004話 ちょっとドラゴンを殺してこない?
村の復興は順調、増えた住民分の食料は支援物資と購入で賄いつつ、開拓を進めて秋頃には軌道に乗る予定だ。
移民に関しては希望者が多すぎて、ついに村の居住権を販売する事態にまで至っている。
拡張予定とはいえ、こうでもしないと村は人で溢れかえり、即刻飢餓が発生するだろう。
それだけの勢いで増えた人口を賄うのに、今耕してます! では無理がある――この村以外では。
普通なら間に合わないだろうが、うちの村にはゴーレムがあるからな。
任せきりという訳にはいかないが、単純労働なら人間の10倍くらいは働くのだ。
それを量産しているのだから、開発スピードの加速っぷりは俺から見ても「マジで?」という早さである。
その凄まじさは噂となり「やっぱり勇者なのでは?」「勇者は自分のことを隠したがる傾向が……」などと、余計な憶測を招いている。
そんな尾ひれの付いた噂話によって、俺の虚名は膨れ上がっていく。
そしてそれがまた面倒事を呼んでしまうという……悪循環だ。
「お父様にお客さんなんだけど、通してもいいですか?」
「あれ? おかえりミュリエル。随分早いのはお客さんのせい?」
「うん、森で会ったんだけどお父様を探してるって言ってました!」
……師匠に何を言われたのか分からないが、他人がいると話し方まで変える様になったミュリエル。
正直よそよそしくて元に戻して欲しいんだが、反発されてせっかくの師匠の説得が無駄になるのが怖いんだよなあ。
良い方に変わろうという、ミュリエルの努力も汲み取ってあげたいし。
「何の用……かは会って聞いてみるか。リビングに通しておいて」
「は~い!」
以前より村の中だけでも仕事の種類が増え、資料が必要になったり書面に残す必要が出来たりするようになった。
居住権なんて物を売り出すなら、住民の権利に関しては文字で残す必要がある。
そして何故か新規移住者の管理は、俺の仕事って事になってもいる。
さらに他の街とのやりとりも増えている、新しい家に俺の仕事場が作られたのは当然だが、作ってやったから仕事しろと言われてる気がしないでもない。
ここに通すと見られたくない物が諸々とある。
途中だった仕事を片付け、リビングへと向かった俺を待っていたのはミュリエルよりやや下の歳に見える少女だった。
「君がミュリエルの言ってた子だね? 俺に何か用なのかな」
「うん、あたしのとー様に言われた人を探したんだ。たぶんあなただよね」
俺が来る前に出されたお茶――謎の葉っぱ汁――を躊躇なく飲み、焼き菓子に遠慮なく手を付けていた女の子。
短めに刈られた赤毛は櫛を入れたような様子はなく、服は何かの毛皮を胸と腰に巻いただけ。
だと言うのに、ミュリエルよりもさらに小柄な背丈に似合わない長柄武器が、我が家の壁に立てかけられている。
このハルバード……装飾も立派だし、品質も高そうに見える。
王都で買うなら支払いに金貨が必要なんじゃないか?
服装や振る舞い、何より持ち込んだ人間とあまりにも似合わない品だ。
「君のお父様……からのお使いって事かな」
「そう、依頼をしてこいだって。神竜を殺して欲しいんだけど、いつ頃ならできそう?」
「う~ん……今は結構予定が詰まってるんだよね……」
何か不穏な単語が飛び出したが、俺は忙しいのだ。
子供は突飛な遊びをするよね~……神竜、つまりドラゴンを殺せだって。
ここは適当に付き合ってお帰りいただこう――⁉
そう決めた俺の目の前で、女の子が横に置いてあった袋の中身をテーブルにぶち撒ける。
「依頼料はコレね、前金っていうヤツ? 残りは神竜の巣にある財宝を全部持ってって良いんだって」
「いや君……これは、どこで?」
「とー様が持っていけって」
女の子がテーブルにぶち撒けたのは、背負い袋一杯の宝石だった。
小さい物も多いが、とにかく量がハンパじゃない。
オマケに王都でも見ないサイズの物がちらほらと……。
ゴーレムを含めても、村をまるごと買えてしまうんじゃないかって金額に見える。
いや、額が大きすぎる、真贋鑑定が必要だろう。
偽物だったなら苦笑いして帰せばいい。
――でも、本物だった時は……どうする?
こんな物を用意してくるって事は、この依頼が本気だって事だ。
本気で、異種族の軍勢を焼き払ったドラゴンと戦え――と?
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