012話 過去なんかに負けない!
「ごすじん、散歩じゃなかったッスか?」
「もう少し待てタロ、こういうのはタイミングが大事なんだ」
顧問から有用な情報を得た俺だったが、敵の行動は予想よりも早かった。
手紙を受け取ったのがいつか知らないが、話を聞いた翌日には状況が動いてしまったのだ。
つまり今、ソフィア師匠の家に若い男が上がりこんでいるのである。
その話を聞いて、いても立ってもいられずタロを連れて様子を窺いに来たのだ。
ちなみにタロを連れてきたのは、師匠の家の周囲でウロウロする不審者になりたくなかったから。
そう、散歩なら仕方がないのだ。
「しかしあの野郎何者だ? 服装は豪勢だったし、見た目も――」
「かっこよかったッスね。ゴツいマントが似合う男らしいイケメンだったッス」
うるさいぞ駄犬め、どうせ俺はそういうの似合わないよ。
しかし格好だけ見れば、貴族と言われても信じるぞあれ。
年の頃は20代後半くらいか?
落ち着いた雰囲気で体格は大きめ、整えた黒髪も庶民って雰囲気じゃない。
おまけに黒地に金糸の高級感に加えて赤いマントだ? 俺にも大きな体と30代くらいの顔があれば、似合うかも知れないって代物を着こなす強敵である。
なにあれ、あの肩とか胸のヒラヒラなんなの、金持ちは無駄な布好きだな!
でも鞘にあった装飾、正面を向いた狼の紋章はどこかで見た気もするな。
どこで見たんだったか……と脳内を探していると、騙して連れてきたタロがしびれを切らした様子に気がつけなかった。
「ソフィア~ごすじんがご用事ッス」
「何してんの駄犬⁉」
俺が余所見をしている間に、師匠の家の扉を躊躇なく開けて駄犬が声をかけていた。
でも開けてしまった以上は行動に移らないとマズい。
「すみません師匠、お客さんが来てるとは知らず――」
「帰ってと言ってるでしょう⁉」
師匠の怒声を聞いた瞬間、家に飛び込んだ。
相手は剣を腰に下げてたが、こっちは丸腰だ。
体格的にも不利だが、やるしかないだろう。
テーブルを挟んで立ち上がっている師匠、その正面に客の男。
立ち上がる前に師匠との間に割り込む!
「どうしました師匠⁉ 大丈夫ですか!」
「ユーマ? そういえばタロが声をかけてたわね……ごめんなさい、声を荒げて」
「落ち着け、俺はソフィアに危害を加えるつもりはない」
敵の言うことなんか信じない!
……が、師匠の様子だと荒事の必要はなさそうではある。
そもそも何者なんだこいつは。
俺の疑問を察したのか落ち着かせるためか、師匠がため息をつきながら目の前の男を紹介する。
「彼はグレアム、グレアム・メイスフィールド――私の婚約者よ」
「またまたご冗談を、今まで一度もそんな話しなかったじゃないですか」
笑いながら師匠の顔を見、グレアムというらしい男の顔を見て……最後にタロを見た。
「本当っぽいッスよ? ごすじん」
「真面目な話になりそうだから遊んできて良いぞタロ、付き合えなくて悪いな」
退屈してたんだろう、いいッスか⁉ という言葉もそこそこに駆けていくタロ。
それを見送って、明確に敵認定したグレアムを睨みつける。
関係や事情はどうあれ、師匠に大声を出させたのは事実だ。
「君にも場を外してもらいたいのだが、極めて個人的な話をしているのでな」
「その話を打ち切りたいとソフィア師匠は叫んだだろう? ならおしまいだ」
ここは俺達の村で、師匠の家の中だ。
余所者に好き勝手されるいわれはない。
「ユーマあまり喧嘩腰にならないで、そこまで大した話ではないのよ」
「いや君の将来に関わる大切な話だ、それに逃げ出して迷惑をかけた方々に謝罪をして回るのが君にとっては些細な事なのか?」
「それは……それだけなら私もしなければいけないと思っているわ。でもその後に復帰やあなたとの結婚はとても考えられない、私は別の人生を生きたいのよ」
ふむ……今とても大事な事を師匠が言ったな。
この男との結婚はもう考えて無い、と俺にとっては最重要な一言だ。
――つまり。
「なるほど、師匠の過去の男という事ですね。俺の名はユーマ・ショート、師匠への求婚者であり今の男だ!」
グレアムを見上げつつ、親指で自分を指し示す。
俺の挑発的な視線を受けたグレアムは師匠に視線を移して口を開く。
「君の好みは人伝に聞いた事があるが……まさか年下の少年との結婚話を本当に進めているとは」
人が気にしてる事を⁉
15かそこらに見えるかも知れないけど、俺は21歳の師匠より年上だからな!
ブクマ、評価、感想、誤字訂正等いつもありがとうございます!
登場人物紹介にも書いてますが、ユーマはわりと美少年系の童顔です
外見だけなら師匠の好みです、でも中身はただのおっぱい星人




