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最強の娘と虚名を得た俺は、乱世から逃れられないので終わらせる!  作者: 楼手印
2章 勇者なんて虚名です、神竜より強いわけ無いじゃないですか!
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010話 王女様の騎士

「ごきげんだな?」


 乗り心地の良いとは言えない荷馬車の上で、鼻歌を歌う王女様に声をかける。

 その様子を見れば去年村が襲撃された際、フェリシア様の元へ案内してくれた恩を少しは返せたと思って良いのかな?

 それに初対面で酷い事も言ったしな、機会があれば次を考えても良い。


「ふふんっまあね! 王都から抜け出して冒険なんてフェリシアだってやったことないわよね」

「フェリシア様か……向こうは君を嫌ってる様子は無いんだけどなあ……」


 レティシアとフェリシア様。

 2人は双子と言えど、人間とハーフエルフという変えようのない違いがある。


 人気者で王族としての義務や権利を持つフェリシア様と、王都で無視されながら時間を暇つぶしに費やす以外にする事のないレティシアを見ればそれは明白だ。

 双子だからこそ、その違いが恨めしくもなるんだろう。

 鼻歌を止めたレティシアに視線を向けると、眉をしかめて空を仰いでいた。


「……あの子はね、私の欲しい物を何でも持っていっちゃうの。本当は必要も無いくせに、あんたの村だってそうよ」

「村は君が欲しかった訳じゃないだろ?」

「そうだけど……」


 あの時レティシアが協力してくれたのは、俺達の村が王家直轄領だと思っての事だ。

 王家の一員として尽力する事に意義を見出しているとフェリシア様は言っていたが、その頃には既に村はフェリシア様の私領となっていた。

 それを知ったレティシアの様子は見ていないが、荒れたであろう事は想像できる。


 その話題を出せば空気が重くなると分かっていた――んだが、予想外にレティシアの表情は明るい。

 というか何か企んでる顔だろ、それ。


「今日は楽しかったし、前の事は忘れてあげてもいいわ」

「それはありがとうございます、王女様」


 大仰に返答する俺に対してふんぞり返る王女様。

 まあ、あんまり深刻にやっても気分悪いだろうしな。


「そ、それとね楽しかったご褒美に、あ……あんたを私の騎士にしてあげる!」

「それは断る」


 俺の返事に何かの事件現場に居合わせたのか? ってくらいの驚愕の表情で応じるレティシア。

 数秒の間、固まるほど予想外だったみたいだが仕方ないだろう。


「何でよ⁉ ご褒美なんだから、ははー! って言って受け取りなさいよ!」

「いや俺には村での生活と仕事があるし」

「フェリシアには騎士が付いてるの、私にもいないとおかしいじゃない!」

「サビーナ様の事か? あの人の俸給はフェリシア様が出してるって聞いたぞ? 俺が君に仕えるとして、その俸給は?」

「ぐぎぎ……っ!」


 王女どころか年頃の女の子としてもどうなんだ? って唸り声だ。


 他は知らないが、この国の騎士階級は領地持ちじゃなく、金銭が主から支払われている。

 例えば今のジローはフェリシア様の領地に派遣されている国王の騎士、という身分なので名目上は国王から俸給を受け取っているらしい。

 兵を率いて戦う免許の称号みたいな面もあるそうで、領地持ちの貴族でなおかつ騎士って人もいるんだとか。


 そういやそこら辺を理由に、フェリシア様には最初援軍の要請を断られたんだっけな。

 何にせよ、無給の騎士じゃ食っていけないし、そもそもレティシアに騎士を叙任する権限があるのか? っていう疑問が……。


「大体ただでさえ魔法の修練や勉強をサボってそうな王女様に、部下なんか付けたらもっとやらなくなるだろう? そんな御主人様は嫌だ」

「やる! 明日からちゃんとやるわよ! お、お金は出せないけど……」

 

 一番大事なとこで消え入りそうな声になってちゃダメだろうに。

 お菓子が欲しいと駄々をこねる子供でしかないが――。


「じゃあ相応の働きしかできないな、王都に来た時に空いてる時間だけとか」

「良いの⁉」


 言ったこっちもその返事に驚くぞ、そんなのでも良いの?

 ごっこ遊びの域を出ない口約束だが、レティシアには大事なのかもな。


「それじゃあ叙任式は簡略で、この場でやっちゃうわね」

「へぇ儀式の作法を知ってるのか――何する気だよ⁉」


 振り向くとレティシアが荷台から乗り出して、俺に向けて拳を振りかぶっていた。

 全力で握りしめているらしいそれは、細い腕をプルプルと震わせるほどである。


「何って、だから叙任式よ簡略の。主が騎士になる人を思いっきり殴るの」

「どこの蛮族の儀式だよ⁉」

「誰が蛮族よ⁉ ミノーはずっとこうなの! 何度も見てるから間違いないわよ!」

「一応帰ってちゃんと確認してかぐへぇあっ⁉」


 王女様の我がままに付き合うだけのつもりだったが、細い腕のグーパンチはそれなりの威力で主人と下僕の身分を叩き込んだのだった。


「そろそろ街道に出るから、ちゃんと外套かぶってろよ」

「御主人様への言葉遣いじゃない……」


 ブツブツと不満をたれながらも、家臣の進言を聞いて外套とフードを羽織る良い御主人様。

 今日の冒険もそろそろおしまいだ、ここまで来てバレて大騒ぎは避けたいしな。


「君が俸給を出せるようになったら考えとくよ」

「気に入らないのはそれもよ! いつまで『君』なのよ!」


 そうは言われてもですね御主人様。

 うかつに名前で呼んでたら、いつか他の人の前でもレティシアって呼び捨てにしかねないし。

 なにせ心中ではずっと呼び捨てだからな。


「じゃあレティシア様」

「なんか距離が遠のいた気がする……もっと別のを考えなさいよ」


 理不尽な……王女様、殿下、姫様、他になんかあるっけ?


