031話 合流! 今がその時だ!
「大将、距離は正確に分かるんで?」
「およそ1km……も無いな。場所は分かるんだが、計測する方法が無いんで正確かと言われると困る」
父さんから受け継いだ、魔道具と魔力を操作する能力。
それは感覚で全てをこなせる便利な物なんだが、何となくでやれるせいで言葉で説明しろと言われると、それがとても難しい。
「狼煙の色からすると、まず間違いなく追手がかかってる。なら俺達は嬢ちゃん達じゃあなく、その後ろの追手に向かって別行動ってのはどうかと思うんだが」
「引いてった黒幕が連れてる戦力に、砦に残した分まで出てる可能性がある。さすがにそれを足止めしろってのは……」
「俺達が自殺志願者だとでも? 姿を見せるだけで、向こうは警戒して全力で追えなくなる。後は戦闘にならん様に上手くやるって事で」
悪くない……けどアバウト過ぎないか?
その場の状況次第だし、細部を詰めるような時間も無いのは確かだけど。
でも、団長が上手くやれるっていうんなら。
「頼んで良いか?」
「了解だ、行くぞお前ら!」
「離れたら治せないからね⁉ 無茶しないように!」
無茶をしたらしい傭兵がミアに怒られ、傭兵達が笑いながら別方向へ走っていく。
残ったのは俺とミアとタロ。
多人数に追われると戦力としては微妙だが、ミュリエルと合流さえできれば打つ手はある。
「ごすじん、僕も先に行ってミュリエル探すッスか?」
「いや、俺とミュリエルはお互いの場所が分かるから最短距離を取れるけど、タロだけ別行動すると最悪はぐれるかもしれないだろ」
「ダメッスか……」
ミュリエルを攫われた責任をまだ感じてるらしいが、既に役に立ってるだろうに。
ミアとタロがいなかったら、正直ここまで落ち着いてはいられなかっただろう。
森の中ではあるが、たかが1km弱の距離。
武装していても早足で歩けば、それほどの時間もかからずに――。
「お父様っ‼」
「ホントにいたぁー⁉」
ミュリエルにレティ、それにモイーズと共に別行動していた傭兵の3人が森の向こうからこちらに走ってくる。
少し離れた場所から見ても、木々に太陽が遮られた中で水色に光る髪が存在を誇示する。
表情や速度を増した歩調を見れば、怪我の類も無さそうだ。
「ミュリエル! レティ!」
「お父――様ぁっ!」
広げた両腕にミュリエルが飛び込んでくる。
さすがに今のミュリエルに全力疾走で飛びつかれると、中々キツい物があるんだが、倒れるような無様な真似ができるはずもない。
どうにか受け止めて、しっかりと両腕で抱きしめる。
「こっちにユーマがいるってミュリエルが言うからついて来たんだけど、まさか森の中で探し当てるなんて思わなかったわよ」
「……レティシアはやらないの?」
俺の腕の中からミュリエルがレティに声をかける。
……やる? 何を?
俺と、レティの頭にも疑問符が浮かんでるのが分かる。
が、それも数秒。
レティがミュリエルと俺を見ながらしばらく考えて、何かに気がついた様子で動揺をみせ、さらに唐突に怒り出した。
「す、する訳ないでしょ⁉ 何言ってんのよ!」
「いや~すっかり仲良しになったんだね。レティシア、うちのミュリエルがお世話になりました~」
鞄から出てきたミアが、いつもの緩さを取り戻してレティシアに声をかけ、ミュリエルは俺の腕から出てタロと手を取り合って喜ぶ。
頬が緩む光景にずっと眺めていたいが、残念ながら俺にはやることがある。
「……狼煙を上げたのはモイーズかと思ったんだが」
「2人によるとモイーズさんは時間稼ぎに残ったそうです、その後の事は……」
「そうだ! お父様、モイーズさんを助けて! 沢山の人と戦ってくれてたの!」
1人で足止めに?
しかも相手が沢山……生き残る勝算が無い訳でも無いんだろうが……。
「分かった、急いで助けに――」
「その必要はありませんよ」
声に振り向くと馬車と共に逃げ出した交渉役が、兵士を従えて木々の中を近づいてきていた。
しばらく足を止めていたんだが、こちらを包囲するような事もなく、現れた方向もミュリエルたちとはズレている。
団長達が上手くやってくれてたんだろう。
だが思ったよりも人数が多い。
黒幕を乗せていただろう馬車はおそらく砦に帰ったんだろうが、護衛に連れてきていた兵士はこちらに来ているようだな。
数はおよそ30人ってとこか。
まともにやるなら、団長達が合流しても無理な数だ。
けど、そんな事よりも確認が必要だ。
娘の恩人に助けが必要無いだと?
「必要が無いってのはどういう事だ?」
「話していたのは小癪な傭兵共の前に、こちらの先鋒を引っ掻き回してくれた者の事でしょう? 随分とやってくれましたが、逃げ時を誤りましたね」
大きく息を吐く、可能性は高いと思っていたんだが……。
「……捕虜の解放には相応の身代金を払っても良いんだが」
「それは意外な。そこまで価値があるとは思いませんでしたよ、死体でもいくらかは交渉の余地がありますかな?」
間を詰めるための戯言だろう。
俺としては出来る限りの事はしたかったんだが――。
交渉役の言葉に、俺以上に反応した子がいた。
「――殺したの?」
「えぇまあ。命のやり取りを金でする連中の事、珍しくもないですよ」
前へ出ようとするその子を止めようと手を伸ばすが、そっと手を添えて拒否される。
「私たちを誘拐して、助けに来た人を殺して、今も武器を向けてる。お父様、身を守る為なら戦っても良いんだよね?」
「それは……そうだが。ミュリエルはこの森の中じゃ戦うのは難しいだろう」
俺の思惑としては、ミュリエルの魔力を使って俺の魔法でどうにかするつもりだったんだが。
身を守る方法については、家族でそれなりに話し合っている。
何の考えも無しに、ミュリエルが前へ出たとは思えないが……。
「ミア、作ってくれた服がまたダメになっちゃうと思う。ごめんなさい」
「良いよミュリエル! 気の済むまで好きなだけやっちゃいなさい!」
「僕も……ごすじん⁉」
「タロは下がってた方が良い」
ミュリエルが派手に戦うつもりなら、風精系を使うだろう。
体重の軽いタロは俺といた方が安全だ。
「お話はお済みで? お嬢様は魔法が得意なようですが、さすがにこの人数相手では――」
「モイーズさん……お父様と合流出来て、勝利は見えた。だから――今が、切り札を切る時!」
ミュリエルの叫びと共に、その髪の光が全身に移った様に発光する。
同時に、凄まじい魔力が渦を巻いて引き寄せられていく。
光る魔力の竜巻。
目を凝らし、その中のミュリエルから目を離さないようにする視界の中で――。
ミュリエルを包む服が、内側から裂けるのが見えた。
竜巻で破れた訳じゃない。
その体が――!
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