044話 楽しい村襲撃
「まったく……防壁は板塀だったんですよ、なんでこんな面倒な事に……」
「確かにあの規模の村には勿体ない防壁だな。ゴーレムといい、さてさて何が出てくるやっらぁ?」
鋲を打った革鎧に身を包んだ大柄な男と、対象的な軽装の細身の男。
彼らが眺めるのは台地上にある村とその防壁だ。
自らの目で現場を見るという目的を果たしたあと、台地につけられた坂道に近い端まで移動している。
坂道を登りきった場所から村の防壁までは300mほどあるが、風に乗った流れ矢が飛んでこないとも限らない――という理由で聞かれたくない話をする為だ。
裏門側に配置した50人を別に、200人を超える兵は既に台地を登って正門側に待機し命令を待っている。
「降伏勧告でもしてみるか?」
「賊相手に門を開くとでも? どんな条件を出したら信用するっていうんですか」
事前に人を送って調べた時には、防壁は2mほどの高さの板塀だったのだ。
それが今は高さは4m、材質は石である。
その報告を受けたのは諸々の計画を練り、準備が終わった後。
隣国のバキラで準備を行っていた細身の男は肩を落とし、大柄な男は大笑いしたものだった。
「ここまで短期間に事を進めるとお決めになったのは頭様ですよ、何か一気に押し切るような手は?」
「この地に集ったのは大陸中の英雄たちだぞ? 勇猛果敢に強敵へ立ち向かう彼らに、俺の声が届くとは思わないな!」
行き場のない難民や傭兵くずれの野盗などを集めたのは、腰に手を当てて大笑いしている頭である大柄な男の方だ。
烏合の衆そのものである兵の内実を最もよく知っているクセにと、細身の男が恨めしげな視線を送るがまるで気にした様子もない。
「お前の事だ、そう言いつつ、いつも通り何か準備くらいしてるんだろう?」
「まあ……してますがね、本命はあくまで破城槌なんで期待はしないでくださいよ」
主導権は攻撃側のこちらにある。
まだ攻撃を行っていないのは、台地の上で破城槌を組み立てているからだ。
村からの邪魔も無く、パーツの状態で持ち込まれた破城鎚はそれほどの時間もかからず完成し、全ての準備が整った。
「さて……ゴーレムの賃貸料、金貨50枚に見合った物があると良いんですが」
「ありゃ俺達の金じゃないだろう? どっちにしたってこっちの懐は痛まないんだ、パーッと騒ごうぜぇ?」
「周りの街で野盗騒ぎを起こした連中に、被害は出てるかもしれませんよ?」
この場にいる大多数の兵と違って、別働隊は細かい指示が出せない以上、直率だった馴染み達である。
細身の男の指摘に少しばかり悩む様子を見せたが、すぐに思い直す。
連中ならば上手くやっているだろう、と。
騒ぎを起こし、この村とは逆方向へ逃げさせた。
諸々の下準備が全て上手く行っていれば、国軍が到着するまでに10日は必要なはずだ。
傭兵などの間に合わせならもう少し早いかもしれないが、大規模な傭兵団となれば相応の任務に当たっている。
300人という数に対して、即応が難しいのは国軍と変わらないだろう。
早ければ初日で落とせる、その勝算は十分にあった――はずだ。
だが進軍の号令を出し、しばらく経った前線には予想外の光景が映っていた。
「あれをやってるのがお宝なら話は早いんですがね」
「確認してくるか? ボーナス弾むぞ?」
「火遊びはガキの頃に殴られて以来、やらない事にしてるんですよ」
「ならあそこにいるのも、誰かが叱ってやらないとな」
2人が視線を向けるのは村の正門、そのさらに上空に立つ女の姿だ。
手に持つ杖、その木の枝の様に分かれた5つの先端それぞれに火球を灯している。
時間と共に大きくなるその火球を先端から落とし、スイングした杖で兵の密集した場所へ打ち放つ。
火球は着弾と同時に爆裂し、周囲の兵を巻き込んで炎と恐慌を巻き起こしているのだ。
もちろん味方の兵も黙って見ていたわけではない。
だが矢を放っても、ヤケになった者が石や手に持った武器を投げても、その全てが放った者へと正確に返ってくる。
宙に浮いた相手への対抗手段がないのだ。
現れたと同時に5つの火球をブチ込んできた女に為す術がない。
本命である破城槌も大慌てで引き返す有り様である。
「火遊びの得意そうなのに大きめの盾でも持たせましょう、そのうち火種も尽きます。それにあんなのは2人もいませんよ、裏門からもいきますかね」
「遠目にだがイイ女じゃないか? 俺は2人いて欲しいがなぁ」
細身の男が隣を見ると、目の上に手をかざし敵の女に目を凝らしている。
頭であるはずの大柄な男を無視しつつ、細身の男が伝令を呼びつけて指示を出す。
部下が20人ほど戦闘不能した様だが、2人の男に気にした様子はない。
「大駒1つでどうにかなるほど甘く無いと教えてやりましょう。魔石を使っているのか他の何かか知らないが、魔法は消耗するもの。正門と裏門、1人でどこまで頑張れるやら」
「そいつは大変だ、こっから応援して届くと思うか?」
「敵と味方の区別は付けてくださいよ」
「付けるのは良いが、俺は間違うのが得意なんだ」
空中を足場に奮戦する魔法使いへ向けて両手を広げ、大声を出し始めた頭を再び無視して観察と対策を練る細身の男。
戦闘はまだ始まったばかり、お互いの手札次第でいくらでも転がるのだ。
ブクマ、評価、感想、誤字訂正等いつもありがとうございます!
明日も朝8時過ぎの更新になる予定です




