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最強の娘と虚名を得た俺は、乱世から逃れられないので終わらせる!  作者: 楼手印
1章 拾った娘と美人の為に生きたいだけなのに、アレもコレも俺の手柄にしないで!
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029話 テオドール

「……テオドール様でしたっけ。さっきの話これから先、村で栽培する作物の事ですが」

「様は不要ですよ、今の私は所詮左遷された下っ端役人です。事前にある程度は条件を調べましたし、先程実際に土壌も確認しました。品種は豆類とトウモロコシが良いでしょうね、他の街との交易で食料品を補いたい所です」

「あからさまに聞かなかった事にするつもりか? まあいいや、確認は必要なんで、師匠始めましょうか」

「千体を超えるゴーレムというのは置いておいて、小型の貯水池くらいは出来ると良いわね……」

「ユーマくん先程も言ったが、このゴーレム一体で金貨4枚は超える価値がある。それを千体という規模の話を唐突にされて、着いてこいというのは無茶だぞ?」


 そんな事言ったって、必要なんだから仕方ないじゃないか。

 ……たしかにまあ、言われてみれば金貨1枚あれば、家を持たない庶民でも街で1年はそれなりに暮らせるし、2枚あれば安いプレートメイルだって買える。

 金貨4~5000枚相当か。

 俺にとってゴーレムとか魔道具は身近な存在だったから、意識しなかったな。

 魔石を売った額の金貨130枚には素で驚いたが、あれは手に入る金貨だった。

 でも今話してるのはあくまでゴーレム、しかも使い道が決まってて金貨にはならない物だ。

 取らぬ幻獣の皮算用って感じだな、額からして。

 必要だから作る、必要だから埋める、俺にとってはそれだけの事だ。


 結局この日は師匠に協力してもらい、ゴーレムに宿した精霊の影響範囲を調べて帰り、ジローさんとテオドールさんにあてがう住居を村長と相談する事で消費された。

 そして翌日だ。


「私に用と聞きましたが? 昨日の話からすると貯水池に関する事でしょうか」

 

 当座の住居は村の大工が作る――為の木材を今木こりが切りに行っている為、村長宅に寝泊まりしているテオドールさんを尋ねる。

 農業顧問として来てもらってるので、仕事の話はやはり早い。


「ゴーレムを埋めて、その上に貯水池を作る候補地を見に行く――んだけど水使って実験するから、行くならコレはいてくと良い。あとこれも」

「ゴーレムを? 本当にやる気だったのですね。それに長靴と……その袋はなんです?」

「長くなるから昼飯と濡れた時用の手ぬぐい」


 屋内で机に座って作業していたであろう官僚さんに、現場での作業セットを手渡す。

 ため息と共に礼を言い、綺麗に磨かれた革靴から長靴に黙々と履き替える姿は、ちょっぴり哀愁が漂っている気がしないでもない。

 ちなみにジローさんも村長宅に滞在中だが、先に出て自警団員とやりとりをしてるはずだ。

 昨日の晩は俺とミュリエル達が一時的に暮らしてる小屋に来て賑やかにやったのに、元気というか真面目というか。


「さて……ゴーレムや昨日の魔法使いの女性は?」

「師匠たちは先に現場に行ってるよ」

「なるほど、では歩きながら話しましょうか。特にゴーレムについてです」


 この計画はゴーレムがキモだからなあ。

 昨日話した内容で気になるのは、まあ量産の話だろう。


「他の魔道具工房の生産力はこの際無視しよう。色々あって俺はあのタイプなら週に1体作れる、場合によってはさらに作れる可能性もある」


 この生産力は父さん譲りの能力……でも可能だったが、実は違う。

 魔道具生産におけるネックは大量の魔力。

 だが俺は能力によってミュリエルと繋がり、あの子が持つ魔力を自分の物として扱うことが出来た。

 おかげで自分の能力だけよりも早く生産が可能になったが……あまり喜べない事情もある。


「それが本当なら試してみたい事はいくらでもあります、まずは貯水池から農地へ灌漑が可能かどうか――それに水の確保を多少遅らせても、労働力として確保もしておきたいですね。それを用いた交易を想定して、提案したい事があります」


