048話 ミュリエル覚醒
自警団を中心にした村の人たちが弓や石を手に、防壁を越えてくる野盗を必死で追い返す。
台地にある村には侵入するルートが限られていて、その上にお父様たちが作った頑丈で高い防壁まである。
――でも、悪い人達はすごく数が多い。
大人の男の人だけじゃ全然足りなくて、女の人も子供も投石や外から射ち込まれた矢を拾ったり、細々とした物を運んで走り回ってる。
村には大体300人くらいの人が住んでるって言ってた。
でも子供やお年寄りや女の人、それに病気の人だっている。
強い大人の男の人は村の半分もいないと思う。
それでもみんなで頑張って、300人もいる悪い人達の攻撃から昨日は村を守りきった。
けれど……。
「正門が……ヤバいぞ⁉」
「ソフィアに来てもらえ!」
「ダメです! あちらも押されている! 体格の大きい者は近接武器の用意を!」
「ゴーレムは!? あいつでどうにかならないのか!」
「見りゃ分かるだろう! あれは破られてからだ!……がっ⁉」
弓を構えていた自警団の人の肩に矢が突き立った。
村の人たちの表情に絶望が広がっていく。
村に一体だけ残されているストーンゴーレム――お父様が最初に作ったアトラス――は村の人10人分よりも強いと思う。
でも門を破られてしまったらアトラスがいても、きっと悪い人達を止められない。
「お、おい……もう戻ろうぜミュリエル」
「そうだよ、また大人の邪魔になるかもしれないだろ?」
昨日師匠の邪魔をした私を止めようとついてきた3人の年上の友達が、ずっと集会所に戻ろうと言ってくるけど皆が傷ついていくのをただ待っているなんて耐えられない。
フィリップとピエロが私の腕を引っ張る。
ポールも賛成みたいだけど、いつも皆を引き連れるパトリスはここにいない。
そのせいか強く言い出せないみたい。
3人を無視して正門の戦いを見つめる。
門は今にも破られそうで、皆に指示を出してるテオドールさんが落ち着いた様子のまま、自分の腰にある剣に手を置いた。
破られたら、誰かが先頭に立って戦わなくちゃいけない。
お父様がいればきっと先頭に立って、悪い人達を皆やっつけてくれたけど……。
自警団の団長はジロー、村の偉い人は村長さん、賢くて相談に乗ったりしている師匠とテオドールさん。
でもジローはいなくて村長さんはお爺さん、師匠も裏門にいる。
テオドールさんは、お父様が「訓練をした経験はあるらしいけど、俺より少し弱いくらい」って言ってた。
テオドールさんに何かあったら、きっと皆戦えなくなる。
でも、誰かが先頭に立たなくちゃ皆勇気が出ない。
今ここにパトリスがいなくて、友達が弱気になってるみたいに。
「ミュリエル! どこ行くんだよ⁉」
正門を盗み見れる物陰から出て、村の真ん中へ走り出す。
正門じゃ薄い。
一番良い場所は分かっているけど、村の防壁の外にある。
今はこのあたり……が一番濃い。
「ミュ、ミュリエル……どうしたって……うわ⁉ 何してんの!」
「何だ汚れたのか⁉ 風邪引くって!」
「……破れちゃうと思うから」
皆を無視して服を全部脱ぐ。
家が燃えてしまって、残っている宝物はもうこれだけだから。
裸になって、お父様の力を思い出す。
あれと同じ様な感覚で、この台地の地下にある私と繋がる何か――それを、引きちぎる!
今は、邪魔‼
「何……風か?」
「急にこんな……嵐なんて!」
「ひ、引っ張られる⁉ 風じゃない! 魔力だ、魔力がミュリエルに……!」
力がいる。
もっと、もっとたくさんの魔力が欲しい。
今の体じゃダメ、小さすぎる。
私の周りで引きつけた魔力が渦を巻き、吸い込まれていく。
許容量を超えた体が、きしみをあげ――その大きさを増す。
薄く目を開けると、見える風景が変わっていた。
3人は眩しそうに手で私が放つ光を遮りながら、心配そうにこっちを見ている。
手足が、体が伸びたせいだろう、一番高いポールほどじゃないけどフィリップよりは目線が高くなったのは間違いない。
でももう少し、もっと魔力があれば――。
「ミュリエル……苦し……」
「ピエロ⁉」
3人の中で一番魔力を持ってたピエロが、周囲の魔力の減少に強く影響を受けたんだ。
吸収を止めるとしばらくして、ピエロが落ち着いた様子を取り戻したのを見てほっとする。
目指した大きさには足りないけど、ひとまずこれで……。
「ミュ、ミュリエル……なんだよな?」
「大きくなった……?」
「ミュリエル――そう私はミュリエル。お父様が付けた名前、それに与えた力!」
さっきまでとは段違いの充実を感じる。
満足感に拳を握りしめて突き上げる、体の成長に従って心にかけられていた枷も壊れたのかな?
小さい時よりも色々な物を感じ取れる、それに忘れていた記憶も――。
「な、なあミュリエル……そのさあ……」
「うん……そうだな……」
「どうしたの皆?」
「いや……服、着た方が良いんじゃないかなって……」
そうだった、体が成長するだろうと思ったから脱いだんだ。
3人が気まずそうに私の体に視線を向けたり、そらしたりしてる。
水浴びで皆裸になる事なんていくらでもあったけど……自分の体を見下ろしてみた。
皆が見てるのはちょっと膨らんだ胸だ、変わってたら確かに気になるよね。
体をひねっておかしな所が無いか、自分の目でも確認して――。
「お、俺なにか服持ってくる!」
「お、俺も!」
「ミュリエルはそこで待ってろよ⁉」
「え……私も一緒に行った方が早いのに?」
仲間はずれは嫌いなの知ってるのに……それに時間も無いのに!
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「武器を持った者が戦うのです、前の者が倒れたら後ろの者がその者の武器を拾って戦いなさい。まもなく門が破られます、私が先頭で――ミュリエル⁉」
補強された木材は折れ、門はいつ壊れてもおかしくない。
でも、それを待つ必要なんて無いはず。
村の人達に指示を出すテオドールさんの脇を駆け抜け、正門に向け腕を振るう。
小さい時には出来なかった短い詠唱とそれだけの動作で、解き放たれた風の魔法が木材や砕けた石壁の残骸もろとも正門を外側に吹き飛ばす!
お父様の冬の上着を余波でひるがえらせながら、村の人達に向き直って叫ぶ。
「私が先頭で戦う! アトラス、皆――手伝って!」
ブクマ、評価、感想、誤字訂正等いつもありがとうございます!
明日も夜8時過ぎの更新になる予定です
そろそろタイトルを確定させようかと思うのですが
現在の「拾った娘と美人のために村で生きたいだけなのに、アレもコレも俺の手柄にしないでください」
以前の「軍師いわく『乱世エンジョイ勢が発生しました』」
変えようかと思っている「最強の娘と虚名を得た俺は、乱世から逃れられないので終わらせる」
どれが良いですかね?
一応内容的にはどれも一応合っていて、最終的に3つ目になる事になってます




