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最強の娘と虚名を得た俺は、乱世から逃れられないので終わらせる!  作者: 楼手印
1章 拾った娘と美人の為に生きたいだけなのに、アレもコレも俺の手柄にしないで!
33/206

032話 3年後

 ――村に来てから3年が経過した。


 村の外で剣を手に、ジリジリと間合いを測る俺とジロー。

 この3年の間、定期的にやってきた決闘もどきの訓練だ。


「お父様がんばって~!」

「ジローも今日こそ勝つッスよ!」

「はいは~い、応援は気が散らない程度にね~」


 発端は何かで揉めて、勝った方の意見を取るとかだった気がする。

 でも今となってはリベンジだ! と叫ぶジローをどういなすかというイベントなんだよな。

 なにせ戦績は俺の全勝、勝ち取った白星は既に百を超えているんだから。


「……今日はいつもの卑怯な手を使わないのか?」

「人聞きが悪いな、負け越してるからって言いがかりは止めろよ!」


 今日はミュリエルも観戦してるんだぞ!

 大体がそういう手を使えと言ってきたのはジローの方だ。

 幻覚系の魔法使いのクセに馬鹿正直なのを指摘したんだが、どうも自覚はあったらしい。

 どうせ訓練を積むなら意識を変えるきっかけにもしたいと言われたので――。


 事前に落とし穴を掘ったり、潜ませたゴーレムに襲わせたり、開始時間を変えたと騙したり、ゴーレムは使わないと宣言してタロに攻撃させたり、地面に配置した武器を踏んだのを当たり判定だと主張したりその他諸々……した程度だ。


 さすがに今日はあんまり汚……姑息……頭脳プレイが出来ないが、こればっかりは仕方ない。

 ミュリエルの前で、そういう姿は見せたくないからだが、実は少々ツラい。

 場数を踏むにつれ、ジローも小細工をしてくるようになったからだ。

 今俺と対峙しているジローの服装は訓練用の服にマントだが、このマントが曲者なんだよ。

 割かれてヒラヒラと動くようになっている上に、それぞれが別の色に染められている。

 この上から幻覚系の魔法をかけられると、ジローの体がにじんでぼやけ、見えにくい事この上ないし、魔法を使う動作も確認しづらい。

 副産物として、ミュリエルの髪色はジローが手を加えているおしゃれの類だと思う人が出ていたので、俺から頭を下げてでも続けてくださいと言うしかないのが悔しいところだ。


「……ずいぶん慎重だな、動かないのか?」

「そう思うか?」


 ふっと笑って両手を広げて見せるジロー……何の真似だ?

 幻覚魔法に対しては、それを幻覚だと強く念じる事で打ち破る事ができる――可能性がある。 

 さっきからずっと、今見えてるジローが幻覚なんじゃないかと試してるんだが、消えたりする事はない。

 習得している全てではないが、ジローの魔法の腕と打ち破ろうとする俺の精神力だと俺がちょっと不利なんで、結果を信用できないんだよなあ……。

 攻めあぐねていると、最初に動きがあったのは対峙している俺たちではなく審判(ミア)だった。


「え? あれ? 何やってんの……ジローの勝ち~?」

「はあ⁉ どういう事だミア!」


 驚きに数m横に浮かんでいるミアを見上げた時間は、1秒かそこら。

 そして視線をそらした直後に気がついた、この1秒を稼ぐために――!

 俺とジローの距離は10m、開始と同時に突っ込んでも魔法をひとつ使うくらいは可能という設定距離。

 その10mのほとんどを稼いだ1秒で駆け抜けた、ジローの訓練用突剣が迫る!

 間に合っ――たぁ⁉


「俺じゃなくミアに幻覚を見せやがったな⁉」

「君なら審判が宣言した時点で勝利を譲らなかっただろうがね!」


 受け止めた俺の長剣とジロー突剣が嫌な音を立て、擦れ合う。

 ギリギリ間に合ったが、姿勢が悪い! 

 マズいぞ、初敗北がミュリエルの前ってのだけは避けたいってのに!


「間に落とし穴でも掘ってたらどうする気だ? 盛大にすっ転んだだろ!」

「無いな、その種の手口は昨日の晩から穴に隠れて監視していた。幻覚を使って君たちの前に出るまでな!」


 バカだコイツ⁉

 ……いや100連敗もすれば、そうもなるのかもしれない。

 そして現にその作戦は功を奏し、俺は大ピンチだ。

 一瞬視線を向けると、水色の長い髪を揺らして応援するミュリエルの姿。

 出し惜しみしてる場合じゃない!


「ふんっ……だぁっ!」

「なにっ――そんっな⁉」

 

 足を踏ん張り、全力で押し返して一瞬の余裕を生む、押し返されたら確実に負けだ。

 だがその一瞬で腰に刺した予備の短剣を逆手に持ち、ジローの胴を薙ぐ!

 昔利き手を骨折した時に逆の手も使えた方が便利だからと、訓練した成果が勝利をもぎ取った。

 もちろん逆手で剣を使う訓練もこっそりしてたが、当てれば勝ちのこの決闘ならともかく実戦じゃ威力が足りないだろう。

 それでもこれは切り札だった、もう後がないぞ……?


「え~と……さっきのは幻覚なんだよね? じゃあユーマの勝ち~」

「やった~お父様すごい!」

「は……ははっは、そうだろうそうだろう」

「ごすじん手と足震えてるッスよ」


 うるせぇ⁉ 今日は本当にヤバかったんだよ!


「くっ……ダメ……か……」

「危なかったよジロー、今度はミュリエルのいないところでやろう」


 大の字に脱力して寝転がるジローに手を差し出し、引き起こす。

 小声で言ったのは本音だ、次以降まともにやったら勝てる気がしない。

 それが伝わったのか、悔しそうにしながらも笑っって立ち上がるジロー。


「おつかれさまでした、はいお父様お水。ジローもどうぞ」

「ありがとうミュリエル」

「いただくよ、ありがとう」

 

 しかし自警団の訓練を一緒にやりたいというミュリエルを説得して、見学に留めさせたんだが、俺とジローの決闘まで見に来るとはなあ。

 出会った頃から成長したとはいえ、ミュリエルは村の子供の中でも小さい方だ。

 世間的には見た目が同世代な村の子と同じ7歳という事にしている。


 ミュリエルから受け取った木製のコップで水を飲みつつ、村のある台地の中でも小高い丘になっている、風通しの良い場所から景色を眺め下ろす。

 複数のゴーレムが働いているのが見える以外は、緑の農地と静かな暮らしが広がるどこにでもある村だ。

 現在の人口はおよそ300人。


 後ろで反省会を始めた友人と家族に視線を戻して少しだけ懐かしむ。

 父さん母さん、俺は21歳になりました。


感想やブクマや誤字訂正など、いつもありがとうございます!

漢字で話せるようになりました、セリフも増えるはず


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俺とポンコツ幼馴染と冒険とパンツ
― 新着の感想 ―
[一言] 誉れのない戦い方も知っておかないと足元を掬われてしまいますからね…
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