 昨日の皆の反応からこの生産力は異常なはずなのに、動じない人だな……。


「しかし問題もあります。そのゴーレムを量産できる()()という理由を今、説明出来ますか?」


 聞かれて当然の質問ではあるが、返答に詰まる。

 俺の能力もそうだが、何よりミュリエルの力を公表するのは危険だ。

 黙した俺を気にすること無く、テオドールさんは指を立てて話を続ける。


「だというのに中身は知らなくとも、秘密があるという事を知っている人間が既にいます。カステル殿はご友人のようですが、村の人間それに昨日会ったばかりの私です」

「あぁそこは問題じゃないんだ。今更裏切るような村人は、飲水にすら困窮した時点で既に村を捨ててるよ」

「なるほど、では私は」


 少しばかり足を止めて、隣を歩いていた官僚を観察する。

 歳は20代前半、黒髪をきっちり整え黒を基調とした服にも皺が無い。

 さっき履き替えていた靴も、昨日村へと旅をしてきた割には綺麗だった、自分で汚れを落としたのか?

 小さな丸眼鏡の印象もあってか、几帳面で賢そう。

 う~ん……旅に出た後も接した人数が100人に届かない俺じゃ、人間性が掴めないぞ?

 

「立ち上げメンバーでコケるようならそれはもう、どうしようも無いと思う。農業を指導してくれる人は絶対に必要だったし、信用しないと前へ進めないんだよ」

「前へ進んでどうしようと? ゴーレム千体、一国の正規軍とも戦える戦力を容易く作る人間の目標はどこです?」

「今はこの村を住めるようにする。師匠と俺の家族に不自由をさせない、それだけかな。俺はこの村の事ですら知らない事が多いのに、一国なんて手に余りすぎる」


 答えて再び歩き始めた俺に向かって、口の端で小さく笑ったテオドールさんが何を思ったのかは分からない。

 良いとも悪いとも言わず、隣を歩いて話を続けてきた。


「先程の問題点ですが秘密とはいずれ漏れるもの、それを踏まえて今考えた対策がふたつ。ひとつ目は、いずれ噂になるのであれば、いっそ最初から流布すればよろしい」

「自分から秘密を公表しろって言うのか?」

「その方が情報をコントロールしやすくなります、何も馬鹿正直に秘密を公表する必要もありませんしね」


 なるほど、信じやすそうな嘘をあらかじめばら撒いておく、か。

 となると――。


「一度ゴーレムをこっそりバキラにやって、その後行列を作りながら人目に晒して村に戻す。魔道具工房が蓄えていたゴーレムを移動させたんだ――ってのは?」

「確かにそれなら噂を流す手間が省けそうですが、行列が作れるほどのゴーレムをこっそりというのが難しそうですね。それにそれだけの規模の魔道具工房が知られていないという点もネックです」


 ダメか、とっさの思いつきじゃ良い噂ネタが出てこないな。

 腕を組んで頭を悩ませる俺の隣で、長靴を履いた官僚が丸眼鏡を押し上げながら話を続ける。


「世の中は大きな物ほど他の物事を隠せるものです。いっそ本当に大規模な魔道具工房をこの村に作りましょう、目指すはこのミノー王国、いえ地域最大規模の魔道具工房です。他の魔道具を作りつつ、ゴーレムくらい量産しているだろう――内部の人間ですらそう思う規模の物を」

「いやちょっと待て、そんな馬鹿でかい話にまでする必要があるのか⁉」


 慌てる俺に長靴官僚さんは呆れた表情で返してくる。


「金貨5000枚を地に埋めると平然と言い放った人間が何を言うのですか」

「ゴーレムは俺と少数の人間だけでどうにかなる問題だったからさあ……」

「やれやれ……しかし、この案にも欠点があります。お気づきでしょうが時間がかかる。最初の内は作った直後に埋めていけばゴーレムが噂になる事はないでしょう。ですがその後の村の発展で労働力としてゴーレムを使い始めた頃、まだ魔道具工房は小さな物のはずです」

「それじゃ秘密を隠す役には立ちそうにないな、逆に目立つ可能性まである」

「その通りです、ではもうひとつの案を。あなたは妖精と暮らしているそうですね?」


 ぬ? ミアを何かに巻き込もうってのか?

読んで頂き、ありがとうございます!


面白かった、先が気になると思って頂いた方がおられましたら

ブクマして頂ければ幸いです

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[一言] 軍師ってテオドールさんのことでしょうか?
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