「愛称とか? 失礼さでは呼び捨てと変わらないか」

「愛称? あぁあんたバキラから来たんだっけ。ミノーじゃほとんど使わないわよ、家族とかよっぽど親しいこ……っ」

「こ?」


 自分の発言に驚いた様に言葉を飲み込んだ御主人様。

 視線を泳がせ、顔を赤く染めながら自分に勢いを与える様に大声を出す。


「そんなに呼びたいなら仕方ないわよね! 主として応えない訳には!」

「いやそこまでは言ってな」

「レティと呼びなさい! この世界であんただけに許可してあげるわ!」

 

 荷台で腕組みしつつ、ふんぞり返ってこちらを見下さないでください御主人様。

 御者席はちょっと低いんで、下着の刺繍の模様まで分かっちゃうんですよ。


「……じゃあそれで」

「感動がないわね⁉ もっと喜びなさいよ!」


 喜んでない訳じゃない。

 レティシアと仲良くなれたのは、俺にとっても正直嬉しいからな。

 この子が王女だとか恩の貸し借りとか、そういう打算は抜きでだ。

 

 でもそろそろ今日最大の山場が来るんで緊張がな……。


「実は迎えが来る予定になってるんだよ」

「迎え? このお忍びを他に知ってる人がいるの?」

「村に帰るって城門を出た俺が戻ったらおかしいだろ? それに出る時よりも入る時の方が色々と厳しいんだよ」


 遠くに見える王都の城壁、そこに目を凝らすと約束した場所に青い旗が翻っている。

 問題無しの色だ。

 これが赤色だと「不審に思われている、注意せよ」の意味だった。

 さらに黒だと「死を覚悟していただく時でしょうか」と協力者は笑顔で言っていた。

 ……青で本当に良かった。


「あれ――あそこにいるの、ひょっとしてサビーナ? まさか……」

「言わなかったか? 王女様が共謀者なんだ。さすがに俺1人でこんな大それた事できないよ」


 王都でレティシアが保護されているのは、帝国時代に定められたハーフエルフなどの異種族との混血者を保護する法律が根拠になっている。

 こればっかりはかつての勇者達でも是正できなかったそうだが、一応法はちゃんとあったのだ。

 

 さらに娘の為なら何をするか分からない国王の存在、過去の勇者と現在の国家にケンカを売るような真似なわけだ。

 それらを押してでも、レティシアを連れ出したいとフェリシア様に相談してみた訳だが、食い気味に全面協力のお約束をもらえてしまった。

 「わたくしはあなたのそういう所を、とても好ましく思っていますわ」という過大なお言葉つきでだ。


「そういうわけなんで、あんまり嫌わないであげてくれるか?」

「……今日の働きに免じて、少しだけ聞いてあげない事もないわね」


 予想してた事だが、不満そうな表情に苦笑する。

 でもレティシアが一番喜びそうな事をやるには、どうしても協力者が必要だったんだ。

 

 おそらくはフェリシア様用の馬車――ひょっとしたら御本人が乗っているのかもしれないそれが、サビーナ様の駆る馬に先導されて近くまで来る。

 俺も荷馬車を止めると、レティシアが降りようとして、外套をどうしようかとオロオロしだした。

 その姿に笑いながら、そのまま行けと促し見送る。


 ――見送りながら思う。

 全体的には上手くいってたと思うんだが、最後が不満顔なのはよくないな。

 

「レティ‼ また今度な!」


 背中に向けた大声に、フードを被った小柄な姿が足を止め。

 元気よく振り返ると、大きく手を振って負けじと大声を張り上げてきた。


「うん! またねユーマ‼」


**********


 ……去り際のサビーナ様の視線は非常に怖かった。

 レティを呼び捨てたに等しい言葉もあるけど、護衛を任務としている人にとって今回の企みを肯定できないから、かな。


 王都からの街道を外れた場所で狼煙を上げながらそんな事を思っていると、見知った集団がこちらに駆けてきた。


「首尾は上々のようですな? 大将」

「おかげさまでね、他の人達は? 団長」


 数年前なら寄ってくるのを見た時点で、脱兎のごとく逃げたであろう集団。

 今回王都で再契約を結んだのは、去年村を襲撃から救ってくれた傭兵団だ。

 真面目に防衛を考えるなら専門家が必要だし、運送には荒事が付き物だがゴーレムは柔軟な判断力を持っていない。

 そこで実力を知っている人達を、となったわけだ。


「散開してたんでね、しばらくはかかるはずだ」

「騎馬が50人か、王都に警戒される戦力だよなあ……」


 一緒に村に行く前に頼んだ一仕事、今朝の出発から帰りまでずっと周囲を警護してくれていたのだ。

 傭兵団だけじゃなく、都合の良い洞窟の情報や安全確認の下調べ、直前の最終確認などで冒険者もいくつかのグループを今回の為に雇っている。


「準備はしたとはいえ……やっぱり万が一を考えると緊張したなあ……」


 王女様の遊びに付き合うのは、本当に大変なのだ。

ブクマ、評価、感想、誤字訂正等いつもありがとうございます!

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俺とポンコツ幼馴染と冒険とパンツ
― 新着の感想 ―
[一言] 大丈夫。女の子に殴られるのも癖になってくるはず…
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