028話 ゴーレム作戦
俺とミュリエルは師匠に弟子入りして魔法を習っている。
自分の魔法が失敗してた場合を考えて、今はタロ達とお留守番なんでミュリエルはここにはきてないが、普段は隣で一緒にお勉強をする仲だ。
ミュリエルには生まれつき圧倒的な魔法の素質があるらしく、どうせ俺に教える手間を取るなら一緒に、と師匠に提案されたのだ。
魔法は個人が先天的に持っている素質の系統しか扱うことが出来ない。
ミュリエルは特殊なタイプらしく例外らしいが、俺の持っている魔法の素質系統は地精系と魔道具化系だ
そしてその内の魔道具化の系統を使い、作った物こそが!
「それで、このゴーレムと水不足がどう関係すると?」
テンション上がって次! って所で説明を求められるとちょっと下がるよな……。
俺に質問を投げかけて来たのは乱入してきた客人、その内の1人だ。
ちょっと時間を遡ると――。
「彼はマンチーニ氏、王都で官僚の1人として農業に携わっていたそうだ」
「テオドール・マンチーニです、テオドールで結構」
乱入時にそう名乗ったのは、シンプルだがキッチリとした役人風の服に身を包んだ若い男。
俺と同じ歳のジローさんよりもいくらか年上に見えるその人が、小さめの眼鏡をクッと押し上げながら鋭い視線を向けてきた。
ひょっとしたら値踏みされてるんだろうか……?
「専門家が来てくださったのはありがたいです。陳情はジローさんのおかげでもありますよ」
「ほう……?」
「いや待って欲しい、私は時間をとって貰えるよう頼んで回っただけで、あの陳情が上手くいくとはとても思えなかったぞ?」
乱入早々の発言からするに、テオドールさんは村に派遣されたのが不満らしい。
とりあえず余計な陳情に関わったのは俺だけじゃないですよ? というのを伝えてジローさんを巻き込んでおくとして。
「まあ陳情ひとつで、体よく左遷されるほど私が疎まれていたのは理解していますが、どこからか横槍が入ったのは間違いないでしょう」
「横槍……?」
思い当たるのはあれだな、女騎士のサビーナさんとのやりとり。
やっぱり俺が原因じゃねぇかってなるから黙っておこう。
「しかし左遷ですか。えっとジローさんも?」
結構恩を感じてるんで、迷惑かけたんなら真面目に申し訳ないんだが。
「農業を指導できる者と村の防衛を指導できる者、2人を求めたのだろう? 私は後者として派遣されてきたが、パラディール様の従者を解任されてまでというのは納得がいかないな。代わりに軌道に乗せれば正式に騎士として叙任される確約を頂いたので左遷というかは微妙なところだが」
「また食い扶持が増えるのか……」
渋い表情で声を漏らしたのは、村の自警団に所属するガエルだ。
指導という名目なら他所からたまに通ってくる、という形ではなく村に住む事になるだろう。
王都から来てもらっている人材に食い物はそっちで用意しろ! なんて扱いが出来るはずもない、彼らの住居や食料はこっち持ちだ。
農家として厳しい状況の中、村の食糧生産に直接関わっていたガエルとしては頭の痛いところってわけだ。
現状、村の食料については配給制だしな。
もっとも水や薪や服を作ったり修繕したりに必要な生地や糸や針、それに薬草なんかも全部、村長管理の元で配給なんだが。
「食料についてはまだどうにかなる。最悪予算を追加するのも考えておく」
「出来ればやりたくないって言っていただろう」
そりゃそうだ。
予算の追加ってのはようするに、ミュリエルの遺跡から魔石を持ち出すって事だからな。
娘の資産を食い潰す前に、自分の努力でまずはどうにかしたいんだよ。
本当に食料が無いとなれば、仕方ないけどさ。
「この村が得た者がそれほど悪くはなかったと、その内に分かりますよ――それで、このゴーレムと水不足がどう関係すると?」
テオドールさんが視線を向けるのは、高さ2mほどのゴーレムだ。
材質は粘土のクレイゴーレムと呼ばれる個体。
