027話 客人
――王都から村に戻って1ヶ月が経った。
ひとまず食料については王都で得た資金でしのげる目処が立ち、村人の生活を少しばかり改善する事が出来ている。
そして余裕をもたらして恩を着せた事で、俺は村での発言力を得た。
新参者が反発を受けるなんて事は分かっている、今までとやり方を変えよう! なんて事を言うなら尚更だ。
それでもゴリ押すのなら顔の皮を厚くし、住民にとって重要な部分を一部でも握るしかない。
そんな訳で陰口を叩かれながらも、俺は真っ先にひとつの提案をあげた。
「自警団を作ろう!」
自分の村は自分達で守る。
どこの村や町でもやっている当たり前の事だ。
しかしこの村は優れた魔法使いであるソフィアさんに依存しすぎている。
「いざとなったらソフィアに任せればいいだろう」
そんな意識はぶち壊しておかなきゃ話にならない。
「ソフィアさんに何かあればそこで終わりだろ? 負担軽減を考慮すべきだ」
「村の若い男は強制参加でも良いだろう、ワシからも言っておこう」
意外にも協力的だったのが村長だ。
実際に予算と食料を持ってきた、という一件で態度がガラッと変わったのは現金というか現実的というか。
おかげで自警団の設立自体はスムーズにいった――俺含め団員5人だが。
断りきれなかった4人に加えて、積極参加とは言い難い準団員が10名ほど。
王都で買い揃えてきた武具を支給し、定期的に訓練時間を設けたが、たまに遊びに来るコボルトの方が良い動きしてるのが準団員達のやる気を削いでいく。
……まあ最初はこんなもんか。
そして重要な農業改革の方だが、これはまだお預けだ。
季節的な理由で一刻も早くというのはあるんだが、俺に時間がなさ過ぎるのでどうしようもない。
時間の無い理由は――。
「立て、1号機!」
俺の声に答えて2mほどの巨大な影が2本の足で地を踏みしめる。
俺が――1人で、ではないが――作った二体目のゴーレムだ。
体の材料が粘土で出来た比較的作りやすく、安価なクレイゴーレム。
ちなみに二体目なのに1号機なのは、一体目にはアトラスという名前をつけたから。
食事、睡眠、休息も必要ないアトラスは現在、森に作られた井戸と村を往復し続ける無限労働を頑張っている。
そういった労働力がひとつあれば何かと便利、なのでゴーレム試作も兼ねての別枠製造だったのだ。
そして本来想定していたゴーレムの使い道、それに投入する為の最初の一体が今完成した1号機である。
「やっぱり、こちらの系統の方があなたには向いているようね」
「ソフィア師匠は師匠としても一流ですね!」
「本来ならあなたには必要無かったでしょうけどね」
苦笑いしながら言う師匠。
俺はソフィアさんに弟子入りして、魔法を教えてもらっている。
俺には本来必要なかった、というのは魔道具を作る系統の魔法は父さん譲りの能力の副産物だったからだ。
もう一つ使える土を操る系統と違い、感覚だけで全てをこなせる――はずだった。
現在はそうでは無い事が王都で分かってしまったので、急遽ソフィアさんを師匠と仰ぎ、ゴーレム作りの初歩から学び直しである。
でもようやく一体目を作成する事が出来た、これで水不足の解消へ一歩――。
次の段階へ! という時に遠くから俺を探して呼ぶ声が聞こえた。
何か用事だろうか、本当にやる事が多いな! やるしかないんだけどさ!
「ユーマ! 客人だ!」
「ガエル、珍しいなこの時間に畑を離れるなんて!」
「お前の客人だって奴が畑へ来てアレコレ口を挟むんだ、仕事にならん!」
俺とソフィアさんがいるのは村から少し離れた場所である。
ゴーレム製作が失敗していた可能性を考えて、旧マダーニの残骸が残る場所を選んで起動を行っていたからだ。
失敗していた場合、ゴーレム本体や魔力の暴走などで村に被害が出るのを恐れて障害物の多い場所を選んだんだが、そのせいで会話している相手の姿が見えない。
大声で声を掛け合いながら、障害物を抜けてやっと姿を現したのは俺と同世代の村人だ。
不満げに鼻を鳴らしながら残骸を避け、出てきたのは自警団員の1人であるガエル。
普段は農業を担当している一家の長男……だったが、今は引き抜いて村の土地で育てる作物の品種を選別する仕事をしてもらっている。
しかし、俺に客人?
ガエルに続いて残骸の向こうから現れたのは――。
「あなたが余計な陳情をしてくれた方ですか」
切れ長の目に小さい丸眼鏡が印象的な、黒髪の長身の男と。
「意外と早い再会だったな……」
苦笑いのジローさんだった。
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