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最強の娘と虚名を得た俺は、乱世から逃れられないので終わらせる!  作者: 楼手印
1章 拾った娘と美人の為に生きたいだけなのに、アレもコレも俺の手柄にしないで!
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033話 誰の功績?

 窓の隙間から聞こえる鳥の鳴き声に薄目を開けると、いつも通り腕の中には水色の薄明かりが毛布の中を照らしていた。

 藁を敷き詰めた――3年前なら考えられない贅沢だった――上にシーツを被せたベッドから、ミュリエルを起こさぬよう……。


「ん……お父様ぁ……朝ぁ……?」

「起こしたか、朝食作るまで寝てて良いよ」


 剥き出しの肩に毛布を被せてやるが、目を擦りながらも娘が上半身を起こす。

 まだ寝ぼけた様な顔で首を振り俺に続いてベッドを降りようとした瞬間、かわいいクシャミが出た。

 春になったばかりでまだまだ寒いからなあ。


「んぅ~……お手伝いする……」

「それなら早く服を着て、一緒に顔を洗いに行こうか」


 毛布を出たら、さすがにこの季節にカボチャの様なパンツだけでは風邪を引く。

 それは俺も同じなので、俺の服……服は……っと。


「んみゅ~なに、もう朝~?」

「ぷす~」


 俺とミュリエルのやりとりで目を覚ましたミアと、鼻からの変な音で反応するだけのタロ。

 ミアが寝てるのはベッドの脇に置いた背の低い棚の上、俺とミュリエルが作った手編みの……ちょっと不格好なバスケットの中だ。

 時々俺が口と手を出しつつも、ミュリエルが9割を作って一生懸命完成させた寝床である。

 一緒に作ってたタロの寝床は俺の手製10割、正直なところ出来が良いとは言えない物だが、2人とも喜んでくれたのでみんな満足している。

 服を着て汲み置きの水瓶から、ミュリエルの手に水をすくってやると冷たさにキュッと顔をしかめつつもパチャパチャと顔を洗い出す。


「ユーマこっち、こっちも~」

「へいへい、溺れるなよ」


 いつの間にかついてきたミアには、俺の手に貯めた水を差し出す。

 俺はその後だな……。


「ぷはー今日は早いね、何か用事?」

「あぁ昨夜村に泊めた難民で、ちょっとな。」

「あんまり楽しそうな話しないよね? それじゃミアはミュリエルについて行こうかな、ソフィアのとこでしょ?」

「うん、師匠とお勉強。他の子もいるよ?」

「うぬ~それは……タロも連れてこう! 遊び相手がいれば追っかけてこないでしょ」

「勉強の邪魔するなよ……? 俺も行きたいなあ、週イチになっちゃってるし」


 もちろん師匠とは毎日顔を合わせているが、授業を受ける機会がめっきり減ってるんだよなあ。

 理由は3年前から変わらず、忙しいからだ。

 ギリギリの生活をしてたあの頃からすれば比較にならない生活だが、何故かやる事が減らないんだよな……。


**********


「本当に、お願いできませんか? 頼る親戚も無く、町の定住権も買えぬ身です。開拓村に置いて貰えなければ物乞いになるしか……」

「申し訳ないですが、この村にあなた方の一行を置く余裕がありません。どこかで噂を聞いたのかもしれませんが、先月だけでも既に30人を受け入れた直後で、これ以上は食料が持たないんです」


 どこかで聞いたような断り文句を、今度は俺が家族を率いて村にやってきた男に向かって伝えている。

 年寄りや小さな子供もいる家族だが、彼らを受け入れれば既存の村人の食料を削らざるを得ない。

 当然旧来の村人と移住者との間に不和が起き、最悪暴動へ……考えたくもない!

 なんで俺がこんな嫌な役をやっているかというとだ――。


「移住者の受け入れ可否は、水と食料の余剰で大部分が決まる。お前が担当している事だろう? それにお前も移住者だ、まとめ役をやってもらおう」


 だとか村長が言ったからだ!

 移住者っていうなら誰も彼もがそうじゃねぇの⁉ とはさすがに言えないから受けたけどな!

 師匠が押し付けられたら目も当てられないし! 


「お父さん……この村に入れないの?」

「……黙って歩きなさい」


 去り際に交わしていた親子の会話が心を抉るが、この家族を助けたところで次の移住者が来たらどうするんだって話だ。

 今は無理。

 一晩の寝床と水と食料を、金や物々交換で分けてやるのが限界だ。


「ユーマ、これから顧問さんのとこかい? 帰りにウチに寄ってきな息子の古着をタロが着れる様に直したから」

「助かります! ありがとうございます、タロも喜びますよ」


 手を上げておばさんに感謝を伝えながら歩く。

 豊かとはとても言えない現状で、家族のために手間を取ってくれる人がいる。

 そのくらいには俺の仕事は評価され、村に受け入れられてきた。

 でもさっきみたいな困窮した親子を拒絶してるとなあ……。


「それでもこの3年で200人以上の移住者を受け入れて来たんだ、褒めて欲しいくらいだろ?」 

「えぇまったく。この村の発展は全てあなたの功績ですよユーマ殿」

「いやそれはさすがに無いけどさ」


 愚痴る相手はテオドールだ。

 村の発展に関しては、農業顧問なんて肩書でアレコレと相談に乗ってもらっているこの人の功績が5割ってとこじゃないか?

