007話 うちの顧問の評判はさんざんでした
「ここで……か」
王都での用事をふたつ終え、俺は街の広場に来ていた。
城門から城までを真っ直ぐに繋いだ大通り、その中ほどに作られた広場では待ち合わせの人や大道芸人、その見物人などでごった返している。
わざわざここを見に来たのは通り道……でもあるが、フェリシア様との会話を思い出してのことだ。
「わたくしは恐ろしくて自分の目で見てはいませんが、お預かりした野盗の方々はこの王都の広場で処刑されたと聞いております」
サビーナ様の提案で、騒ぎの首謀者である頭と副官、さらに20数名の側近達は村から王都へと連行されていった。
事態の解決をアピールする為に、主だった者は目立つ場所で処刑する必要があったんだろう。
他の200を超える有象無象もいたが、そちらは鉱山や採石場などでの強制労働に従事しているらしい。
「中々死にそうにない連中だったけど、あっけないもんだ」
わざわざ人が殺される様を見物に来る程暇じゃない。
村の人間は誰もその場に居合わせなかったが、この話を持ち帰れば多少は胸の内も晴れるだろう。
去年の騒動は完全にケリが付いた。
これで終わり、後は前に進むだけだ。
――なんだが、今回はそれとは無関係に片付けなきゃいけない用事がいくつかあるんだよなあ。
とはいえ、そのうちのひとつは既に片付けて来ている。
王女様との長話のオマケで、また口利きをしてもらえたのがやっぱり大きいな。
その要件はテオドール顧問からのお使いだ。
左遷されて村に来たが、出世欲旺盛な顧問は王都への返り咲きを考えている。
その為に自分の評判を確認しておきたいって事だったんだが。
結果を要約すれば「テオドール・マンチーニは傲慢である」だ。
王女様から事前に話を通してもらい、顧問の旧職場周りに話を聞きに行ったんだが……。
どうも左遷される前に起こしたいざこざが、尾を引いているらしい。
俺が最初に村で提案した、変化した土地や気候にあった作物を調査して栽培しようという農業改革だが、顧問はこれとほぼ同じ内容を提唱していたそうだ。
顧問が村に派遣されたのは、それが原因のひとつになっているとか。
が、当時の顧問は22歳やそこら、職場では若造の分類。
さらには元々そういった事を担当していた人間も、当然いるわけであり。
「これまでのやり方ではあまりに効率が悪い。こちらで改善策を用意してきました」
と、村でやっているように眼鏡をクイッとやりながら職場で提案したところ。
「担当しているのは伯爵家の甥に当たる方だと知っているのか? その能力が劣っていると?」
「彼は優秀だ! 帝国時代を踏襲した堅実さを見ろ! これまで通りで問題は無い!」
「あいつは他人の不満ばかり、傲慢だ!」
と非難轟々であったらしい。
効率性や合理性、事務処理能力は非常に高かったそうだが、どうも人間関係が上手く行ってなかったようだ。
同僚を貶す気は無かったかもしれないが、言い方と態度悪かったんだろうなあ。
その失敗を踏まえてか、村では適材適所を進めたい様子なのに手を控えている様子があるしな。
「祖父の代からの職人? あなたには他に向いている仕事があるでしょう」と勧めても、人には気持ちってものがあるのだ。
村の人間でそういった事を試行錯誤してるようではあるんだが、自分の未熟を自覚してるんだろう、今のところは間に人を挟むことで回している。
例えば俺とかだ。
そうでなければ「もうあいつ1人で良いんじゃないかな?」と俺だって思う。
左遷先の村が発展している事は、前の騒動もあって知られてきたようではある。
でも報告書を出していた時は、自分の功績を書くんじゃないと念押ししていた事もあってか、昔の評価が今も大勢を占めていた。
書いて無くても評価は届いてるだろうけどその上でコレ、伝えたら怒りそうだなあ……。
ま、言われた事はやったんだ、お使い達成……と。
最後に残った王都での用事だが、個人的には大切なものだ。
恩にはちゃんと報いておきたいし、別れる時に挨拶すらしなかった。
用意は大体できてるんだ、でも本人に会う方法が――。
「あー! いたわね!?」
動きやすそうな、しかし仕立ての良い服装。
短めの赤いスカートをなびかせながら「ちょっとそこ動くんじゃないわよ!」と、俺を指差してこちらに走ってくる。
数ヶ月見かける事すらなかったのに……会える時はこんなもんか?
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