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最強の娘と虚名を得た俺は、乱世から逃れられないので終わらせる!  作者: 楼手印
2章 勇者なんて虚名です、神竜より強いわけ無いじゃないですか!
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005話 お断りさせて下さい!

「……いやいや待て待て。うん、ひとまず落ち着いて……失礼な事をしていたね、まずは自己紹介しよう。俺はユーマ・ショートっていうんだけど、君の探してる人で間違いないのかな?」

「その辺の街で聞いてきた名前と同じだからそうだと思うよ。あたしはイェリン、名前はそれだけ」


 テーブルに大量の宝石をぶちまけた、イェリンと名乗る女の子。

 何故か宝石や金貨の真贋鑑定が出来るタロからの聞きかじり知識で見てみたが、どうも宝石は本物に見える。

 それに探されていたのは俺で間違いないみたいなんだが、例の尾ひれのついた噂のせいか?


「イェリン、君の依頼なんだけど君のお父様について知りたい、大本の依頼主になるようだからね。それから何故神竜を討伐する必要があるのか、だ」


 神竜と呼ばれるドラゴンは、特別人間に害を与えていない。

 それどころか、かつて危機を救ってくれた事すらあるという。

 殺す理由が無くない? 


「とー様については秘密、話せない。神竜は――もし殺しに行かないなら、人間の街を焼きに来るって言ってたよ」

「は? 神竜が街を襲う? それも君のお父様が言ってたのかい?」


 葉っぱ汁を飲みながらコクコクと頷くイェリンだが、にわかには信じがたい。

 どこ情報よ、それ? と普段ならスルーするんだけど。

 これだけの宝石を持ち込むって事は、何らかの力――武力なり知力なり権力や金力を持っている。

 嫌な信ぴょう性が出てくるよなあ……。

 

 さて、冷静になって考えてみよう。

 ドラゴンってのは空を飛ぶ、この時点で討伐が物凄く難しい。

 本職狩人であるギーは飛んでいる鳥を射落とす事が出来るが、それなりに狩りの経験がある俺でも同じ事は難しい。


 ましてや硬いと噂のドラゴンの鱗を弓でどうこうしよう、なんてのは不可能だ。

 クロスボウでもどうかと思う、備え付けのバリスタくらいは必要じゃないか?


「無理だ、空を飛んでちゃ勝てる気がしない」

「住んでる洞窟で戦うから大丈夫だよ。天井は高いけど、神竜が飛べるほどじゃないから」


 む……それなら……。


 話によると神竜の大きさは、頭から尾の先までで30mほどらしい。

 俺は見た事ないんで分からないが、雑に想像すると頭と体と尾で3分割して胴体のサイズが10mくらいだとする。


 ……鱗をどうにか抜いたとして、皮と肉どれだけ分厚いんだ?

 前に戦った野盗の頭が全力で両手剣を振り下ろしても、途中で止まるだろ。

 とてもじゃないが、人間の力で致命傷を与えられる気がしない。

 そして相手の攻撃は、一撃でこちらが即死するのが想像に難くない。


「無理ですごめんなさい他をあたって下さい」

「え? 神竜は炎のブレスを3回しか使わないよ? それに巣の中だから――」

「それ1回で死ねる自信があるんだ、この依頼を俺は受けられない。街が襲われるというのが本当なら然るべき場所へ訴えるのが良いと思う」


 深々と頭を下げ、宝石を背負い袋に詰め直す作業を手伝う。

 イェリンは「えー……断られるとか考えてなかった……」とか「勇者なのに……?」と首を傾げて、不満よりも不思議そうにしていたのが印象的だった。


**********


「――っていう事があったんだ。前に空を飛ぶ敵は想定しないって言ってたけど」

「もし本当にドラゴンが襲ってきた場合の備えですか。バリスタや投石機を備えるよりも、地面に穴を掘っておく方が有意義だと思いますね」

「ユーマ、その女の子はそのまま帰したのかい?」

「今話した以上の事は秘密って事だけど、村に軟禁する訳にも行かないし。それにここに留め置いて、ドラゴンの襲撃と関わりを持ちたくなかったんだよ」


 神竜は街を襲うらしいが、通りすがりに村が襲われないとも限らない。

 普段防衛に関する相談をしているジローとテオドールに話を持ち込んでみたわけなんだが、どちらも唐突すぎて困惑を隠せない様子だ。


「たしかに村に置くにせよ、我々が間に入って他へ知らせるにせよ、実際に襲撃があれば後々責任問題になりそうではありますね」

「しかしまだ小さい娘だったんだろう? 1人で行動させるのは……」


 それは俺も思ったんだが、せめて最寄りのマダーニまでゴーレムを護衛につけようと言ったら断られたんだよな。

 それも壁に立てかけられていたハルバードを片手で振りながら、だ。

 空気を斬りさく鋭い音と、地面につく直前にピタリと止める腕力。

 あの子、俺より強いだろ。


「街までついて行き、騙されたりせぬよう世話を焼くというのであれば、間に入っているのとそう変わりありません。本人が1人で良いと言うのです、関与すべきではありませんよ」

「まあそこまで割り切って追い出した訳じゃないけど、あの子を抱えてると村に火の粉がかかりそうだと思ったんだよ」


 ジローは良い人だからな。

 どれだけ強かろうが、子供1人で行動させるのは心配なんだろう。

 俺の場合は良心よりも、イェリンを見送る時に後ろから見ていたミュリエルの視線の方が痛かった。


「地面に穴を掘る――防空壕ですか、ドワーフの方を監督役にゴーレムを割り振ればどうにかなるでしょう」

「さすがに他に何か出来るとも思えないしな」

「ドラゴンじゃなぁ……」


 天災みたいなもんだろう。

 まあ他の原因での火事や災害も考慮すれば、地下倉庫の類は作っておいて損はないしね。


「それはそれとして、そろそろ王都へ報告に行く日でしょう? 例の件をお願いしますよ」

「王都の知り合いなんて数えるくらいしかいないんだけどなあ……ジローの方が向いてると思うんだけど」

「報告役は君を指定されているんだ、私まで村を離れる訳にはいかないだろう」

 

 うちの村の農業顧問に頼まれた個人的な用事。

 まあ、話を聞いてくるだけなんだけど。

 王都に返り咲く日のために、自分の評判調査をしたいだなんてなあ……。

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俺とポンコツ幼馴染と冒険とパンツ
― 新着の感想 ―
[一言] 予知系の勇者の子孫とかでしょうか…断わられることを知らなかったことから割と断片的な感じの
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