 後は村の防衛責任者であるジローや、魔法で支えてきた師匠、それに悔しいが村長に――。

 ゴーレムの製作はミュリエルとの共同作業、俺個人の功績は1割もあるかどうか。

 いや頑張ったし、頑張ってるけどね⁉


「ではそれはそれとして、今年試したい作物が手に入りましたので、予定していた農地の計画変更とゴーレムの配置についてですが」

「またか? この間マダーニに出かけてた時のか」

「はい、こちらに品目と購入費の明細もありますよ」


 テオドールが懐から出した羊皮紙を広げ、ざっと目を通す。

 俺もこの3年、アレを試したいコレは良いんじゃ? なんて出かけた際や行商人の目録に目を通す事が増えていた。

 その経験からすると明細に疑問符が浮かぶな。


「この辺の苗や農具はもっと安く買えたんじゃないか? 商人じゃなく、マダーニの街自体との取引だろ? 一度あそことの交渉の目録で見た記憶があるぞ」

「だからですよ。交渉とはお互いに利益を得られるよう、調整することを言うのです。何も金銭ばかりが利益ではありません、この村は上り調子。近隣との関係は買っておいて損はありませんよ」


 まあ確かに、マダーニとは採石場の権利で揉めたばかりだしな。

 元々マダーニがここにあった頃に採掘していた場所だが、放棄された後に余裕のできたウチの村が採掘を初めた。

 向こうとしては捨てた場所でも、他の誰かがそれを手に入れれば急に惜しくなるのが人情ってもの。

 言いがかりをつけてきたので、王国へ仲裁を求めたのが去年の話だ。

 

「それにしても、うちの村はコロコロと新しい品種を試すよな。俺たちが来る前の村もそうだけど、他所はこんなに変更してないぞ?」

「それは……あまり大きな声では言えませんが、勇者帝国の悪習による物ですね」


 勇者帝国か。

 異種族、モンスターを蹴散らし大陸を制覇した、かつての偉大な大国。

 勇者達がもたらした数々の知識や技術により、当時の文明は飛躍的に向上したという。

 今と比べても遥かに高度な技術や魔法が駆使されていた、らしいがなあ。


「その勇者の優れた指導が問題でして、優れ過ぎていたのですよ。勇者のやる事に従った者は救われ、嘲笑った者は損をする寓話や説話は多いでしょう? 勇者が『この地には麦を植えよ』とかつて言ったのなら400年経っても麦を植えるのです。農業だけではなくどの様な分野であれ、その様にするのです」

「技術や知識は失われたってのに、そんなとこだけ残したってなあ……」


 なんでそうするのかも分からずそうする、止めた方が良いと思ってる人も多いだろうな。

 でもこれはそうするのが()()って話じゃない、そう()()()だって話だ。

 本心がどうあれ口に出すのも勇気がいるし、出したら出したで正義を振りかざして袋叩きにする連中も出るだろう。

 しかし、だ。

 

「そこを押して改革を断行、成功させたウチの農業顧問の功績はやっぱり抜群なんじゃないか? 王都に報告すれば認められて戻れそうだけど」


 まあ戻られたら困るんだけどな、この村。

 採石場の手配も移住者の管理も自警団の装備計画まで、食料が絡んでるなら農業顧問も無関係じゃないから……って理屈で口出してるし。

 だが俺の言葉に、農業顧問様は笑顔で両手を広げながら首を振る。


「先程も言ったようにユーマ殿の功績が大きいのですよ。王都に報告するのであれば必ずその様にお願いします、報告書を作られたのなら念の為私にも一読させて頂けますか?」

「あ、あぁ……まあさすがに功績を挙げた俺が来ましたよ! とは行けないけどな」

「そんな方はいくらでもいますし、そうしなければ出世など出来ませんよ」


 そうは言うがな顧問、俺には無理だそういうの。

 その後も愚痴と今後の計画について話し合い、具体的な話を進めるには現場に行った方が良さそうだと席を立つ。

 他の担当者にも声をかける為に先に部屋を出た俺の耳に、小声が聞こえ後ろを盗み見る。


「そう――この程度を功績などと報告されては困るのですよ、この村は上り調子……ふふっ……くはははっ」


 うつ向き気味で眼鏡の奥は見えないが、口元を歪ませる姿がそこにはある。

 ウチの農業顧問……あれさえなければなあ……。


感想やブクマや誤字訂正など、いつもありがとうございます!

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俺とポンコツ幼馴染と冒険とパンツ
― 新着の感想 ―
[一言] 居心地が良くなってるパターンですね。誰かに功績を押し付けるのが目に見えます…
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