案の定の結果になった。
わたしは支えられずに後方にぶっ倒れた。
抱きついた状態でリゼがわんわんと泣いている。
周りからの視線が痛い。
でも、こっちを見ている人たちも、おろおろと隣の人たちを見ていた。
まあね、どう見てもお姫さまが賊に対してしている対応なんかじゃないもんね。
次第に誰かがパチパチと手を叩いた。なんかわたしに対してボロクソ言ってた人たちな気がするけど! 保身に走りやがったな!
ともかく、意味がわかんない。
きっと焦ったような顔で拍手してる人たちにもわかんないんだろう……けど、パーティー会場が拍手に包まれたのだった。
「リーネ、傷だらけじゃないか。誰がやった? あの衛兵たちか?」
わたしたちはパーティー会場から別室に移動した。
王族の控え室のひとつだっていう部屋は、それだけでうちのリビングの何倍も広い。
ふかふかの長椅子に座らされて、隣に座ってるお姉ちゃんが、まるで小さかったころのわたしにするみたいに、頭をよしよしとしてくる。
そんな様子を向かいに座ったリゼが、およよとハンカチで目元を覆いながら見ていた。
なんだ、この状況。
「あ、そっか。わたし川で流されたから」
わたしは川で流されてからのことをお姉ちゃんとリゼに伝えることにした。
さすがに剣術だとか呼吸法は脱線しそうだったから簡単に伝えて、その上でわたしの活躍をすこしばかり盛って、アシュトン伯爵とガーラン将軍のトラブルを重点的に。
そうしてようやく伝え終わった。
「つまり、リーネはアシュトン伯の元に集まった剣客たちをちぎっては投げちぎっては投げ。百人切りを達成したってことか。やるなぁ」
お姉ちゃんが感心したように言う。
失敗だ。話を盛りすぎた。
でもケイカさんの存在を秘密にするなら、相手は百人くらいでいいのかも……。
ま、いっか。
ちなみに、わたしは死んだと思われていたらしい。
泣いてくれたのは、うれしいんだけど……早く故郷に帰らねば!
自分のお墓がありそうで怖い。
「アシュトン伯とガーラン将軍のいさかいは知っていたけれど、そんなことになっていたなんて……。お父さまに伝えて、どうにか仲裁しなければ。いえ、もうお父さまはガーラン将軍から話を聞いているころかしら」
高そうなテーブルを挟んだ向こうにいるリゼが、手を口元に当てて考えてる。
わたしはリゼを見ながら、授業中に先生に答える生徒みたいに手をあげた。
「あっそれなんだけど、ちょっと手伝って欲しいことがあるんだ」
「えっ?」
わたしの言葉を想定してなかったのか。
リゼがおどろいてる。
「どんなこと?」
「うーん、と。いろいろあって、首謀者がわかったんだよ。このままだとアシュトン伯爵とガーラン将軍に罪が与えられるでしょ? それは……仕方ないのかもしれないけどさ。その前に、どうしてもやりたいことがあって」




