050話 ユーマ到着
「……耐えてるな、まだ囲んでる連中が200は居るように見えるが大したもんだ」
「正門は壊れてるようだけど……裏門で戦ってるあの騎兵は知らないな。ジローが間に合ってくれたのか」
村のある台地から離れた丘の上から戦況を確認する。
どうにか間に合ったらしい俺の周囲にいるのは、王都で雇った50騎の傭兵団だ。
フェリシア様の紹介状と、通常の契約金に加えて後払いでの魔剣を50本という条件に疑いを持ちながらも応じてくれた彼らは中々の腕利き、らしい。
魔剣を金貨に換算して合算すると、報酬額が金貨400枚に達する。
これで腕利きじゃなかったら激しく困るぞ、本当に。
「ところで、アレが話に聞いてた魔法使いか?」
「そのはず……いや、あの光はミュリエル⁉ どうして戦場に!」
「あの魔法……ミュリエルが練習してた風のだよ! ミュリエルが戦ってる!」
遠目にだが、強行軍で駆けつけた夕闇の中で光るミュリエルの色を、俺達が見間違うはずがない。
ミュリエルは俺や何人かの子供と一緒に、師匠に魔法を習っている。
でも師匠は子供に直接的な攻撃魔法を教えていない。
台地の上で荒れ狂っている風は、自衛手段として教えられた物のはずだ。
おそらくはそれをミュリエルの有り余る魔力で、極端に増幅しているんだろう。
他の村人もミュリエルと一緒に戦っているみたいだが、いくらなんでもあの子を最前線に立たせるなんて!
「団長、敵の本陣……というか、親玉の位置は分かるかな? 直接捕らえてすぐに戦闘を終わらせたい」
「無茶苦茶言うな……本陣なんて立派な物を作ってる様には見えないぞ?」
「強行軍だったし、無理かな?」
「北の獣人族相手に鳴らした騎馬隊だ、今日で終わるなら野盗を蹴散らすくらい造作もないが、あの野盗共まともな指揮を執られてる様には見えん」
それは俺から見てもそうなんだよな……。
台地の下に降りている一団もいるし、上にいる連中も浮足立って坂道を雪崩のように後退している。
「あの調子なら遠からず……いや、既に逃散を始めてるんじゃないか? 台地の下の連中に突っ込むだけで決定打になりそうだが」
「上で魔法を使って戦ってるのはまだ小さな子供なんだ、出来るだけ急ぎたい」
「おいおい勘弁してくれ……雇い主だけでもコレなのに、この上まだガキが関わるのかよ……」
「黙ってろモイーズ、契約が成立した雇い主への無礼は許さんぞ」
「へいへい、黙ってますよ」
子供に関わって何か痛い目を見たらしい、古参の傭兵が口を挟んでくる。
それが何度かあってジンクスになってるらしいが、俺も見た目はレティシア達よりも少し年上の成人直後くらいに見えるからな。
傭兵団の宿所に行った時は随分絡まれた、仕事してくれるなら良いんだが。
問題は、おそらくミュリエルが狙われてるって事だ。
あの野盗どもの頭目、それだけは絶対に生かして捕らえる。
こんな大それた事を、一度失敗した後で二度も三度もやるとは思えない。
でもそれはあそこで野盗どもを引き連れている、頭目の話だ。
狙っていた物もだが、支援者――黒幕を吐かせないと!
村が一番人手を割いている仕事は食料調達だ、その大変さは身にしみている。
それを、村の人口と同数? 毎日の調達も無しにだ!
テオドールやジローとも話したが、あの人数を食わせられる食糧を野盗が計画的に貯め込んだとは考えにくい。
絶対に何らかの支援者がいるはずだ。
けど居場所が分からない以上、まずは雑魚を何とかする事を考えよう。
「ひとまず台地の下にいる集団をなんとかしよう、俺達はこのまま突撃するが大将はどうする? 気性の荒い軍馬をここまで走らせただけでも大したもんだが……」
団長の言葉に頷いて馬を歩かせ始める。
腰の長剣は馬上で振るうために借りた物だ。
もちろん護身用の為だけに、わざわざ用意してもらった訳じゃない。
村を襲う野盗どもの集団を睨みつけ契約した傭兵隊、その団長に命令を下す。
ミアもいそいそと腰の鞄に体を収めつつ、檄を飛ばしてきた。
「ミア達でミュリエルを助けるよ! ユーマ、行っちゃって‼」
「ああ行こう、馬術は特技なんだ。あの連中を蹴散らして村を救援する」
先頭を切る勢いで馬を走らせると、後ろから傭兵達の喝采が追ってくる。
ミュリエルを、みんなを助ける。
俺は決意と共に、腰の長剣を確かめた。
ブクマ、評価、感想、誤字訂正等いつもありがとうございます!
明日の投稿は朝の8時過ぎ予定です
まだ思案中ですが、近い内にタイトルが下記に変更予定です
「最強の娘と虚名を得た俺は、乱世から逃れられないので終わらせる!」
 