俺が作った二体目のゴーレムになるそれは「ま”っ」と声に応え、両腕を上げてポーズを取る。
「魔道具を作れるとは聞いていたが、本当にゴーレムを作るとはな。これ1体で金貨4~5枚にはなるだろう? 売って村の資金にでもするのか?」
「水を貯められないって生活を変えないとダメだから、売ったりはしないよ」
「ふむ……しかし短期間でゴーレムを作ったとなると、かなりの数の助手が必要だったのでは? その雇用で給金が発生しそうな物ですが」
世の中にゴーレム――というか魔道具が少ないのは、そこが問題点だからだ。
作るのに多大な魔力を必要とし、長い時間をかけるか大人数で取り掛かるかの二択になる。
つまりこのゴーレム、お高いんでしょう? となる訳だ。
しかしそれは普通の人達の話なので、今は関係がない。
「この村――地域の現象は地下に水の精霊の力が集められているってのが原因だ。金属や陶器の器に水を貯めると器が劣化するのも、精霊の力を遮った結果だと思う」
「それは分かっていた事だけど、このゴーレムを直接何かに使うのかしら? 魔法を習得した確認や労働力として必要なのかと思っていたのだけれど」
後ろに控えていた師匠も疑問に思ったらしい。
ちなみに後ろにいたのはおそらく、テオドールさんがいるからだ。
師匠は見知らぬ人にはあまり関わりたがらない人だから、最初に挨拶を交わしてからずっと俺の後ろにいてどっちが師匠で弟子か分からないくらい。
それだけに俺との初対面で、ミュリエルを助けようと杖を向けてきた正義感や勇気や優しさに惚れ直すんですがね!
「器が劣化するのは地下に行こうとする水の精霊の影響を受けるから。なら受けない物を器にすればいい、例えば――精霊を宿して動いてるゴーレムとか」
「ちょっと待ってくれ、魔法には詳しくないが水を貯められる形には見えないぞ?」
今度口を挟んできたのはガエル、魔法の素質は持って無いと言ってたっけ。
たしかにゴーレムは基本人型だ。
よほど時間と技術をかければ他の生物型には出来るらしいが、箱型とかにはできない。
「ゴーレム本体の周囲にも宿った精霊は影響を与えるんだよ、それに複数体組み合わせればいい。見た目よりはずっと大きな範囲をカバー出来るはず……今から実験で、その影響範囲の確認しようと思ってたんだよ」
「それなら水を蓄える事は出来るかもしれませんが、劇的な解決法にはならないのでは?」
「時間がかかる予定ではある。でもまず貯水池を作って次に農地、村の地下にも埋めてって感じで優先順位の高い方からいけば……」
「ちょっ……ちょっと待ってくれ! ユーマくん、ゴーレム数体を努力して作り出して、という規模に聞こえないんだが⁉」
いや何言ってんだジローさん、という視線を向けておく。
これだけの広さに埋めるって言ってるのに、数体じゃ話にならないだろう。
「これから量産をかけて数百体、大体3年程度で生活を変えられる計算になってる。将来的には千を超えるくらいの数にはなってるはずだよ」
水の精霊が「地下に行きたいんです!」とゴーレムを叩いても、宿した精霊が「入ってますよ」とブロックする。
これなら精霊を宿さない器と違って、劣化し壊れて水を逃がす事はない。
範囲の広さは数でカバーすれば良い、というのが俺の最も有力なプランだ。
確認はまだだし、農地を完全にカバーするにはどうしても年単位で時間がかかってしまうが、なにかに固定された精霊が他の精霊を遮るというのは間違いのない事実だ。
ひとまず小型の貯水池を作れば、時間経過で手に入る水の量は増えていくし、師匠の負担も減っていくはず。
水が貯まらないだけで、雨なんかは降るらしいしな。
俺としてはこれでイケるだろ、という解決策だったんだが――師匠、ジローさん、ガエル、テオドールさん。
なんでみんな、何言ってんだコイツって視線を返してくるんですかね。
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