エピローグ
「ではジローの騎士叙任を祝って!」
「「「「「かんぱ~い!」」」」」
ジローの家にウチの家族4人と、家主であるジローの声が響く。
一人暮らしなジローだが、王都から派遣された人材という事もあってその住居は少し広めに作られている。
とはいえ、5人も集まるとさすがにちょっと狭いな。
冬って事で保存用に作ってた腸詰めなんかを、手に取りやすいのは良いけど。
お祝いって事もあって今晩は奮発してるのだ、一番喜んでるのは主役のジローじゃなくてタロだけどな!
「帰りに実家へ行く事も考えれば、明日の朝には王都へ出発する。今の状況でさらに負担が増やすのは心苦しいが、頼んだぞユーマ」
「さすがにこればっかりは引き止められないだろ? おめでとうジロー」
「ジロー、実家に帰っちゃうの?」
「今回の救援の事で、家や領民にお礼をしてくるだけだよミュリエル」
「ジローは自警団の団長ッスからね」
この騒動の功績で、ジローは正式に騎士としての資格を得る事ができた。
今回はその叙任式で王都へ向かうジローを送り出す会、という訳だ。
もっともそれを理由にした身内のみのお疲れ様会、という方が近いが。
ちなみに師匠やテオドールも誘ってはみたが、師匠はお疲れのご様子でテオドールは楽しそうに残業中だ。
破壊された建物の再建、この機会に村の再整備、農業計画や新しい事業計画、国や周囲の街からの支援に関する交渉に、噂を聞いて新しく移住を希望する者が増える事への対策、等々……。
俺だったら「ごらんの有様だよ!」と叫ぶであろう書類山積み状態の中で、不気味な笑い声を発している顧問の邪魔をするのは気が引けたのだ、ドン引きで。
「やっぱり叙任式っていうとこう……式典の後で馬上試合とかやるのか?」
「今回は時期外れの式典だ、催しとしては小規模と聞いているので無いだろう」
「ジローの為だけに式典するの? 出世したね~」
実際出世なんだが、ミアの言葉にはジローの笑顔も半分ってとこだ。
ジローの為だけって事は多分ないだろうからなあ。
今回の騒動は規模が大きかったから、論功行賞をちゃんとしてますよってのと、平常通りに式典する余裕があるってアピールじゃないかな?
「出世ならごすじんもしてないッスか? すごく褒められてたッスよ?」
「うん、お父様にご挨拶したいって人が何人も来てたよね」
「その度に隠れてもらって悪かったな、ミュリエル」
労うように抱き寄せて撫でると、目を細めて嬉しそうな顔がこちらを向く。
その近さにちょっと慣れない所もあるが、表には出せないな。
以前は2人で立てば胸の下にあったミュリエルの頭が、今は肩の下にまで来る。
一着だけ残ったミアお手製のフード付きの服も着れなくなり、髪を隠せないので外の人間が来ると顔を合わせないよう、不便をかけているのだ。
見た目だけならレティシアやフェリシア様と同世代くらい……か?
話し方や情緒面にも違いが出てる気がする、内面にも変化があったんだろう。
「新しい家、早く出来ると良いよね~。ミュリエルも落ち着かないだろうし、新しい服も作れないしね」
「うん……ごめんねミア。おうち、守れなくて……服も……」
「そういう時はありがとうで良いよミュリエル。新しい服、作って貰うんだろう?」
「そうそう、燃えちゃった物は仕方ないよ次はもっと可愛いの作るからね! それにミュリエルは頑張ったんでしょ?」
「すごかったッスよ! ぶわぁ~って風を起こして皆吹き飛ばしてたッス!」
俺達の家は全焼してしまったが、幸い家族に死者は出ていない。
それに家のおかげで、直接地面に叩きつけられずに済んだギーがギリギリ一命を取り留めたのも幸いだった。
その場にいたのが木こりのジルと薪割りのゴーチェで得物が斧であり、治療魔法が使える師匠までいた事で救助が間に合ったと聞いている。
でもその一件がミュリエルに与えた衝撃は、よほど大きかったんだろう。
今の姿に急成長するのは本人にとっても何らかの禁忌に触れる事だった様子だが、それを押して村のために戦う決意を固めた大きな要因だったはずだ。
「ユーマたちの家は優先順位を上げようという話もあるが……」
「空いた家を使わせてもらってるし、そこまで急ぎじゃないんだけどな」
「急ぎだよ⁉ 作業場がないと服作れないってば!」
手のひらサイズのミアがミュリエルの服を作ろうとすると、とにかく時間がかかる。
