008話 存在しないハーフエルフ王女
フェリシア様の妹にあたる、ミノー王国の第三王女ことレティシア王女。
色々と事が片付いてから、言葉を濁すジローを問い詰めた結果として分かった事は、彼女が本当にこの国の王女だったという事だ。
まあ本人の発言はともかく、フェリシア様が親しげに呼んでるんだから予想できた事ではあったが。
ではなぜ俺がその名前どころか存在すら知らなかったかというと、彼女の種族が原因だ。
被差別種族であるハーフエルフが、自分達の王族から生まれてしまった。
しかも国王と王妃は人間なのにだ。
当然産んだ王妃の不貞が疑われ、二重三重に国の恥部となったわけである。
現国王の評判は実のところあまり良くはない、ありていに言って凡庸。
可はないが不可もさほどではない、と思われていた国王だったがフェリシア様とレティシアの双子が産まれた際、何故かレティシアの事まで公表してしまった。
まあ王族の出産だ、関わる人間が多い以上は隠しても秘密は漏れると考えたのかもしれないが。
だが王族を目にする機会が多く、地方に対して優越感を持っている王都の住民にすれば、口に出したくない事実らしい。
結果、その存在を話題には出さないという態度になった訳だ。
彼らにとって、レティシアは存在しない人物なのである。
衛兵やジローが初めて王都に入る人間に対して、ハーフエルフに手を出すなときつく言ったり、そもそも王女であるレティシアが街中を歩き回っているのには、また別の事情があると聞いたが――。
「はあ? 私が街に出てる理由? そんなの暇つぶしに決まってるじゃない」
「だろうな、王女様が冒険者ギルドの依頼張り出しを眺めに行くなんてよっぽど暇じゃないとやらないぞ」
「なんで知ってるのよ⁉」
王都の広場近くで捕まり、人目のある所だとうるさいからと路地に引っ張り込まれた俺は、王女様の暇つぶしに付き合わされていた。
白を基本に、赤やオレンジ、黄色の装飾が施された服装は、同じく白を基調に青などの寒色系を着ている事の多いフェリシア様と対になっている様に思える。
動きやすそうなデザインは本人の要望だろう、汚れやほつれの見られないその服装を見れば、この子が愛されている事が分かる。
何よりも性格がコレだしな。
レティシアを知らなければ、王都へ立ち寄ってもその存在を知る機会は少ない。
だが王都の住民はいない者として扱っているだけで、街中を歩き回るハーフエルフを目にしない訳がない。
レティシア王女を見かけなかったか? と質問すれば、凄く嫌そうな顔で返答が返ってくるのだ。
「面白そうな冒険があったら、私が受けてあげても良いっていうのに追い出すのよ、あいつら!」
「いや、それはそうだろ」
仕事の邪魔してやるなよ……。
「ギルドの規則知ってるのか? まずは冒険者としての登録が要るんだぞ?」
「当たり前でしょ、そんなの。登録さえ出来たら、すぐにでもこの王都を出て一流の冒険者になってやるわよ!」
意気揚々、と妄想の剣を掲げて見せるレティシアだが――。
空元気か、そんな事が絶対にありえないと分かってはいるようだ。
冒険譚に憧れを持っているらしいのは分かる、そしてこの王都から出られないだろう事も。
国王一家が離宮なんかに出向く、というのであれば別だろうがレティシア個人の意思で王都を出ることは叶わないだろう。
そもそもハーフエルフが街を歩き回っているという事が異常事態なんだ。
レティシアを庇護しているのは国王。
まだ小さかった頃のレティシアに、酷い罵声を浴びせた者がかつていたらしい。
そしてそいつはその場で叩き斬られた、国王自らの手によって。
凡庸、ただそこにいるという以上の価値は無いとまで言われる国王の、逆鱗の存在を家臣と王都の住民が知った事件だったという。
王都に限ってとはいえ、レティシアが自由に振る舞っていられる理由がそれだ。
だがその国王もいつかはいなくなる。
庇護者を失ったレティシアは幽閉や、あるいは――。
外への憧れはその将来からの逃避か、反発か。
「ほうほう、さすがは王女様だ。剣術とか魔法とか習って一流の腕前なのか」
「剣術は危ないからって教えて貰えなかったわ。ま、魔法は……ほんのちょっとだけ……」
素質があるのに、ほんのちょっとだけ。
レティシアの性格でその控えめな発言、これは修練をサボってる気がするな。
でもまあ、大体予想通りか。
忙しく動作を交えて、いかに冒険者として活躍してみせるかという説明に相槌をうちながら、立てていた予定を補正する。
からかうとすぐに歯を見せて怒りを露わにする姿が楽しくて、いちいち思考が途切れるのには困ったが……。
うん、大丈夫だろう……後で怒られるだろうけど。
「今日はもう遅いな、じゃあ俺は用事があるからそろそろ」
「え? 何よ、もう帰っちゃうの……?」
あからさまに残念そうな顔をされると、もう少し相手をしたくなってくる。
街の人間には無視されてるようだし、暇つぶしの相手はそうそう見つからないんだろう。
けど、俺には大切な用事があるのだ。
「暇なんだろ? また明日の朝にな」
「明日? ホント、約束よ⁉ ば、場所はここ! 良いわね⁉」
まるで初めて待ち合わせの約束をするみたいに……いや、本当に初めてなのかもしれないな。
「あぁ、ちゃんと準備しとけよ。悪い事はこっそりやれば意外とバレないからな」
「悪い事するの⁉」
驚愕の表情を浮かべるレティシアを残し、その場を離れる。
万が一があっちゃいけない、用意はしてるが最後の確認が必要だ。
足を冒険者ギルドに向けて進める。
恩は、ちゃんと返さないといけないからな。
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