広げた生地がいつまでもテーブルを占拠する……という状況になるので、前の家には小さいが、そのための一室があったのだ。
切って適度に冷ましておいた腸詰めをフォークに刺して差し出し、ミアをなだめながら次の家の間取りを相談する。
「ミュリエルの部屋もいるよな? 俺とタロ、ミュリエルとミアで分けるか?」
「私はタロとでもいいよ、お父様はミアとじゃダメ?」
どんな分け方だ、ミュリエル。
一応お目付け役として、タロと一緒にさせてる事は多いけどさ。
そういや俺も実家にいた時は、ジローやサブローと一緒に寝てたっけ。
「ボクたちの優先順位を上げてもらえるのは、ミュリエルが頑張ったからッスか?」
「それもあるし、頭目を捕らえたユーマの評価が高いからだな。外からくる者達もユーマの名前を出す事が多い。村での評価が変わったのは感じるだろう?」
「ま~そうだね~、古い人達と新しい人達どっちも褒めてたね」
「正直広まった噂を聞いた外の人達の評価に、引っ張られてる気がしないでもないけどなあ……」
「さすがに謙遜しすぎだ。軍組織のトップを一騎討ちの末に直接捕らえるなど、騎士の夢のひとつだぞ?」
そうは言うがな、規模は大きいが結局のところ野盗なわけで。
おまけにミアの魔法で助けてもらったから、一騎討ちってのもどうなんだと。
ミュリエルと師匠の手柄を、横取りしてる形になってるのも気になるところだ。
そのミュリエルは活躍の褒美のように、俺の器にワインを注いでくれている。
「お父様が褒められてるの、嬉しいよ?」
「あんまり持ち上げられると失敗した時が怖いけどね」
「その時は私たちが助けるさ」
「ボクも! ボクもお手伝いするッス!」
腸詰めと肉料理に気を取られがちなタロだが、今回はミュリエルの傍で頑張ってくれたらしい。
一応なんとなく1人いくつという雰囲気のあった腸詰めだが、俺の分をひとつ分けてやると黒い目を輝かせて大喜びする。
褒美がお安くて助かるよ。
**********
「ミュリエル寝たよ~タロも一緒にいびきかいてる」
宴会を解散し、仮の我が家に帰宅するとミュリエルとタロはすぐにベッドに向かっていった。
よく食べてたもんなあ……。
木のテーブルを前に椅子に腰掛けて、今後の事を考えていた俺にふよふよと飛びながら報告してきたのは勿論ミアだ。
そのまま「そいやー」と、テーブルの上に出していた手の中に飛び込んでくる。
「なんだ、ミアもお疲れか?」
「ちょっとね~服作れないからストレスも溜まるし……あ”~そこそこ」
背中に生える2枚の透明な羽、その間にあたる背中部分を指でなぞってやると、いい年のおっさんの様な声が妖精さんから漏れる。
羽が邪魔で自分では触れない場所らしく、この部分が良いんだそうだ。
ついでに余った指で顔だの体だのを弄ってやると、対抗するように手足を絡めてくる。
「服か……燃えたのは残念だったな」
「にゅふふ~まあミアのはともかく、どのみち今のミュリエルじゃ着られないしね。ユーマもミュリエルが大きくなって残念だった?」
「どうかなあ……」
頬杖をつきながら、手の中の妖精さんと格闘しつつ考える。
羽や柔らかい体を傷めないようにするのは難しいんだが、我ながらなかなかの妖精さばきと言えるだろう。
「あの年頃に成長するまでの事を、ゆっくり見られなかったのはやっぱりな」
「そうだね~顔立ちも少し変わったし、デザインの計画も練り直しかな~」
会話の間も攻防は続いている。
親指で頬を撫でてやると、スリスリと押し付けてくる肌触りが心地良い。
それを見透かしてるんだろう、ニヤニヤとした笑みが俺の対抗心を煽る。
「あっ……コラッ! そこは反則、反則だってば!」
「無力な妖精さんめ……人間の力を思い知るがいい!」
こうして家族や友人と、ゆっくりとした時間を持てる事が出来ているんだ一段落は確かについた。
今回の騒動では、人生で一番大変な時を乗り切った。
――そう思ったのがたった1年ほどで塗り替えられるとは、この時は思いもしなかった。
ブクマ、評価、感想、誤字訂正等いつもありがとうございます!
今回で1章完結になります!
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しばらく更新をお休みして、11月1日から2章開始予定です!




